君と僕のその後
某道某市のバー。
その店の前で、名無しさんはどうするか迷っていた。

あの橙色の暴動があって、怪我をしてから2か月以上ここに来れずにいたのだ。
怪我、というのもあったが何より、匂宮の本家のことに時間がかかった。
橙の騒動が殺し名の上部をひっかきまわしたおかげで、匂宮はてんてこ舞い。
零崎の力が衰えたせいか、他の殺し名が匂宮の分家と手を組み、クーデターが起こったり。

すべてを丸めこむのに時間がかかったのだ。
病み上がりでもあったので、更に大変だったことは言うまでもない。

「…うーん、なんていえばいいのよ…」

結局、橙色の傷を受けてから、曲識に会うこともなくここまできてしまった。
何といって会えばいいのか、分らずに昨晩、出夢と寝ないで作戦を練ったのだが、いい策は思い浮かばず。
寝不足のまま、名無しさんは店の前に立っていた。

中では何やら騒いでいるし、入りづらいったらない。

「名無しさん…?お前そんなところで何やってるんだ」
「っ!?曲識さん…」
「もう怪我は…いいんだろうな。結構時間が経っているからな」
「全然大丈夫です!時間がかかったのは、ちょっと…家の方が…ですね」

どこかにでかけていたらしい曲識が店の前に立っている名無しさんに不思議そうに声をかけた。
名無しさんは店の中にいるとばかり思っていたため、不意打ちすぎて、キャラが分らなくなっている。
皆無の口調でいればいいのか、名無しさんの口調でいればいいのかすら決めていなかった。

「そうか…、結局序列はどうなったんだ?」
「それは変わってないです。というか、3位と4位の差がありすぎるので、いれかわろうとしても肩の荷が重すぎますし。…一旦入れ替わったんですけど、闇口と匂宮からの猛攻撃でもとにもどりました」
「なるほどな…悪くない」

薄野には零崎の地位は重かったらしく、三日天下で終わった。
京都府内で零崎の存在が確認できなくなったため、他の殺し名がこぞって3位の地位を奪い合ったのだが。

匂宮、闇口は3位には相当なプレッシャーを常々かけている。
ただ零崎には一族と言う割には本拠地もなければ、メンバーもほとんど集まることがない霧のような一族であったため、その重圧から簡単に逃れていた。
だが、他の一族はそうもいかず。
本拠地に一点重視で重圧をかけられ、どこも三日天下。
結局存在自体は希薄だが、零崎が3位ということで収まったのだ。

「とにかく、名無しさんが無事でよかった」
「!?…っあ、あの、その…、えっと…ありがとうございます」

本当に脈絡のない人だと、曲識の腕の中で名無しさんは苦笑するしかなかった。
今まで普通に喋っていたのに、突然抱きしめて。
耳元で囁いたりするから。
名無しさんは耳元まで真っ赤になっていた。

何といっていいか分らなかったが、一応、お礼だけいって。
なんとでもなってしまえばいいと、曲識の背に腕を回した。

「礼を言うのはこちらだろう。名無しさんのおかげで零崎は中心部は無傷だったからな。ありがとう」
「双識さんのは偶然ですよ…あれは皆無の仕事でしたから」

偶然ではあったが、まあ、すこし調べた。
ちょっぴりの嘘は混ざっているが、別にいいだろう。

すこしでも話を長くしたかった。
だけど、緊張しすぎてそれすらもできない。
秋のはじめなだけあって、もう若干寒いから、曲識の体温が心地よいとか。
だから長く居たいけど、心臓に悪すぎた。

「…ところでお前ら、そんなことしていて僕らが気付かないとでも?」
「げ」
「っえ…、」

抱きすくめた腕を少し緩めたかと思うと、曲識は店のドアを睨んだ。
僕ら、と言ってるが、名無しさんは正直そんなところにまで気を回していなかったから気付いていなかった。

曲識は、名無しさんを後ろへ回して、店のドアを開けた。

「…アス、レン、お前らもか…」
「いやぁ、いいなぁと思ってね」
「ずるいっちゃね、トキ」

上から、双識、軋識、人識、伊織の順でこっそり覗いていたようだ。
名無しさんは顔から火を噴くような気分だが、曲識は呆れたように4人を見据える。
さっさと中に入る様に促して、店の鍵を閉める。

「名無しさんちゃんだよね?今は」
「そうですね」
「一族の長男として、君にはお礼を言わなくてはね。ありがとう」
「いえ…本当に気にしないでください」

生き残った零崎の消息が一気に消えたことは知っていたが、全員曲識のところにいたようだ。
あと、見たことのない女の子が一人、増えている。

双識にお礼を言われながらも冷静にそう思った。

「なぁ、出夢元気?」
「ん?うん、元気よ。家に置いてくるのもあれだし、一応連れてきているけど、今はホテルにいるわ」
「そっか。ならいいんだ」

隣に座っていた、人識がふとそんなことを聞いてきた。
前に出夢が言っていた奴が人識であったことを名無しさんはなんとなくわかっていた。
お互いに距離を保って未だに仲がいいようだ。

「また遊んであげて。理澄がいなくなってからやたらに寂しいみたいだから」
「かはは、あいつ案外ナイーブだよな」
「強いからこそ、よ。理澄が今まで背負ってきた弱さが出夢に返ってきているから今度はすこし付き合いやすいかもね」
「へー、そうなのか。そういや妹には結局会わず終いだったな」

可愛いって自慢してたのにな、と残念そうに笑う。
その隣で、女の子が全く話についていけずに、双識に助けを求めていた。

「ところで名無しさん、これからお前どうするんだ?花も気にしていたが」
「あ、…ごめんなさい。本格的に本家が動きだしてしまっていて、こっちには当分戻れそうにないんです…。遊びに来ますよ」
「そうか…」

こっちにいられるのも3日のみという結構ハードなスケジュールだった。
曲識は表情は変わらないが、本当に残念に思っているようだった。
名無しさん自身も正直家に戻るのは嫌なのだが。

零崎を助けたことは本家の上層部にもばれていて、こってりと怒られた。
家出をしたその理由についても知られてしまっていたたため、家を出ることすらままならない生活がまた始まってしまい。
この3日間は分家の仲の良い人たちに手伝ってもらい、3日だけ日をもらったのだ。
しばしの別れを伝えるために。

「花くんにも伝えておいてください。流石にここに来てもらうわけにも…いかないですしね…」
「大丈夫だとは思うが…まぁ、花が勝手に死にかけるだろうな」
「気弱ですからね…」
「一応連絡は入れてみるか…悪くない」

同じ従業員である花は気が弱いので、零崎が集まるここに来れるほど度胸がないというのが2人の見解だった。
一応、携帯に連絡を入れたところ、震える声で行きます、ということだったから驚きだ。
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