“レディ・スカーレット”
ヒソカVSクロロの戦いが天空競技場で開かれるというニュースは、ハンターたちの中でも大きな噂となった。
2人のことを知っているハンターの中には見に行こうという酔狂な人間も少なくなかった。
元々ヒソカとこの場で戦ったことのあるゴンがその戦いに興味を示すのは当たり前のことだったし、想定内のことだった。
だからキルアはゴンのためにこの試合のチケットを高額で手に入れた。

クロロが強いのはすぐにわかった、隙はない、自分の能力への深い理解、ヒソカの行動の先読み、緻密な計画がなされた試合だった。
ヒソカと戦う上で、純粋な戦闘能力では勝てないとクロロは理解していたのだろう、直接対決を避けるように様々な策を重ねつつ、ヒソカの攻撃をうまく避け続けた。
彼の頭の良さと、それに引け劣らない基礎体術の素晴らしさ。
クロロ・ルシルフルが一級の犯罪者であり続ける理由がよく分かった。

ただ、それすらもヒソカは上回ろうとしていた。
クロロの計画の穴を抜けて、彼との直接対決まで至ったのである。

「…“レディ・スカーレット”?」
「俺知らねー、なんだそれ」
「お兄ちゃん知らないの?不思議な力を持った魔女が、困った人たちを助ける話!“レディと猫”は一番有名なお話だよ」

直接対決になろうとしたその時、クロロは動きを止めた。
何かをヒソカと話しているようだったが、全く聞こえなかった。
2人が警戒しながらも向かい合っている最中に、突然音楽が流れ始め、歌まで聞こえてきたのだ。
ヒソカも驚いた顔をしていたし、審査員も観客も困惑し、ざわついた。
そのざわつきもすべて包み込むように、音楽は鳴り響き、遠くからテノールの声が聞こえる。

キルアはその曲を全く知らなかったが、隣にいたゴンとアルカは知っていたようだ。
“レディ・スカーレット”という物語らしい。
携帯で内容を調べてみると、確かにそのような本があり、ミュージカル化もされているようだった。

「これ、念だよね」
「ああ。めっちゃ円の半径、広いし…どういう能力なのかわかんねーけど、かなりの使い手だろ」

会場の広さを覆う念、ヒソカは既に術者を探し始めているが、これだけの観客がいる中で見つけるのは難しいだろう。
クロロはヒソカからの攻撃を避けながらも、台詞を歌い続けている。
儀式に近い何らかの念だろうが、曲が終わった後に何が起こるのかさっぱりわからない。

ヒソカはクロロに攻撃するのをやめ、能力者を探すことに力を入れることにしたらしい。
戦闘らしい戦闘はしていない。

『おっと?一曲終わったか?』
「“お茶会を始めよう、レディ・スカーレット!”」
「…何なんだい、コレ」
『本当になんなんだ!今度は乱入だぞ!?』

アルカは無邪気に次の曲は“秘密のお茶会”という名前であると教えてくれた。
どうやら彼女はレディ・スカーレットのファンらしく、話も曲も事細かに覚えているようだった。
リング上には金髪の青年が立っている…ヨークシンで見たことがあるから間違いなく蜘蛛の一員だ。

「あのお兄さんは、ディランだねー」
「話がわかんねー…」
「えーっと、もともとこの物語はね、お兄ちゃんと妹の話なの。厳しいパパとママがいて、お勉強ばかりしなきゃいけないのが嫌だったんだって。それでね、猫になったレディ・スカーレットが2人の前に現れて本の中の世界に連れて行って冒険するって話なの。レディ・スカーレットは、本の中に人を入れたり、本の中の人を外に出したりできるんだよ!」

アルカがざっくりとした説明にゴンはそうそう!拍手した。
ゴンはうまく説明できそうになかったことを綺麗に纏めて言ってくれたからだ。
リング上には、ヒソカの攻撃を避けながら金髪の青年とピンクの髪の女性…こちらは確かマチと言う名前だったはず、とキルアは思い出していた。
アルカが言うには、金髪の方がディランという兄、マチがフライヤという妹の役らしい。

お茶会をしているという割にはかなり元気な音楽が流れている。
音楽を流しているのはいったい誰なのか。
実況者が音響なんていないと言っていた、考えてみれば天空競技場でBGMを流すようなことはないだろうから当たり前だ。
ただ、実況者が話すときに使っているスピーカーはあるはずだ。
もし音楽がそれを使って流れているのであれば、それを壊すことで曲は止まる可能性がある。

『おっと、ヒソカ選手、リングから出してもらえないのか!?』
「時間稼ぎの積もりかい?それもいいかもねえ◆」

キルアが思っていたことをヒソカも考えていたらしい。
ただそれを防衛するようにクロロが動き始めた。

愉快なアップテンポの曲が流れていく。
馬鹿にするようにクロロ・ルシルフルは笑う。

「“お茶の時くらい静かにできないのかしら?”」

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