12.
サバイバルが終わり、綺麗な飛行船内に戻ることができたマリはほっとした。
清潔な室内にばかりいるマリにとって、森で数日を過ごすことは何もしなくても疲れる。
暖かいシャワーを浴びて、綺麗なシーツの敷かれたベッドで休みたいとどうしても思ってしまう。
昔はそんなことなかったのになあと思いながらも、マリは宛がわれた個室で欠伸をした。

外にいると何もしていなくても体力を使うようで、試験中に眠くなることも多々あった。
今のうちに寝ておいた方がいいだろうと、マリはベッドで横になった。

「入るよ」

マリとイルミの間にノックや合図は存在しない。
してもらってもマリは答えられないし、何より彼女は円の範囲内に誰がいるかくらいわかる。
声を掛けられる前に気づいていたマリは、ベッドから上半身を起こして彼を待っていた。

ノックなしに普通にやってきたギタラクルは、部屋に入り鍵を掛けてすぐイルミに戻った。

「マリ、次呼ばれるだろうから準備してた方がいいよ」
“ああ…そっか、もう面談してきたんだ”
「うん。部屋は俺が見とくから、マリは行ってきなよ」

船に乗り込んですぐ、アナウンスで面談をすると告げられていた。
マリやイルミは順番的に後ろの方だったので、各々部屋で休んでいた。
イルミの次の番号がマリなのだから、彼の面談が終わったのであれば次はマリだ。
ベッドに座ったイルミに言われて、マリはベッドから立ち上がって部屋を出た。

面談と言ってもマリは話すことができないから、念文字で筆談をするしかない。
誰が面談をするのかは分からないが、流石に試験官で念を使えない人はいないだろう。
廊下に出てすぐ、受験番号を呼ばれたので該当の部屋に1人向かった。

部屋は畳張りの和室で、試験官は1人…ハンター協会の会長だった。

“お久しぶりです、ネテロさん”
「久しぶりじゃのお、マリ。見違えたわい」

畳の縁を踏まないように机の前に進み、クッションの上に座った。
足は正座が苦手なので崩させてもらい、ネテロの目をまっすぐ見た、彼に会うのはそれこそ10年以上振りのことだ。

ネテロもまた、ハンター試験にマリが受けに来たことを早い段階で知っていた。
ただ彼女は戦闘に不向きな性格と性質だったので、どうなることやらと思っていたが、意外や意外にここまで残っていた。
残ることができた理由はなんとなく察していたが、聞かなくてもいいだろうと思っていた。
知り合いだからと言って甘くするわけもないし、厳しくするわけでもない。

「さてと、積もる話は今度にしようかの。まずは試験を終わらせにゃならん」
“そうですね。面談の内容はどのようなもので?”
「なあに、ちょいと質問させてもらうだけじゃ」

豊かな顎鬚をさするネテロの姿は、10年たっても変わらない。
確かに積もる話もあるのだが、それはまた今度だ。
今はハンター試験中、次の面談も控えているのだから時間に限りがある。

マリはネテロと目を合わせたまま、彼の言葉に耳を傾けた。

「まず、マリ、お主はなぜハンターライセンスを取ろうと思ったのかな?」
“それ、私に聞く意味があります?散々そちらさんが取ってくれと言ってくるからですよ”
「ほほ。お主は有名人だから引き入れたがるものも多かろ」

マリの言葉に嘘はない、ただ理由としては半分である。
学者のエルビス・オングの名誉を使いたがるグループは多い、箔が着くからだ。
その理由で声を掛けてくるグループの中にハンター協会がある、正しくはハンター協会の科学部である。
彼らが是非に煩いので、ハンター試験を受けに来たというのは本当である。
ただし、理由としては弱い。
本当の理由は別にあるが、まあそれはいいだろう。

「次に、注目している選手は誰かの?」
“他の受験者、ほぼ見てないので…”
「相変わらず淡泊じゃのー。では、戦いたくない相手は」
“挙げるなら301、44、99ですが、戦わずに済むならそれが一番ですけれど”

ハンター試験はだいぶ長丁場になってきているが、マリほど存在感の薄い人間もいないだろう。
この質問と同じものを他の受験者にしたとして、マリの番号を話す人間はヒソカとイルミしかいないだろうと彼女は考えていた。
これだけ人数が減ってきたのだから最終試験は1対1の対戦になる可能性が非常に高い。
毎年試験内容は変わるとのことだったが、戦闘なしに終われるとは思えない。
そうなると1人で戦うことのできないマリの合格率はぐっと下がる。

ネテロはふむふむと頷きながら、ご苦労じゃった、とマリに声を掛けた。
どんな試験になるのかは、彼以外にわからない。

マリは来た道と同じ道を通って部屋に戻った。
部屋ではイルミがベッドの上で寝そべって、携帯を弄っていた。
人のベッドでしっかり寛いでいるイルミに苦笑しつつ、マリは部屋に備えついていたケトルにミネラルウォーターを注いで沸かした。

「どうだった?」
“どうしてライセンスが欲しいか、注目している選手と戦いたくない選手を聞かれたけど”
「同じだね。マリ、最終試験が1対1の対戦だったら棄権しなよ」
“そのつもり”

沸かしたお湯をそのままカップに注ぎ、少しずつ喉に流していく。
身体の芯が温まるのを感じながら、また白湯が零れないように注意しながら、マリはベッドに座った。

もしこの機会にハンターライセンスを獲得できなかったら、恐らくマリは二度とライセンスを取ることはできないだろう。
イルミと一緒だからここまで来られたのだ、次はない。
できればぎりぎりまで見極めた上で棄権したいというのがマリの思いだ。

“危ないでしょ”
「平気。マリ、1人で戦おうなんて絶対だめだから」
“分かってるよ”

ベッドに座ったマリの背中を覆うように、イルミが被さった。
彼の重みでマリの体制が崩れ、カップの淵で白湯が躍る。
マリは咎めるように目線だけ上に向けた。

イルミはマリの頭に自分の顎を乗せて、携帯を操作した。
もう既に次の仕事の話が来ているのを彼は無表情で読み、消す。
忙しそうだなあとマリは他人事に思って、ふぁあ、と欠伸をした。

マリはライセンスが取れればラッキー程度にしか思っていない。
もちろん取りたいと思う気持ちはあるが、絶対というわけではないし、取れそうな位置にあるなら手を伸ばす。
ただ、手を伸ばしたがゆえに己の身を危険に晒すくらいなら諦めるつもりではいる。
ライセンスを取りたい理由に仕事も学問も名誉も関係ない、ただ胸を張ってライセンスとりました、と師匠と弟弟子に報告したいから、それだけだった。

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