キルアは受験者の1人を刺殺し、会場を後にした。
きちんと家に帰れるのかなとマリはその背中を見守った。
「マリ、こっちに座って」
講習会があるとのことで、マリとイルミはまだ会場に残っていた。
ラッキーとはいえ、合格は合格。
これでようやくライセンスが手に入った、とマリはほっとすると同時に嬉しく思った。
イルミにエスコートされ、彼の隣、通路側でない方にマリは腰掛けた。
マリは手渡された資料に目を通しながら、講習が始まるのを待っていた。
周囲には同じく合格者が各々、資料を読んだり、目を瞑ったり、ニコニコしたりしながら待っている。
まだ集まっていないメンバーもいるからから、講習会は始まりそうになかった。
マリはぐるりと辺りを見て、合格者の中でまた来ていない人間を確認した。
忍者にやられて医務室に担ぎ込まれたゴンがまだいない。
それを確認すると同時に、彼が背後のドアから入ってきた。
つかつかと少し早足な足音が聞こえる。
ゴンはイルミの前で立ち止まった。
「っ、…ごめん、マリ大丈夫?」
「キルアに謝れ」
「怪我していない?」
“平気だからゴンの話を聞いてあげて”
立ち止まったかと思うと、マリの身体に衝撃が走った。
バチン、と強い破裂音、それからマリの身体は20センチ程イルミから離れた。
ゴンに引っ張られ、その拍子に自身の身体がマリに当たると判断したイルミが咄嗟に開いている左手でマリを突き飛ばした。
マリは状況がつかめないまま、反射的に閉じてしまった目を開けると、マリの隣に座っていたはずのイルミはゴンの隣に立っていた。
やたらに心配しているイルミを念文字で落ち着かせ、ゴンを見た。
彼はどうやら怒っているようだ。
イルミはマリの念文字を見て、ようやく気だるげにではあるがマリから目を離した。
「あーあ、大変だ
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“分かってたの?”
「やりそうだなってことくらいは◆でも、マリはイルミが何とかしてくれるだろうって思ってた
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マリは喧嘩腰で話をしているゴンと飄々としているイルミから距離を取るべく、ベンチ式の椅子の中央に身を寄せた。
そちらにはわざわざ距離を取って座ったヒソカが三日月形の口元を隠すことなく座っている。
楽しそうに2人の兄弟云々の話を聞いているようでいて、目線は彼らの腰元にいっているのが気になったが何も言わずに、この展開のことについて聞いてみた。
ヒソカは背後のドアからゴンが入ってきたときから、彼ならイルミに一言物申すだろうと考えていた。
無謀にも彼に手を出したことには驚いたが、イルミ自身が掴まれたことよりも隣のマリに被害が及ばないようにすることを優先したことにも驚いた。
金を積まれれば何でもやる、摘まれなければ何もしないイルミが。
「君のことも気になってるんだよ、マリ…
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「いい加減にしないと殺すよ?」
「イルミと殺し合いするのもいいなあ
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ゴンと話し合いという名の喧嘩を追えたらしいイルミがマリの隣に戻ってきた。
イルミはマリがヒソカと話しているのが気に食わず、折れていない方の腕で彼女を引き寄せた。
マリは面倒になってまた、手元の資料に目を落とした。
周囲では合格不合格の話で、不正があるだとか、こんなことはおかしいだとか話をしているようだったが、マリにしてみれば合格したんだから黙っていればいいのに、と言いたいくらいだった。
「大体、その女なんて何もしてないじゃないか!俺、名前もわかんねーぞ、その女!」
「確かに…」
「一次試験も一歩も走ったところを見たこともないし、二次試験でちょっと料理しただけだろ、その女!」
マリは女、と言われてようやく顔を上げた。
もちろんマリは何も言わないが、顔には面倒くさいという文字が貼られているかのようだった。
端麗な目を細め、眉を寄せると禿男は一瞬ぐっと黙った。
ただ、彼の言っていることは事実である、マリは一つ頷いて、ちらとイルミを見た。
イルミはどうでもいい展開に真顔で、答えた。
「まあそうだけど、君たちにゾルディック家を動かせる金や権力、縁があるの?」
「はあ?」
「イルミが言いたいのは、力って物理だけじゃないってこと
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「そういうこと」
最も実力がある2人が彼女を庇う姿は異様だった。
見れば見るほど、マリは貧弱そうで戦おうものならあっという間に折れてしまいそうだった。
ただ、イルミとヒソカの言い分に、他の受験者はぐっと黙り込んだ。
確かにハンター試験という環境がなければ出会わなかっただろうし、むしろこの環境以外の場所で2人に出会っていたら、間違いなくハンター試験を受けずに死んでいたと思われる。
その2人に出会い、殺されずにいること、また、2人を従えていること。
そういわれてみれば、マリは特殊だ。
「そんなことはどうでもいい。人の合格にとやかく言うことなんてない」
ゴンは本当に本質を見ている。
マリは嘗ての師を思い出した、自分の感情に素直に動き、理論だとか理屈を嫌った馬鹿を。
親子なのだから当たり前なのだが、あの親あっての息子だなと思わざるを得ない。
マリに向いていた視線は一気にゴンに向かった。
「もしも今まで望んでいないキルアに人殺しをさせていたなら、お前を許さない」
ゴンは本当にまともだ。
マリは嘗ての師を思い出した、基本的に自分が良ければすべてよし、善悪を考えなかった馬鹿を。
親と違って純粋な人に育てられたのだな、と遠い過去の記憶に思いを馳せた。
いい人に育てられたのだ、ゴンは。