カーテンコールの後に会いましょう
クロロとヒソカは、芸術の街と名高いサラームに来ていた。
それは2人の対戦の2週間後のことで、ヒソカから連絡を受けたクロロが、彼にエリーゼを紹介するためだった。

「先に行っておくが、うまくやらないと入れないぞ」
「クロロよりうまい自信があるから平気
「…エリーゼにも言われた。もう二度とやってたまるか」

エリーゼに会うためには、彼女の住処であり職場のアーデルに行く必要がある。
クロロ1人でアーデルに入るのは2度目の彼は、1回目のことを思い出して苦い顔をした。

クロロは音楽と相性が悪い。
エリーゼに言わせてみれば、クロロは完全に音痴の極みであるし、音の聞き分け、テンポの合わせ方、リズムの取り方、何をとっても褒められるところがなかった。
素早く動くことはできてもタイミングが掴めないクロロにとって、アーデルに一人で入ることは、念能力者の監視がある美術館に侵入するより難易度が高かったのである。

1回目は何度か失敗して入口に辿り着かず、最も入りやすい曜日と時間をエリーゼに教えてもらってようやく入ることができたのだ。
エリーゼから今日の楽曲と入りやすいタイミングを教えてもらった。

「今日の曲は、“小さな村の朝”だ。最初の一言で合わせるのがいいとのことだな」
「なるほど、“魔法使いの黄色い花”か
「よく知ってるな」
「厄介だけど面白いね、ここ

アーデルの入口は、入り組んだ小道の先にある。
ところで、アーデルにはこの店をよくするためだけに念能力を極めた人間が勤めている。
そのスタッフは元女優で、顔を傷めたが故に女優の道を断たれた無念をこの念に込めたらしい。
名前をヴィヴィアンという、彼女は現在シェフとしてこの店にいるが、顔を見たことはない。
ともかく、ヴィヴィアンはミュージカルを愛した女性だ。
ミュージカルを知らない無知な客は店に入れないと決めている。

そのため、アーデルに続く小道には念がかかっており、ミュージカルに参加しないと入口に辿り着かないようになっている。
全く持って厄介な念である。

「始まりは、」
「8時、だ
「本当にお前よく知ってるな…」

“魔法使いの黄色い花”の一曲目、“小さな村の朝”は朝8時に鐘の鳴る小さな村の朝をうたった曲である。
鐘がなると村の家々から村人たちが顔を出し、朝の挨拶と黄色の花を窓際に差すという場面の歌。
現在時刻は7時58分、あと2分で曲が始まる。

「“おはよう!今日の黄色い花は菜の花よ”」

7時になると、脇のアパートから女性が顔を出して歌い始めた。
彼女はこの店のウェイトレス、シルヴィである。
今日の朝のお出迎えの仕事は彼女の仕事だったらしい。

「“おはよう。今日の黄色い花は、ひまわりだ”」

クロロはそのすぐ後の、最も簡単な台詞を歌った。

「“いい朝だ、きっといい日になる”」

どうやら入ろうとしていたのはクロロたちだけではなかったらしい。
別の小道からやってきた男がクロロの台詞の後に続いた。

「“きっと素敵で素晴らしい1日、黄色い花のように太陽が美しく輝く、明るい1日になるだろう!…おやおや、子どもたち、黄色い花は持ったかい?”」

ヒソカはこの出迎えが気に入ったようで、長い1節を歌い切った。
彼にとっては昔によく聞いた、懐かしいミュージカルである。
この一節以外にも歌える曲は多い。

「“おはよう、みんな。さあ協会に行きましょう。お祈りが始まるわ”」

いつの間にかアパートの窓から外に出ていたシルヴィが扉を開いた。
クロロの次に歌を始めた男が先に入って行って、その後をクロロが続いた。
ベルの付いていない重そうな樫の扉を開くと、別の曲が始まる。
どうやら無事に入店ができたようだ。

店内を見渡して適当な席についた。
ヒソカは楽しそうな笑みを浮かべて、周囲を見渡している。
彼には次に流れている曲も知っている曲で、曲に念が込められていることも分かっていた。
正しくは、この店全体が誰かの円の中で、既に相手の念の中に閉じ込められている状態だ。
殺気が込められているわけではないから、攻撃をするようなものではないのだろう。

天空競技場の中で掛けられた念とよく似ている。
攻撃はされないが、マナー違反には退場を強制する劇場の中にいるような感覚だ。
慎重に動かないといけないと思わせるような念…ただ、天空競技場で自分の前に現れた女の念とは違う、とヒソカは感じていた。

今日、ヒソカがこの店に来た理由はその女の話を聞くためであって、クロロの下手くそな歌を聞きに来たわけでも、ミュージカルを聞きに来たわけでもない。

prev next bkm
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -