Yell
騒がしい昼休みだが、体育館裏は更に騒がしい。
ただそこは、人目につくことが滅多になく、その上日陰になっていて涼しかった。
コンクリートの叩きしか椅子になるものがないことと、靴に履き替えないといけないことがデメリットではあるが。

「マジか。三好と…」
「ええ。あの人は覚えていらっしゃらないようでしたが」
「お前それ…あー、まあいいや」

珍しく玲に呼び出された波多野は、彼女からつい先日の放課後の話を聞いて驚いた。

波多野も玲も、昔の仲間を見つけるために努力をしていた。
2人は思ったよりも近くに住んでいたため、他のメンバーも近くにいる可能性があるのではないとかと考え、自分の足で行ける距離にはできる限り出向いたり、わざわざ登下校の電車を各停にしたり、時間をずらしたりして過ごした。
しかし、その努力もむなしく、今まで甘利以外の誰にも出会うことなく終わっていたのだ。

それがまさか、甘利の友人として三好を紹介されるとは思ってもみなかったのだ。
しかも、2人とも記憶がない状態なのにそれなりに友好関係を気付いていることにも驚いた。

「まあ、考えてみれば自分の能力に見合った相手を見つけようとするよなあ、そりゃ」
「それなんですよ。だから、もしかして甘利さんの友達に他のメンバーがいるかもしれないと思って」
「あり得る。探れそうか?」
「はい、三好さんの友人の中にもいないか探ろうと思っています」

俯いてペットボトルを握りしめている玲を、波多野はちらと見た。
細い指は水のペットボトルを歪に凹ませている。

玲が彼に出会ったとき、最初に問いかけた内容を波多野は未だに覚えている。
“三好さんを知りませんか”
波多野と玲がばったり出くわしたのは、ショッピングモールの中だった。
お互いに保護者に手をつながれた状態ですれ違ったのだ、お互いにすぐに気が付いた。
2人とも歩みを止めて、波多野が玲?と言ったのをきっかけに、玲が泣きそうな顔をしてそう言ったのだ。
波多野は首を振って答えた、その時の悲壮そうな幼い玲の顔は忘れられない。

「玲はどうすんだよ。三好のこと」
「覚えていないなら仕方ありません」

その後、波多野と玲は小学校で再開し、お互いの過去について話した。
その中で波多野は、彼女が三好に執着する原因を知った。
まさか、任務で夫婦になっているとは思いも縁らなかったが、何よりも任務云々抜きにして、愛し合ってしまっていたことを知ったときには頭を抱えそうになった。
元々三好が玲に気を寄せていたことは知っていたが、まさかそこまで深い関係になっていたとは。

玲はずっと三好を探し続けていた。
聞けば、死に際に何も伝えられなかったことを今も引きずっているとのことだった。
もう一度三好と会うことができたら、絶対に伝えたいことがあるとそう言っていた。

「諦めんのかよ」
「諦めるなんてとんでもない。もう一度やり直します。今度は、私から」

玲は顔を上げた。
三好が前のことを思い出すとも限らないが、玲は諦めるつもりはなかった。
思い出さなかったとしても、一緒にいられるだけでいい。
今度は玲の方から、三好に振り向いてもらえるように努力をするつもりだ。

波多野は男らしい玲の一面に驚いたが、そのあとすぐに笑った。
怜悧で淡々としているように見えて、豪胆な部分のある女だ。
過去に三好に一泡食わせただけのことはある。

「頑張れよ」

波多野は玲にそう言った。
玲はもちろん、と笑って立ち上がった。
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