禁断の果実
エリーゼはどうしたものか、とロックグラスの中の氷を揺らした。
カラン、と涼し気な音が鳴るのを聞きながら、クラピカと向かい合う。

「ええと、それで。私に聞きたいことがあるって、センリツから聞いていたのだけど…何かしら?」
「はい。突然のことで申し訳ないが…単刀直入に聞く、貴女はクルタの民か?」
「ああ…そういうこと。答えは一応、イエス」

エリーゼはヴィヴィアン経由でセンリツからクラピカの話を聞いた時に、肝を冷やした。
何といっても、面倒くさがったヴィヴィアンが無断でエリーゼの番号をセンリツに伝えており、その上、クロロが部屋にいる時に電話をかけてきたのだ。
クロロには話を聞かれてはいないが、センリツの連れてくるというクラピカの名前には聞き覚えがありすぎた。

パクノダを殺した念を持っている、鎖野郎…それがクラピカだ。
彼がエリーゼを探すとしたら、クロロのことか、緋の目のことかのどちらかだ。
エリーゼは、彼の真意がどちらなのかわからなかったが、嫌な予感しかしていなかったのだ。
それに、仲の良かったパクノダを殺した相手と対面して、自分がどうなるのかも怖かった。

怒りを覚えるのか、それとも憎しみか、それとも、何も感じないのか。
何も感じない可能性が最も高く、それが最も恐ろしかった。
そして現在、予想が外れることなく、エリーゼはただただ落ち着いてクラピカと対峙していた。

クルタの人間であることを告げたエリーゼに、クラピカは目を丸くした。

「失礼だが、今年でいくつに…?」
「大よそ26、7歳になるわ…先に行っておくけれど、きっとクラピカが求めている答えを私は持っていないし、君は私の話を聞いても何の足しにもならないと思う。寧ろ何かしらの損害を得る、それは間違いない」

目の前のクラピカは見た目で言えば16,7歳だ、スーツのせいで大人びて見えるが。
彼が生まれた頃、エリーゼは10歳程度で、既にそのころには流星街の子どもとして育っていたから、クラピカとの面識などあるわけがなかった。

その上、エリーゼは確かにクラピカよりもクルタについての情報を得ている。
しかしそれは、彼にとって望まぬ情報であろうことも心得ている。

「エリーゼは何かを知っているのか」
「うん、もちろん。君よりも長く生きているし、その間に知人が色々調べたから」
「…損害とは、具体的になんだ?」
「クラピカが知っているクルタはとても綺麗な部分だけってこと」

クルタの民はルクソの山間部を転々とする民族だった。
非常に閉鎖的であり、長老の許可が下りない限り外界へのコンタクトは断たれる。
その中で、クラピカは幸せに暮らしていたのだろうとエリーゼは考えた。
でなければ、こんな人生を掛けた復讐など考えないだろう。

エリーゼはロックグラスの中のウィスキーを一気に煽った。
別段、クラピカが悪いわけではないが、彼を見ていると少し苛立ちを覚えるのだ。
幸せに生きてきたのだろう、その生活に犠牲が伴っていたことも知らずに。

「どんなことでも構わない。教えてほしい」

ロックグラスは空だ。
エリーゼは彼の答えを聞いて、席を立った。
カウンターで新しいウィスキーを注ぎつつ、カウンターテーブルの下に隠していた一冊の本を取り出す。
これは嘗て、クロロがエリーゼの経歴を探るためにクルタの村から盗んできた本だ。
作者はとある民俗学者で、クルタに入婿として入った男の手記である。

それは、エリーゼの父に当たる人間であった。
青い目をした、朗らかな男性であったことを、母から話を聞いたというクロロ経由でエリーゼは知ることになった。
エリーゼは両親を知らない、知っているのはクロロだけだ。

「これは私の父の手記。私の父は元民俗学者でクルタの母と結婚して入婿として村に入った人。母は…クルタの中では最も地位の低い、娼婦だった」

エリーゼは青い瞳をクラピカに向けた。
ここから先の話は、エリーゼ自身で聞いたことではない。
すべて、クルタを滅ぼしたクロロが探し当てた、エリーゼの母から聞いた話である。
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