5.
この世界は大きなもので溢れている。
ゾルディック家で飼われているミケ然り、昔ジンと見に行ったダイオウカモノハシ然り、グレートスタンプ然り、…人も然りだ。
ゾルディック家のシルバさんも大きいなあとは思っていたが、たった今、縦にも横にも大きい人の最高記録が更新された。

大きなプレハブ小屋に屈まないと入れないくらいの大きさ。
横幅はそれこそ、プレハブ小屋と同じくらい。
腹の虫の鳴き声は地鳴りの如く。
あまり外に出たことがないマリにとっては未知の生物…ヒトではあるのだが…との遭遇だった。

マリの10倍はありそうな男だった。
彼もまたハンターであると聞いた時に、本当にこのヒトは動けるのかと不安になった。

“血抜きは終わった?”
「終わったよ

大柄なハンターの隣には女性の割には背が高いが小柄に見える女性のハンターがいた。
曰く、彼女とその隣の大柄の男は美食ハンターという職業らしい。
2人は12時になると同時に話始め、二次試験の内容を伝えた。

二次試験は2種類、大柄のハンターと小柄なハンターの注文に答えること。
大柄なハンターは豚の丸焼きと言ったので、受験者たちはこぞって森に行った。
豚にしては大きすぎるものをイルミが軽く2体倒した。
流石にそのまま焼くのは料理の概念としてどうなのかと思ったので、血抜きまでしてもらった。

“そこ置いてもらえる?”
「うん」
「僕のもやってくれるんだ
“これくらいは”

ヒソカが勝手についてきたことには辟易だが、2体も3体も変わりはない。
できるだけコンパクトに纏めてもらってマリはその近くに立った。
マリには戦う能力はほぼない。
ただ、念だけはしっかりとできるようにしている。

ヒソカは間近でマリの念を見ることができるとじっと凝をした状態で豚を見ていた。
豚の周囲には薄いプラスチックの透明な板のようなものがあるように見える。
微かに光を反射しているからそこにあることが辛うじてわかる、それくらいに透明度が高い。

その板の内側で、唐突に豚が発火した。
流石のヒソカもそれには目を丸くして、またその火を観察した。
火は赤く、ただ熱さを感じないだけで特に珍しい点はない、ただ発火の理屈が分からない。

“これでいいと思う”
「了解」
「僕が持つよ

火は豚を熱したが、炭にすることはなかった。
レストランで出てくる子豚の丸焼きのような、狐色の焦げ目とパリッとした皮。
火加減を考えなければこうはならない。
彼女の念は細かな火加減まで考えて…いや、そんなわけはない。

ヒソカはそこで気づいた、直火でこんなに綺麗な丸焼きができるわけがない。
それなりにグルメなヒソカは見た目とは裏腹に、料理へのこだわりもある。
通常、激しく燃えている火の中に豚を突っ込んだら、生焼けで外側だけ焦げる。
ヒソカが今手にしている豚からはしっかりと火の通った肉の匂いがしていた。
恐らくミディアム程度まで火を通していると見た。
先ほどの炎では説明がつかない火の通り方だ。

「ックック、マリは面白いね…

マリはその呟きが聞こえていたが、何も言わないでおいた。
何も言わないが内心は穏やかではない。
ヒソカがそう呟いた意図を察知したからだ。

マリは確かに、念を使って豚に火を通した。
姿焼きにする際、皮目は強火でパリッと、その後は弱火で中まで火を通すことが基本ではある。
それにはそれなりの設備が必要となる、特に、弱火で中に火を通すという点において。
だからマリは、外側は炎で焼いて、内側は赤外線を使って火を通した。
本来であれば時間がかかるので、ちょっと特殊な方法で焼いた。
炎だけしか見えないから大丈夫だろうと高を括っていたのだが、ヒソカは以外にも頭脳派らしい。

「マリは特質系だね◇」
“どうして?”
「炎を見ると変化系みたいに見えるけど、その周りの壁も君の能力だろ?だとしたら具現化系…2つの系統を使いこなすのは難しい

アタリ?と首を傾げるヒソカを無視して、マリは歩いた。

気が付くと、周囲のハンターたちももう丸焼きを作り終えて持って行くところのようだ。
捕まえるのは早かったが、調理に時間をかけすぎたらしい。
出遅れるしヒソカに念についてばれるし、あまりいいことはなかった。
大柄なハンターはその図体にふさわしいほどの豚を食べつくしてくれたおかげで、3人とも試験に合格できたことだけが救いである。

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