10.君を待つ
談話室を出たジェームズは、マフラーも付けずに佇むシーナを見て、慌てて談話室に戻った。
シリウスやリリーが怪訝そうに呼び止めるのも無視して、彼は自室に戻って地味なグレーのマフラーを引っ手繰って、もう一度シーナの元に戻った。

驚いた顔をしている彼女の首にマフラーを掛けて、シーナの手を荒っぽく掴んで、ジェームズは中庭に出た。
雪は降っていないにしろ寒いので、中庭には誰もいなかった。

「なんでこんなに寒いのにマフラーも付けずに来たんだい!君、寒がりだろ?」
「え…いや、外に出るとは思ってないし…」
「出なくたって寒いだろ」
「いや、別に…まあでも、ありがとう」

毛足の長い毛糸で編まれたグレーのマフラーに鼻先まで埋めたシーナは、擽ったそうにはにかんだ。
彼女の細い指先と同じくらい、ジェームズの頬は赤く染まっていた。
こうして落ち着いて2人きりで話すのは、何年振りかわからない。
気が付いたら、こういった時間も減ってしまっていた。

マフラーからは、知らないコロンの匂いがした。
昔は、草の匂いや木の匂いがしたものだけど、彼も変わったのだろうと感じた。

「ジェームズ、ごめんなさい。この間の件は、私が悪かったわ。本当に今度から気を付けるから、許してもらえる…?」

昔は喧嘩をしたら、基本的にシーナが面倒になって折れていた。
そうすることが最も手っ取り早くジェームズの機嫌を取れるからだ。
だけど今は違う。
適当な言葉を使って謝ったとしても、ジェームズは許さなかっただろう。
それはシーナにも分かることだった。

ジェームズはハシバミ色の視線をシーナに向けていた。
彼女の伏せられた瞳や、組まれた指先が彼女の不安を現すように震えていたのを見ていた。

「いいよ。僕こそ、強く言いすぎた。シーナも分かっていたことだろうに」
「ううん、ジェームズから言われて、本当に気づいたの」
「…何に?」

伺うようにちらりと上目で見られたジェームズは、心臓が高鳴った。
恥じらっているのか、すぐにマフラーに口元を埋めたり、指先でマフラーの端を弄んだりと落ち着きがない。
ただ、小さな行動の一つ一つが意味深で、ジェームズはシーナから目が離せなかった。

ややあって、シーナのオリーブグリーンの瞳はジェームズの丸い目をきちんと捉えた。

「ジェームズが本当に私のこと心配してくれて、大切にしてくれてるってこと」
「ああ…うん、そうだね」

どうしてそこまで気づいておきながら、恋愛に発展しないんだ!
そう言いたくなるのを堪えながら、ジェームズは引き攣った笑みを浮かべた。
鈍感なのは理解していたし、相当な長期戦になるだろうことも想定していたけれど、心が折れそうになる。

シーナが怪我をしないようにするために、どのようなことに気をつけて行動するのか、万が一、怪我をした時の対処法を真剣に話している隣で、ジェームズは脱力した。
幼少期からの付き合いで、シーナが真面目で、でも他人の心の動きに鈍いのは良く知っていたことだ。
長期戦になるのも覚悟していた。

「あ、でもやっぱりクィデッチはやめられないかな…」
「ダメダメ、それはやめちゃダメ。シーナがいなくなったらスリザリンなんてちっとも強くないんだからやりがいがないね」
「それはどうも!決勝戦で待ってるから」

先のスリザリンとの試合では負けたが、この後のハッフルパフ戦で勝てば、決勝戦でスリザリンと当たる。
箒に乗って大空を飛び回るシーナの姿が、ジェームズにとっての初恋だった。
だからこそ、クィデッチをやめるだとかそう言うのは求めていない。
嬉しそうに笑って次の試合で待つと言ったシーナに、ジェームズも笑い返した。

諦めたわけではない、ただこれだけ鈍感なら誰がアタックを掛けたとしても当分の間は大丈夫そうだ。
ジェームズはシーナの手を引いて、ベンチから立たせた。
人気がないだろうと言う理由で連れてきたは良いものの、やはり寒い。
シーナが風邪を引いたら大変だ、真面目な彼女はまた心配をかけたと大騒ぎするだろうから。
prev next bkm
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -