1.嵐の予感
シーナは目が滑るのを我慢しながら、本を読んでいた。
滑る理由は、目の前にいる幼馴染の話のせいだ。

「だから、シーナ。手伝ってくれない?」
「いや…私、エヴァンスのことほとんど知らないし…ってか寮違うんだけど忘れたの?」
「シーナならいけるって!優等生だし」
「話を聞いてもらっていい?」

ジェームズ・ポッターはシーナの典型的な幼馴染である。
家は隣同士、両親は元々仲が良くダブルデートをしていたこともあるレベル、もちろん部屋は窓越しにお互いに話せる距離にある。
しかし一般的でなかったのは、ポッター夫妻もシーナの両親もグリフィンドール生であったと言うのに、シーナだけがスリザリン生であったという点である。

それは彼女の性格によるものであったが、ここでは割愛する。
知っての通り、グリフィンドールとスリザリンは水と油、犬と猿のような関係だ。
ジェームズとは幼馴染という腐っている割にはちっとも千切れそうにない縁で強くつながっているために仲がいいが、それ以外のグリフィンドール生には縁がない。

「女友達いないの?」
「エヴァンスに嫉妬されるといけないだろ?」
「あ、そう…」

ジェームズ・ポッターもそうだが、シーナの周囲の人間はどうにも自己愛甚だしい部分がある。
別に付き合ってもいない、気にもならない男に自分以外の女友達がいたとしても、大抵の女は気にしない。
エヴァンスもそうだろうとシーナは思ったが言わないでおいた。
彼らの勘違いを治すのには途方もない労力がかかると知っているからだ。
しかも労力見合った結果が得られない場合が非常に多いため、シーナはかなり昔に勘違いを正す行為を一切しない。

シーナは読んでいた本に視線を落としたまま、考えた。
どうしたら、ジェームズが諦めてくれるかと言う点についてである。

「スリザリン生と仲良くしてるグリフィンドール生って結構目立つと思うけど」
「僕は別に気にしないからいいよ」

本当に自己主張の塊ともいえる男だ。
付き合いの長いシーナも流石に呆れて顔を上げた。

本を読むのは諦めた方がいいようだ。
随分と前から分かっていたことではあるが、ここでようやくシーナは手元の本を閉じた。

「ジェームズの話はしていないんだけど…エヴァンスの方」
「それがだ!リリーはシーナのことが気になっているみたいなんだよ!この間のテストで、シーナ、僕と並んで1位だったからさ」

シーナは眉を寄せた、面倒なことになっている。
元々シーナは空を飛んでいるか、本の世界に飛んでいるかのどちらかしかないと両親に揶揄されるくらいに箒と本を愛していた。
特に本に関しては乱読で、魔法界の本もマグルの本も雑誌も新聞も、それこそ誰かの論文や作文まで読みだす始末だ。
幼い頃、毎日ずっと文字を追いかけていたシーナを両親が心配がって聖マンゴに連れて行くぐらいには本を読んでいる。

その癖の一環で、シーナは入学前には既に7年生までのホグワーツの教科書をほぼ読破しており、成績だけはうんと良かった。
そのため、大体のテストでジェームズと共に主席となっている。

「それって恨まれていない?」
「リリーがそんなことで人を恨むわけだろ」
「知らないわよ、そんなの…」


そもそも、シーナはリリー・エヴァンスを知らない。
名前をジェームズから聞くくらいで、顔も知らなければ話したこともないのだ。

ただ、ジェームズにエヴァンスのことを聞いたら、それこそ休日が1日潰れるだろう。
今だってジェームズと話していると徐々に疲労がたまってくる。
いい加減、シーナは彼の話を聞いているのがいやになってきた。

「分かった。とりあえず、私はエヴァンスのことを知らないし、まずはそこからでしょ」
「そうだね!よろしく頼むよ!」

シーナはため息をつきながら、手の中の本を腕に抱いて立ち上がった。
時計を見るともう30分以上、ジェームズと話していたのだ。
随分と疲れてしまった。

呑気に笑っているジェームズを一瞥して、シーナは図書室を出た。
その途中で、適当に話を聞いて善処するということで切り上げてしまえばよかったと気づいた。
本当に無駄な時間を過ごしたものだ、今のことだって気づかない方が良かったかもしれない。

どうにもジェームズといると碌なことがない。
シーナはそう思いながら、地下へと降りた。
prev next bkm
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -