befinnin of Endroll
トム・リドルは間違いなく魔法省執行部部長であり、尚且つ、非常に優秀だった。
魔法省大臣が、ようやくリドルが重い腰を上げたと両手を挙げて喜ぶくらいには実力があった。
闇の陣営にいる純血家の当主たちに声を掛けて回り、謀反するように仕向け、最終的にあちら側の陣営が崩壊するという最期を見届けたハリーは泣きそうになった。
自分たちの今までしてきたことが何だったのか分からなくなるほど、早期の解決に至ったのである。

「まあ…ベラトリックス姉さんは盲目的なところがありましたし、ロドルファスは基本、絶対服従していましたから。僕じゃあ何を言っても聞かない人ですし、あの方は…」
「お前な!」
「一応、父からリドルさんのことを聞いていましたから、僕は中立なんですよ…戦うのは苦手ですしね、兄さんと違って」

ハリーはシリウスに連れられて、ブラック本家に訪問していた。
トム・リドルについて、詳しく話を聞かなければいけない。
彼は確かに闇の帝王ではなかったのかもしれないが、結局彼の名前がアナグラムとして使われた事実に変わりはない。
リドル氏の言い分は昔に使っていた名前とのことだったが、昔に使っていた時点でクロの可能性は消すことができない。

そのためリドル氏に尋問をと思ったのだが、魔法大臣がやめろと散々に言ったので、完全なプライベートで聞くしかなかった。
長らく拒否され続けていたがしつこさが功を奏したのか、場所と人を指定の上での許可が下りた。

「何でレギュラスが立会なんだ」
「さあ…僕もあまりお会いしたことはないんですが」

顎に指を添えたレギュラスはのんびりとした口調でそう話した。

シリウスと1つ違いの弟とのことだが、あまりにも似ていない。
行動的ではっきりと物を言うシリウスとは対照的に、レギュラスと言う人間は随分と物腰の弱い人だとハリーは感じた。

『わたしに立ち会えと言ってるんだろう。あの方は』
「ああ…父上の先輩だとおっしゃっていましたね」
『ああ。付き合いも長い…アブラクサスのところよりはまだここの方が話ができると思われたんだろう』

レギュラスの後ろにあった絵画の中で椅子に座っていた男性が、静かに動き出した。
とても綺麗な部品を集めてバランスよく配置したような精悍な顔立ちは、シリウスとは少し印象が違う。
最初から出来上がった美しさというよりも、丁寧に組み立てられた繊細な美しさ。
今まで見てきたどの男性の顔よりも、不思議な印象を与えてくる。
ハリーは食い入るように絵画を見ていた。
絵画の中の人は、ハリーの視線など見向きもせずにレギュラスにだけ話しかけていた。

シリウスは寡黙な父が話している姿を見て、彼が珍しく喜んでいるのを感じた。
苛烈で豪胆な母となぜ結婚したのかさっぱりわからないくらいに寡黙で何を考えているか分からない父だと思っていたから、シリウスは驚いた。

「大正解。アブラクサスに立ち会われてもね」
『お久しぶりです、リドルさん』

静かすぎる登場に、シリウスやハリーだけではなく、レギュラスも驚いたようだった。
明るい室内で見ると、リドルの姿ははっとするくらいに綺麗だ。
細身の身体にぴったりと合ったハイカラーのシャツに、スラックス。
一分の隙もないような姿の隣には、戸惑いを隠しきれていない女性…奥方の咲子が佇んでいる。
困惑顔の咲子・リドルはぴったりとリドルに寄り添ったまま、絵画を見上げていた。

ブラック家はシリウスが嫌煙するほどの純血主義で、マグルを家に上げるなど言語道断なのだろう。
それはレギュラスもオリオンも同じはず。

『初めまして』
「初めまして、オリオンさん。リドルからお話は聞いてました」

話かけたのはオリオンだった。
涼やかな目元は細められていて、微笑んでいるようにも嘲笑しているようにも見える。
純血家の当主として、マグルの女性にどのような態度をとるのか、ハリーもシリウスも気になっていた。

2人は一見朗らかに話をしている。
オリオンの感情は読みにくい、微笑みは作られたようにしか見えないし、声音も淡々としている。

『どのようなお話で?』
「ええ、兎のマグカップを勧めたとか。結果として黒猫のマグカップが私の手元にやってきましたが」
『ああ…ありましたね、そんなことも。わたしは冗談で言ったのですが』

何の話かとシリウスとハリーは首を傾げた。
兎のマグカップなどというファンシーな品物はオリオンやリドルにはちっとも似合わない。
咲子にならまだ似合うかもしれないが、それを選ぶ2人の姿など想像もできなかった。

真顔で冗談だったというオリオンに、リドルが不機嫌そうに口を挟んだ。

「会計まで済ませておいて何が冗談だ」
「え、それどうしたの?」
『わたしの愛用品になりましたよ』

微笑んだオリオンの言葉に固まったのはシリウスだけではない、レギュラスまでもが目を丸くした。
2人にとってのオリオンは、どうにも厳格な父のイメージしかなかった。
純血家の主として厳しく魔法使いの正しい在り方を説いた父が、兎のマグカップ。

全く想像がつかないし、一体どうしてそんなものを買いに行くことになったのか分からない。
咲子は苦笑いしながら、そうなんですか、と答えるばかりだった。
リドルは呆れたようにオリオンを見て言った。

「オリオンの方がアブラクサスよりも話は通じるが、正直な話、両方とも常識は通じなかったからな」

ため息をつきながら、リドルはようやくレギュラスの隣の席に腰を下ろした。
恐らく咲子は純血家の前当主に敬意を示したいと考えたのだろうが、オリオンの本心はそんなことを気にしていない。
何といっても、リドルが学生の頃は彼が気にしていたマグルの女性…咲子に興味津々だったのだ。

純血の家の跡継ぎであるから滅多なことは言えないが、オリオンはマグルに興味があった。
彼もまた、父親にマグルは卑怯で下賤であると教わってきた。
しかし、オリオンは自分の目で見たことしか信じない性格だった。
純血の魔法使いが書いた魔法の歴史書の他に、こっそりマグル生まれの魔法使いが書いた歴史書、そしてマグルの歴史を調べた。
結果として彼は純血主義であったが、その過程はどんな純血よりもマグルに関心と理解を持っていた。

『わたしは確かに純血を支持しましたが、それはその振る舞いや矜持の部分の話であって、マグルだろうが純血だろうが、私は美徳と実力がある識者としか関わるつもりはないので。両方が兼ね備えられていない者は純血であったとしても交流を持つつもりはありません』
「…えっと」
「一般常識やお世辞なんてものはオリオンに求めちゃいけない、咲子。そこは諦めて」

リドルに続いて彼の隣に腰を掛けた咲子は、オリオンの話を聞いて困惑した。
結局オリオンは咲子を認めるのか何なのかさっぱりわからなかったからだ。

咲子がオリオンに丁寧な挨拶をしたのは、彼のことを純血家の高貴な当主であることを理解した上で、マグルである自分がその家に足を踏み入れることを許してもらうためだった。
リドルが前もって話をしてくれていたとはいえ、初対面のマグルが家に上がり込んだのだ。
彼がそれを心のどこかで嫌悪している可能性があると咲子は考えていた。
意外にも彼は気さくであったから安心できるかと思ったのだが、マグルであるうんぬんよりも彼は優れた人間を好む人であった。
咲子は、結局認めてもらえたのかどうなのかわからなかったし、まさか初対面でそんな話をされるとは思わなかった。

何といったらいいのか分からずに固まる咲子に、リドルは静かにそう言った。
確かにオリオンは純血家の当主の中で最も公正であったが、潔癖でもあった。
己の認めたレベルに到達していない人間を人間として取り扱わない部分があった。
曖昧な感情や情けを殆ど信じることなく、ただ自分の見たもの、感じたことだけで行動する。

「オリオン、お前がどう思っていようが構わない。だが、賢いお前だ、俺の言いたいことは分かっているだろう?」
『もちろんです。奥様がいらっしゃっていても、わたしは構いませんよ。久しく連絡の取れなかったあなたがいらっしゃってくれることを天秤にかければ、そのくらいは大した問題ではありませんからね』

オリオンは咲子のことを疎ましく思うことはない。
良くも悪くも、彼は咲子と会うのは初めてで、彼女がどういう人間であるのかを今から見極めるのだ。
見極める間もなく追い出すようなことはしない。
静かに目を閉じたオリオンを見て、リドルはようやくシリウスたちを見た。

「待たせたね、本題だ」

長い脚を丁寧に組み直して、リドルは微笑んだ。
ちっとも緊張が解けないのは、彼の笑顔が好意的なものでも余所行きのものでもなく、ネズミを追い詰めた蛇がこれからどうしてやろうかと言う余裕と残虐さを持ち合わせていると直感したからであった。
自分たちが正しいと信じているハリーとシリウスの感覚をリドルは表情だけで奪い去った。

幸いなのは、彼が咲子を伴ってきてくれたことである。
彼女だけは曖昧な微笑みを浮かべて2人を見ていた。
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