終幕ベルにご注意を
エリーゼは3人の子どもたちの後ろに立ったフィンクス、フェイタン、ノブナガを確認した。
長く話していたようだが、まとまったらしい。

「“アイーダ”」
「“アイリス”」
「“アヴァ”」

フィンクス、フェイタン、ノブナガが間違えることなくメイドの名前を読み上げた。
この先が問題の部分だ、3人から少し離れた場所に待機しているシャルナークが周囲を見渡しながら次の言葉を待っているのが見える。

「“アヴェリー”」
「“アシュレー”」

少年と少女の声で、残り2人のメイドの自己紹介がされた。
アヴェリーがゴン・フリークス、アシュレーがアルカ・ゾルディック、というメールが届いたのを確認し、認知する。
これで役者は全員揃った。

後は無事に最終曲、“思い出そう、子どもの頃を<リメンバー・チャイルドフット>”を歌いきることができればミュージカルは終了となる。
最終曲は2分に満たない、最も短い楽曲だ。

そして、最後の課題、最後の条件を満たすために、エリーゼは安全地帯であった天井から降りなければならない。
携帯を握りしめて、天井の梁を、絶をしたまま歩き始めた。
誰かとの戦闘中のヒソカは非常に気配に敏感になると言う、ある程度絶をした状態で観客席近くまで降りて、そこからは一般人を装ってリングまで到達しなければならない。

残り、1分半。
エリーゼは額に巻いていたヘアバンドを取って、スカートの端を抑えながら観客席近くまで降り立った。

「…誰かいるね?」
「“誰にだって子供の時はあったはず”」

クロロは歌いながら眉根を顰めた。
エリーゼの絶を解くタイミングが遅すぎだ。
彼女には散々、ヒソカの感受性の良さを説いたが足りていなかったらしい。
クロロには分からなかったが、ヒソカには唐突に表れた気配に気が付いたらしい。
これは留めないとマズイ。

「あの子だ

ただし、最後の曲は“レディ・スカーレット”“ディラン”“フライヤ”“オットー”“アニー”と役者が多い。
残っていて動けるのは、フィンクス、フェイタン、ノブナガだ。
この事態に気づいたのはクロロだけではなかった。
シャルナークも同じように気が付き、即時でエリーゼの携帯に連絡を入れた。
猛スピードで観客席の方へ走って行ったヒソカの後をクロロとシャルナークも追った。

曲の残りはあと1分。

シャルナークからの連絡が来る前に、エリーゼは強烈な殺気を当てられて、気づかれたことに気づいた。
エリーゼは念能力が使える以外の部分は全く持っての素人である。
ヒソカに居場所を掴まれて攻撃されれば、一発KOとなる。

そのため、ルートを変更し、フィンクス、フェイタン、ノブナガたちと合流する方を選んだ。
3人には申し訳ないが、戦闘に向かない以上、逃げる時間を何とかして稼がないといけない。
逃げ足にはそれなりの自信がある。

「げ、アイツこっちに来る」
「マジかよ…つーかヒソカもこっち来てるじゃねーか!」
「はあ!?お前らマジでふざけんな!巻き込んむんじゃねーよ!」

ガタ、と速攻で立ちあがたのはキルアだった。
ゴンも遅れて自体を把握して凍った顔で笑っていた。
キルアはアルカを連れて逃げなければいけない。
間違っても巻き込まれるのは御免だった。

フィンクス、フェイタン、ノブナガはエリーゼの意図を汲み取り、その場で応戦するつもりでいる。

「ごめんっ、」
「気にすんな、できる限り止めるぜ」
「でも、あと30秒しかないから!何とかする!」

キルアたちが逃げるよりも先に、1人の女が観客の間を縫って走ってきた。
どうやらこの女が術者らしい。
リングの方からヒソカが猛スピードで迫ってきているのを分かっていて、リングを目指しているらしい。

「エリーゼ、リングに連れて行ってやる」
「え、い、いやいい!」
「お前の足でもこっちに向かってきてるヒソカを避けてリングに行くのは無理だ…ろ!」
「っぎゃ」
「はは、色気の欠片もないね」

ゴンもキルアも、女の脚力じゃあヒソカから逃げるのは無理だと感じていた。
円の広さで言えば能力値は高そうだが、肉体面で言うとエリーゼはただの女だった。

フィンクスは何とかなるというエリーゼを無視して、腕を回した。
意図を察したエリーゼが逃げようとするのをフェイタンが止め、ノブナガがタイミングを見てエリーゼを投げる。
投げられたエリーゼの足の裏に、フィンクスの拳が綺麗に入った。
普通なら足の骨が砕けてもおかしくはないが、エリーゼは何をされるのかなんとなくわかっていたため右足を硬で守り、フィンクスに殴られた力を推進力にして飛び上がった。

残り、30秒。

ヒソカは、術者の姿を見止めた。
黒いワンピース姿の女だ、かなり高い位置を飛んでいるようだった。
リングの方へ向かっているらしい彼女を、ヒソカが追う。

飛翔の様子を見るに、リングに辿り着く前に一度、観客席に足を付けることになる。
そこを狙うつもりでいたが、ちょうど観客席にいるフランクリンの位置に着地しそうだったので、先にリングに戻ることにした。
恐らくフランクリンがエリーゼをリングに投げるつもりなのだろう。

女がリングを目指す理由は未だにつかめないが、楽曲は間もなく終わりを迎える。
最後の締めを術者自身でしなければならないという制約があるのだろう。
このような長ったらしい制約の付いた念は強力であることが多い。
念を確定させるより先に、女を殺さなければならない。

思惑通り、フランクリンによって再度投げ飛ばされた女は、実況者しかいなくなっているリング上にやってきた。

「っ、クロロ…◆」
「これにて、おしまい。めでたし、めでたし!」

リング上に来た女を殺そうと伸ばした手は、クロロによって止められた。
先ほどまでリング上にはいなかったはずなのに、と驚いているヒソカにクロロはにんまり顔で残念だったなと告げた。

ヒソカは失念していた最終曲で最も台詞が多いのは、“オットー”である。
“レディ・スカーレット”は早い段階で家族の前から姿をくらますのだ。
歌う部分がなくなったクロロは自身の能力を使って、実況者と自分の姿を変えたうえで、シャルナークがブラックボイスでクロロの姿に変わった実況者を操作していた。

エリーゼがめでたし、めでたしと言った瞬間に、円は解かれた。
恐らく儀式が終了し、念がかかったということだろう。
エリーゼの赤い目がヒソカとクロロの間をさまよっていたが、やがて、崩れるように倒れた。

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