13.
マリはトーナメント表を見て、多少安堵した。
そして、説明を聞いて更に安堵した。

最終試験はマリが想定していた通り、1対1のトーナメント方式であった。
しかしマリの番号は一番端に位置し、所謂シード権を持った場所に書かれていた。
説明によれば勝ち抜け、尚且つ不合格は1人のみ。

機会は尤も少ないが、逆に言うと機会すら回ってこない可能性もあり、何より、マリは持久戦に長けている。
試験管を殺して失格になった戦闘狂もいる上に、ゾルディック家の人間が2人いる、ともかく誰かがうっかり殺人をしてしまえば、その時点でマリの合格は決定する。
尤も負ける可能性が高いのは、イルミかヒソカと当たるときだ。
正直、そうなったら迷わず降参するつもりでいた。

「兄…貴」
「やあ、キル」

そんなことを考えていたのだが、無駄になった。
様々な要因が絡み合って、キルアとイルミの兄弟対決が始まってしまったからだ。

マリはキルアのことを知っていた。
マリはゾルディック家においてイルミの嫁という位置に居るにも拘らず、一切家族の集まる場には集まらず、イルミの部屋とその隣の自室の外に出ることはほぼない。
修行にも参加はしないし、仕事にも参加しない。

「母さんの顔を刺して家出したんだって?母さん泣いてたよ」

マリ自身は一応家族全員の情報を知っているがゾルディック家の中でマリを知っているのは、ゼノ、シルバ、キキョウ、イルミの4人だけだった。
イルミはマリの存在を兄弟にも知らせず、自分の手の届く箱の中に閉じ込めている。
彼の束縛癖はそこまで病的な性癖だった。

閑話休題、マリはそういえば、この間、深夜にキキョウさんに叩き起こされてイルミだけ連れて行かれたっけ、と今月頭の夜を思い出した。
マリはまだ微睡の中で、イルミに寝てていいから、と言われたので素直に二度寝をしたのだ。
恐らくその時、キルアは家出をしたのだろう。
彼はシルバとイルミが教育係としてついている、何かあれば2人に連絡が行くようになっているのだ。
それにしても、顔を刺された状態でよくもまあ部屋に来たなとマリは思った。

「そりゃ息子にそんなことをされたら泣くだろ」
「喜んでた。あんなに残酷なことができるようになったなんてって」

キキョウさんならそう思うだろう、彼女を知っている人なら納得する。
イルミはそんな話をしながらも、決してキルアから目を離すことはない。
威圧、それが最もふさわしい言葉だ。
キルアはじっとその威圧に耐えていたが、その額からは玉のような汗が噴き出している。

緊迫した雰囲気の中、淡々としているのはマリとヒソカくらいなものだ。
マリからすれば、キルアの家出に興味はない、ヒソカもそうだ。

「キル、お前には友達なんて必要ない」

ゾルディック家の方針は暗殺者としての王道を行く。
仕事に不必要なものは作るべきではないという考え方を地で行く。
マリはそれを聞いた時に、生きる世界が違うが似ていると感じた。
だからこそ、マリはゾルディック家に溶け混み、イルミの束縛をも気にしない。

マリは学者として、学問以外のことに殆ど興味がない。
マリは学者である、人間である前に学問を考える猿である。
学問に人間としての情緒や感情は必要がないと考えるし、考えることができるのであれば何もなくていいと本気で思っている。
マリが生きるためには学問が必須であった、それがなくても物理的には死なないだろうが精神的な死がそこには待っている。
ちなみにマリは学問だけで生きようとして死んだのだが。
ともかく、自分が生きるために必要なもののためにストイックになる姿勢はマリもゾルディック家も同じだ。

そしてキルアと言う少年は、生きるために必要なものをまだ見つけきれていない。
だからあっちへふらふら、こっちへふらふらしてしまう。
早いところ彼に生きるために必要な“暗殺者として生きる覚悟”を身に着けてほしいというのが家族の想いなのだろう。
ふらふらしていると奇術師や盗賊に取って食われる可能性も低くはないのだから。

「よし、それなら試験が終わったらゴンを殺そう」

イルミがそう言い切った瞬間に、ビリ、と殺気が室内に満ちた。
マリの隣のヒソカが放ったものであることに彼女は気づいたが、無視した。
それにしてもゴンは不思議な人に好かれる。
そういうところは親子同士似たということなのだろうとマリは考えている。
それが吉と出るか凶と出るかはさておきとして。

マリは殺気を飛ばすという器用な真似はできない。
だからイルミをじっと見ておいた、マリもできればゴンを殺さないでほしいと思う側だ。

「キル、お前に友達は必要ないよ」

マリの視線を感じたイルミはそう言い切った。
マリはそこまで言いきれないだろうなあ、と思いながら彼の真っ暗な瞳を見た。
イルミが学者としてのマリを不可解に思うのと同じように、マリもまた、イルミの暗殺者としての考えは理解できない。

可哀想なくらいに怯えた様子のキルアを見て、マリは愛されているなあと思った。
イルミがここまで執着する相手はマリとキルアくらいのものだ。
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