レディはいずこ
携帯を2台持ち始めたのは、当然のことと言えばそうだった。
仕事の関係上、電話が被ってしまうのは良くないからである。
そしてクラピカはプライベート用の電話を殆ど持ち歩きしなかった。
仕事中にプライベート用の電話が鳴ると困ることもあるし、何より、プライベート用に登録されている友人たちは遠慮がない。
だから1度ならして出ないからと言う理由でコールをやめるような友人ではない。

そんな理由があって、クラピカはプライベート用の携帯を自室に置いたまま、3日を過ごしていた。
そして、自室に戻り、携帯を見た時に苦笑いをせざるを得なかった。
やはり持ち歩かなくて正解である、3時間おきに5回もコールされたら堪ったものではない。

「もしもし、ゴンか?」
『あ、やっとつながった!クラピカ、大変なんだ!』
「…?どうした?」

大騒ぎで電話に出たのはゴンだった。
コールの相手は彼だったから当たり前だが。

『落ち着いて聞いてね、…緋の目を持った人を見たんだ』

ミシリ、と携帯が歪むを耳元で聞いた、恐らくゴンの方にも聞こえているだろう。
緋の目の話がクラピカにとって地雷であることを、ゴンも知っている。
それでもその話を持ち掛けてきたということは確固たるものがあってのことだ。
クラピカは静かに深く呼吸をして、それで、と言葉をつづけようとした。
しかしうまく言葉にならない、何から聞いていいのかわからなくなってしまった。

電話の向こうでは、ゴンとキルアがジェスチャーで会話をしていた。
クラピカの方からいろいろと聞かれるだろうと身構えていたゴンが何も言えずに止まってしまったため、キルアが電話を替わる。

『ゴンじゃ説明できそうにないから俺が説明する。この間、ヒソカとクロロの対戦が天空競技場であったのは知ってるか?』
「ああ…除念されたことが分かって、調べていたからな」
『天空競技場での試合、俺ら見に行ったんだ。あの試合の結果は知ってる?』
「そこまでは調べていない」
『試合場は引き分け。でも、ヒソカに変な念が掛けられた。掛けたのが、その緋の目の女』

キルアは落ち着いてその時のことを伝えた。
ヒソカとクロロの戦いに自分たちも変な形で巻き込まれたこと、巻き込んだ念能力を間近で見た事。

『あの赤、クラピカのと同じような赤だった。アルビノとかの赤とは違う、透き通った感じの赤だ』

赤い目という存在は、クルタ以外にもアルビノと言う可能性がある。
ただ、緋の目を見たことがある人間にとって、その色の違いは火を見るよりも明らかだ。
クラピカ自身の緋の目を見たことがあるキルアがそういうなら、可能性は高い。

黙り込んでしまったクラピカに、キルアはとりあえず調べてみろ、と告げて電話を切った。
クルタにいた時の仲間の顔を思い浮かべた、村の中の小さな部落で育ったクラピカにとって、その人数は少ない。
そして、村には外に出てはならないという掟があった。
生き残りがいたとしたら、掟を破ったものか、もしくは買い出し等で村の外に出ていた人だ。
ただ、その日に買い出しに出ていたのはクラピカだけだった。

ともかく、女の顔を見ないことには分からない。
村には100人少々しか人がいなかったのだから、顔を見ればなんとなくどこの者かわかるかもしれない。
クラピカはその試合の映像を探すべく、パソコンの前に座った。


その映像は思ったより早く見つかった。
どうやらクロロVSヒソカの戦闘はハンターたちにとっても気になる一戦だったようで、ハンター専用の検索サイトで数本の映像が投稿されていた。
クラピカはそれを見て不快になった。

「何だこれは…」

滅茶苦茶だった、困惑していたヒソカの気持ちがよく分かる。
よく分からない念と言っていたが、確かによくわからない。
なぜ、ミュージカルをしているのか、それで終わったのか。
全てが謎だったが、調べるうちに全容が多少なりとも分かってきた。

まずこのミュージカルは“レディ・スカーレット”と呼ばれるもの。
原作はシリーズ小説であり、シリーズの名前を言うのであれば“レディと猫”。
特徴としてはシリーズで最も登場人物が多い一作である。
旅団全員とゴンたちまで巻き込んでようやく役者が揃った“レディ・スカーレット”。
そして最後に壇上に上がった女、これが例の女だろうとすぐアタリが付いた。

この女についてはハンターたちの間でも様々な憶測が飛び交っているようで、どれもこれも、信憑性に欠ける。
ただ、音楽系の念能力に違いないという話はでてきていた。
音楽系の念能力者同士であれば分かることもあるかもしれないと、クラピカはセンリツに連絡を取ったのだ。
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