Hogwarts
手を引かれて、少し歩くとすぐに足元がぐにゃりと泥濘に嵌ったかのような感覚に陥った。
はっとして顔を上げようとしたが、すぐにルーピン先生のコートで目を覆われた。
少し埃っぽい匂いがして、目を瞑った。

ものすごく早いジェットコースター、尚且つ、車体が360度回転あり、上下逆になることもあるコースを止まらずに3回くらい連続で乗せられている気分だ。
はっきり言おう、気持ち悪い。
足が地面に付いた感覚はあったが、そのまま膝まで崩れ落ちた。
というか、普通に吐いた、気持ち悪い。

「大丈夫?」
「大丈夫じゃないです…、あのほんと、無理なんで…待って…」
「時間があまりないから…ごめんなさいね」

ごめんなさい、と言っている割には扱いが荒い。
私の腕を引っ張って、今度はニンファドーラさんが肩に私の腕を乗せて起き上がらせた。
まだ足元がおぼつかない。
ふらふらのまま、木の根で埋め尽くされた湿った地面を歩かされた。

15分くらい無言で歩いただろうか、もう限界、と思い始めて5分くらいで、俯いて地面ばかり見ていたのに目の前が明るくなった。
ふと顔を上げると、大きな城が聳えていた。
いつの間にか日が暮れていたらしく、城からはたっぷりとランプの灯りが漏れている。

「あれがホグワーツよ」

綺麗な城だった、上を向いてもてっぺんまでぎりぎり見えるかというところ。
古い記憶の中の映画の白よりもずっと大きくて、荘厳だった。
今までも疲れも吹き飛ぶような一瞬だった。
目を丸くして驚いている姿に苦笑いしたルーピン先生が、お疲れのようだし早く中に入ろう、と促してくれるまで、私はずっと城を見ていた。

城の中も素晴らしい。
ホールからエントランスに入ると、広い吹き抜けになっていて、その上に動く階段があった。
左右にはその他の階段、動く絵画たち、浮いているシャンデリア。
ずっと見てみたかった景色だ。

きっとリドルもこの風景に感動したに違いない。
戦時中の荒れ果てた灰色の建物ばかり見ていたから、こんなに綺麗なところがあるのかと思ったに違いない。
なんだか嬉しくて泣いてしまいそうになる。

「突然連れてきてしまって申し訳ない。とりあえず座って…お茶は飲めそうかな?」
「はい。ごめんなさい、私魔法慣れしていなくて…素敵な場所で、その、感動してしまって」
「いや…君は本当にマグルなんだね」

3人は私がきょろきょろと辺りを見渡している姿を、静かに見守っていてくれた。
ある程度落ち着いた辺りで、手ごろな空き教室に連れて行かれて、座らされた。

ルーピン先生は家の庭にいた時は厳しそうな敬語だったのが、いつの間にかなくなって少し話しやすくなっていた。
杖を振るだけで出てくるお茶に感動しながらも、それに口を付けた。

「そうですね。私は魔法って素敵だなと思うんですけど、リドルは家で魔法を使いたがらないので…見るのも新鮮です」
「ええ?」

ええ?と困惑気味な声を出したのはニンファドーラだった。
ん?と疑問に思いながらもいつの間にか置かれていたお菓子に手を伸ばした。
ふとルーピン先生の方を見たが、彼も微妙な顔をしている。
疑うような、警戒するような。

クッキーを口に運んで、はっとした。
忘れそうになっていたけど、ヴォルデモートになるはずだったリドルはマグル嫌いで有名なスリザリンの末裔だ。
それがなんでマグルの女と結婚して一緒に過ごしているんだ、という疑問。
彼らにはそれがあるのだろう。
私もリドルが学生の時に同じように考えたことがある、もうずいぶんと昔のことで忘れかけていたけれど。

ただ、それに関しては知らないふりをしておこう。
リドルがヴォルデモートになるはずだったということを知っているのは、私とリドルだけだ。
リドルにはすでに、もともとの原作の話をしたことがある。
彼が道を踏み外してヴォルデモートになる、その原作の話を。
魔法界で今のリドルがどう思われているのは知らないが、今までの反応を見る限りでは、マグル嫌いとは思われているらしい。

「あなた、本当にトム・リドルの妻なの?」
「そうだと思いますけど…同姓同名の別人の可能性はあるんですかね?」
「可能性としてないわけではないと思うが…」

首を傾げ始めたルーピン先生とニンファドーラを見て、むしろこちらが不安になってきた。
間違いで連れてこられた可能性…は、たぶんないけど。
リドルがヴォルデモートではないかと疑われることは、そこまでおかしなことではないような気がする。
卒業したばかりの頃に、グレそうになったけど踏みとどまったと言っていたし。
踏みとどまったってことは、もう踏み出せるくらいには準備してたのか、と聞いたら曖昧に濁されたくらいだ。

ところで、リドルがヴォルデモートでないとしても、今それに近い人物がいるということだ。
でなきゃリドルつながりで私が連れてこられることもないだろう。
リドルがやっていないとしたら、いったい誰が?

「もともと私に何を聞きたかったんですか?」
「君は闇の魔法使いについて知っているか?」
「今は魔法界も物騒だから、という程度ですけれど。リドルは魔法のことを詳しく話すことはしませんけど、危ないことがあるとすぐに話しますから…」
「トム・リドル氏が闇の魔法使い…ヴォルデモートなのではないかと、こちらは思っている。しっかりとした根拠もあってのことだ」

想定内のことだ。
根拠というのは名前のアナグラムのことだろうか、それとも別の何かか。
どちらにしても、私的にはリドルを信じているから、彼がヴォルデモートだとは決して思わない。

彼らも気づいているとは思うが、リドルがヴォルデモートで、私がリドルの妻で尚且つマグルということはあり得ない。
私が嘘をついていて実は純血の魔女である、又はリドルが嘘をついていて、私が騙されているかになる。
前者はあり得ないので、私が考えるのは後者の可能性くらい。
まあ、どちらにしてもあり得ない。

「私から言えるのは、あり得るとすればリドルがずっと嘘をついて結婚生活を営んでいたって可能性ですけど…まああり得ないでしょうし…」
「あなたがマグル生まれだっていう証拠はあるんですか?!」
「いや、それは分かりませんけど…。むしろそういう証明ができるのって魔法使いくらいなんじゃ…」

いきなり声を荒げたハリーくんに、私は少し驚いた。
彼にとってみれば、あまりにも能天気な発言に聞こえたのだろう。
今の原作でどうなっているのかは定かでないが、彼の両親は既にこの世にいないかもしれない。
原作通りであれば、怒っても仕方がない場面ではある。
魔法の世界に来られたことではしゃいでいるのが申し訳なくなってきた。

ハリーを制しながら、ルーピン先生が穏やかに答えた。

「確かに、あなたはマグルのようだ。でなければ、いい女優になれると思うね。…ただ、リドル氏に聞きたいこともある。あなたがここにいれば、彼はここに来るんじゃないかと思っていてね」
「ああ…なるほど。納得しました。大人しくしてますね」

大人しくしてるつもりだけど、こんなやり方でリドルを連れてこようとするとは。
あまり彼のことを知らないんだろうなと思う。
このやり方、リドルは激怒すると思われる。
普段から私にだけは魔法に触れさせたくない、知られたくない、となぜか思っているらしいリドルの逆鱗に触れる。

私的にはラッキーなので黙っておいて、しおらしくしておくけど…書置きを残した時点で共犯扱いされるだろう。
流石に今回は懇々と怒られることを覚悟した方がよさそうだ。
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