飛び入り参加
3曲目、これが最も重要な部分である。
もともと、“レディ・スカーレット”の楽曲は10曲。
エリーゼの念はそれを短縮し、4曲で起承転結を作り上げることで役者たちに制約を付けることができる。

今回、“レディ・スカーレット”を選んだ理由は、ミュージカルの中で登場人数が多く、尚且つ知名度がそれなりに高いからである。
エリーゼの念は役者と監督、それから劇を理解している観客が一定数いないといけない。
クロロが戦いの場に天空競技場を選んだもの、観客が増えればミュージカルを知っている観客も増えるだろうと言う計らいだった。
1曲目を終えた時点で、人数はそろっていることが分かったから、あとはすべての曲を終えることが念の発動条件だ。

「“さあ、お仕事ですよ、メイドたち!”」

“レディ・スカーレット”の3曲目、“ドジなメイドたち”は一気に役者の増える一曲だ。
ここで、旅団全員を役者に見立てる。
実はここでは逆に人数が足りないため、あと2人、即席で役者を作らなければならないという賭けがあった。

物語でのメイドの人数は5人、現在はフィンクス・フェイタン・ノブナガの3人がメイド役だ。
尤もメイド姿が似合わない3人がメイド役であることに皆笑ったが、今はそれどころではない。
物語を知っていて協力してくれるメイドを後2人、強制的に作らねばならない。
リミットは、曲の最後、メイドたちは1人1人自己紹介をして去っていくのだ、そこだけがメイドの台詞だった。
幸いなのは楽曲としては尤も長い部分である上に、3曲目に到達するまでの時間もある。
その間も3人は他のメイド候補を探す時間があったということだ。

「“何なんだ、この騒ぎは!”」
「“家がめちゃくちゃだわ…”」

今のは、父親役のフランクリンと母親役のコルトピの声だ。
きちんと聞こえた、物語は続いている。
あとはメイドたちの最後の自己紹介を残すのみだ。

エリーゼは息を潜めて、目だけ動かしてフェイタン・ノブナガ・フィンクスがどこにいるのかを確認した。
3人はばらけることなく一か所にいた。
そこには子供と見られる3人組が一緒にいる。


フィンクス、フェイタン、ノブナガの3人は、そもそもこの演劇に参加すること自体、乗り気ではなかった。
ミュージカルなんて馬鹿馬鹿しい、別にエリーゼの念の保護なんていらないという考えの3人組だ。
ただ、クロロの意向と人数の問題上、結局のところ人数の中に組み込まれた。
元より“レディ・スカーレット”なんていう童話を知らない3人は台詞の一番少ない役に強制的に設定され、その上、このミュージカルを無事終えるための一番重要な部分を担うことになってしまったのである。

「よお、チビども」
「!?」

役者が足りないとのことで、後2人、現場で見つけなければならない。
条件は、“レディ・スカーレット”のミュージカルを知っていること、それから同意の上で台詞を叫んでもらうこと。
どうしたものかと3人は曲が始まる前から観客席をうろついていた。

そこで見つけたのが、“レディ・スカーレット”について熱く語る少女と、その左右にいた少年たちだった。
絶をして近づき、話をしっかりと聞いて、誰がミュージカルを知っているかを確認した。
その上で、声を掛けた。

「おっと、あんま派手に動くなよ。ヒソカの野郎にばれるからな」
「何してんの?あんた等」
「俺らもこれからこのクソッタレに参加するんだけどよお。お前らにも手伝ってほしいんだわ」

ノブナガは元々ゴンとキルアのことを気に入っていたし、フィンクス、フェイタンも2人のことを知っていた。
子どもたちがそれなりの実力者で、相手の力量をきちんと図って考えることができる能力者であることを知っている。
だから、頼めば大人しく手伝ってくれるだろうと考えた。

「何を」
「簡単だよ。3人のうちの2人に“アヴェリー”と“アシュレー”を叫んでもらうだけだ」
「“アヴェリー”と“アシュレー”って、メイドの?」
「そ。俺らは“アイーダ”と“アイリス”“アヴァ”なんだよ。あと2人足んねーんだ」

食いついてきたのはゴンとキルアではなく、間にいたアルカだった。
フィンクスたちは、そのアルカが最もミュージカルに詳しいということも話の成り行きで理解していた。
そしてキルアはミュージカルを知らないということも。
頼むならゴンとアルカだ。

ただ最も警戒しているのはキルアだった。
これが誰かの念能力であることをよく理解し、その上で、自分たちに降りかかる可能性のあるデメリットを模索している。

「先に教えてやるよ。この念能力は蜘蛛じゃない女のもんだ。効力は、このミュージカルを成功させた暁には、かなりデカイ力がヒロイン役に渡される」
「ヒロイン役って…」
「まあ、この場合だと団長だな。儀式っぽい念なんだよ、これ」

この試合が始まる前に耳に胼胝ができるくらい聞かされた音楽が、間もなく3曲目の終了を告げようとしている。
フェイタンが最悪、殺すと脅して言わせればいいという顔をしているが、それは本当に最終手段だ。

あと1分ほど、間曲があったはずだ。
最悪のことも考え、あと30秒で決めてもらう。

「あと30秒しかねーんだけど。どうする」

フィンクス、フェイタン、ノブナガの3人から逃げ切れるほど、ゴンとキルアの能力は高くない。
それはお互いにわかっていることだったから、フィンクスには余裕があった。
この3人もヒソカと付き合いがあったようだが、流石に自分の命を捧げるほどの相手ではないだろう。

残り10秒、とフェイタンが言った瞬間、キルアが観念したように手を上げた。

「分かったよ。俺でいいの」
「お前以外よ。話の全容を知てる奴じゃないとダメね」
「アルカ、頼めるか…?」
「うん、平気だよ。名前いうだけならできるもん」

意外と楽しそうなアルカを複雑そうな顔で見ているキルアだったが、ゴンがまあいんじゃないかな、と言うのであきらめたらしい。
ゴンはこれでどうなるのかが気になるようで、リング上を一生懸命に見ていた。

「じゃあ、合図したら言え。いいな?」

台詞の部分まであと5秒。
フィンクスとノブナガは各々ゴンとアルカの後ろに立った。

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