11.
イルミは半日もしないで帰ってきた。
理由は簡単で、イルミがマリと自分の探すべきプレートをすべて獲得してくれていたからだ。
暗殺者は人の顔を覚えることと忘れることに関しては天才的である。
殺すまでは覚えておいて、殺したら忘れる、そうすることで効率的に仕事をすることができる。
マリはうっすらと197番のことを覚えていたが、イルミはそもそも、197番が3人兄弟の長男であることまでしっかり分かっていた。
それに自分の獲物である371番も覚えていたから、話は早かった。

戻ってきたときにヒソカがいたのには苛立ったが、彼のお陰でマリは暇にならずに済んだ。
イルミは複雑な思いを抱えながらも、ヒソカを追い返し、マリの傍に座った。

「出ておいで。少し休もう」
“うん。プレートありがとう”
「別にいいよ。これは俺が持ってるから。最後に渡す」

洞から出てきたマリの脇に手を入れて、イルミは彼女を向かい合う形で膝の上に乗せた。
少し乱れたマリの髪を整え、彼女の体を触り、怪我がないかを入念にチェックする。
外でマリから離れた時は必ずイルミはこの行為をする。
マリはそうやすやすと誰かに傷つけられたり、触れられたりすることはない。
だから、その行為に実は意味はない。

マリはそれをスキンシップの一環であると見ている。
そのスキンシップがマリも意外と好きなので、甘んじて受け入れている。

「うん、怪我はないみたいだね」
“そうだね。何もしてないし”
「マリは何もしなくていいんだよ」
“楽でいいんだけど、楽しすぎると人間としてダメになる気がするから”
「それがいいのに」

マリはイルミが望んでいることを理解している。
理解して、そうはならないように細心の注意を払っている。

イルミの傍にいるのは構わない、マリが傍にいることでイルミ側にどんなメリットがあるのかはさて置きとして、彼女自身は自分の身を守ってくれる人ができたことは大きなメリットだった。
別にマリは弱いわけではないが、戦うことはできない。
昔、それで苦しんだことがあり、できる限り戦闘が起こらない環境を長らく探し求めていた。
今のマリの生活はその希望を叶えるにふさわしい状況だ、誰もゾルディック家の長男の部屋の一部になんて侵入するわけがないのだから。

髪を撫でたり、背中や首元を撫でるように触ったりしていたイルミの手が止まったので、顔を上げた。
いつも通りの闇色の猫目にマリのきょとんとした顔が映っていた。

「マリは本当に思い通りにならないね」
“思い通りになっちゃったらつまらなくない?”
「つまらなくない。むしろ気楽でいいよ」

気楽、イルミはそういった、確かにそうかもしれない。

イルミはマリに人形であることを望んでいる。
彼は自分の大切なものを守るために束縛し、監禁する。
しかし、大抵の人間はそれを嫌がり逃げ出す、彼の弟であるキルアなんてその代表である。
マリは逃げ出す気はないが、キルアの前例があるせいでイルミはそれを信じることができない。

そもそもイルミは人を信じるという行為を滅多にすることはない、目に見えないものに重きを置かないからだ。
イルミに対しては目に見える行動で信頼を感じさせなければならない。
だからマリはイルミの言いつけを破ることは決してない、そんなことをすれば一瞬で信頼がなくなるからだ。

「でも、思い通りにならないとこも好きなんだよね」
“私はもう少し信頼してくれるイルミが好きなんだけどな”
「またそういうこと言う」

じゃれるような言い合いも、スキンシップも2人の相性はかなりいい。
お互いにそういう相手はお互いが初めてで、それ以外を知らないこともあるが、それ以上にもうお互い以外のパートナーはありえないと心のどこかで思っている。

イルミはマリの黒曜石のような瞳に自分だけが映っていることに満足した。
彼女の額や頬や唇にキスを落とすのも自分だけ。
欲を言うのであれば、もう誰もその瞳に映らければいいと思うが、マリはそれを望まない。
擽ったそうに微笑むマリを抱きしめると、甘いミルクのような香りがした。
その匂いがイルミは昔から大好きだった。

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