9.類は友を呼ぶ
純粋にすごいと思った。
あの場で咄嗟にシーナを助けに行ったことも、その後彼女を叱咤したことも。
今いる彼女に対して、シリウスには到底できそうにないことだった。
それを、付き合ってもいない幼馴染に対して行うなんて、全く持って凄いことだった。

ただ、当の本人は酷く落胆していて、じめじめといじけている。

「なあ、ジェームズ。いい加減にしないか?」
「シーナのあんな顔、初めて見たんだ…絶対嫌われたよ…」
「いや、別にお前嫌われるようなことしてないだろ。全部正論だし」

試合の後、シーナを医務室まで送り届けたジェームズは、世界の終わりかのような顔でチームメイトの元に戻ってきた。
他のチームメイトはそれを気にしなかった。
親の敵のように嫌っているスリザリン生を咄嗟にとはいえ助け、その上、そのせいで試合に負けたのだ。
恐らくそこに負い目を感じているのだろうとチームメイトの殆どは考え、ジェームズに試合は気にするなと声を掛けた。

シリウスだけが、ジェームズが消沈している意図を察していた。
そしてどうしてそうなったのかを、聞いたのである。
詳細を聞いたうえで、シーナのことを叱り倒した、酷く傷ついた顔をされたと言っていたが、全容を知ったシリウスからしてみれば、ジェームズの言ったことが正しいと感じた。

「シリウス、君、女に子に正論が通じたことある?」
「…あんまりないけどな」
「そう!女の子は総じて正論が通らないことが多い!」

ただ確かに、女にはあまり正論が通じない。
感情論で動く子が多いので、シリウスも辟易とすることがあるくらいだ。
少なくとも、シリウスの周りの女の子は大体そんな感じだった。

反論できなくなったシリウスに代わって、今まで静かに本を読んでいたリーマスが顔を上げた。
リーマスもまた、ジェームズの恋路は聞いていたが、正直な話、さっさと告白すれば終わりだろうと考えていたため、口を出すことは殆どなかった。
ただ、ここまでジェームズがうじうじとベッドの上で同じような話を繰り返し、意見を求めてくるのはうっとおしい。

「でも、カヴィンはそういう人じゃないよね?大体、ジェームズ、君が好きになった人は、シリウスの彼女たちみたいな顔ばかりの子じゃないって話じゃなかった?」

リーマスはシーナのことをあまり知らない。
ただ、リリーと隔てなく接する姿や真摯に学問に勉める姿は、シリウスの彼女にはない知的な子であることが伺えた。
今回のことだって、きちんと彼女なりに考えたうえで、ジェームズの元に謝りに来るのではないかとすら思う。
それくらいにシーナはきちんとした女性に見える。

その通り!と嬉しそうに言うジェームズに辟易としながら、赤の他人がそう思うのに、幼馴染のジェームズはそう思っていないなんて、恋とは随分と厄介なもののようだとリーマスはしみじみ思いながら、サイドボードに置いていたチョコレートの包装紙を開いた。


リリーはグリフィンドール寮の前にいたシーナをみて、驚くと同時に安堵した。
この間の試合の際に、随分派手な退場をした彼女は意外と元気そうだった。

「シーナ!あなた、大丈夫だったの?」
「うん。ジェームズが助けてくれたから。…彼、いる?お礼を言いたいのだけど」
「ああ、居たわね。ちょっと待ってて」

リリーは先ほど出てきた談話室の中で、萎びたマンドレイクのような姿でソファーに座るジェームズを見た。
シーナのことを助けたことは大いに褒められることであるが、リリーは落ち込みっぱなしの彼に声をかけることができなかった。
シーナならもしかすると、と思ったリリーは談話室に戻り、ジェームズに声を掛けた。

シーナが来ていると伝えるとジェームズはこの世の終わりと言わんばかりの顔をした。

「何、シーナが来るとまずいわけ?」
「あー、リリー。気にしないでいい。ジェームズ、さっさと行けよ。シーナを寮の前で待たせるのは可哀想だろ」
「どういうことよ」

ジェームズの傍に座っていたシリウスが面倒くさそうにそう言って、彼の肩を叩いた。
スリザリン生にとって、グリフィンドール寮の前に長時間経っているのは視線が痛いことだろう。
シリウスは詳細を聞こうと詰め寄るリリーを宥めつつ、全く動こうとしないジェームズの背中を強く叩いた。

そこまでされてようやくジェームズは重い腰を上げた。
そして、のろのろと談話室を出ていく。

「…何よ、あれ」
「普段喧嘩しても折れててくれた幼馴染を、思ったより傷つけたことを気にしてる馬鹿がアレだ。…ああ、言っておくが、今回ばかりはジェームズの言い分が正しかった」
「ふうん…まあ、シーナがお礼をっていうくらいだし、そうなんでしょうけど。ショック受けすぎじゃない?」
「まあ、色々あるんだ」

そうなの?と赤毛を揺らしながら小首を傾げるリリーを見て、シリウスは類友という言葉を思い出した。
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