7.
中学の時、橘に思いを告げられなかったこと。
それは紘子の中で大きなしこりとして残っていた。
次に会ったら、次にあったらと先延ばしにしてしまっていたことを後悔した。

ただ、実際にその“次”友子ってくるとやはりまた、次に回してしまいたくなる。
その気持ちをぐっと堪えて、紘子は橘に向かい合った。

「好きです、付き合ってください」

その時の橘は困惑したような表情を浮かべており、紘子はあまり答えに期待をしていなかった。
桔平の自分に対しての感情は友達止まりの可能性が高いとは思っていた。
それに彼はテニスに夢中で自分を見てくれるわけがないとも。

ただ橘はすぐには答えを出さなかった。
数分だったとは思う。
汗をかくくらいに緊張していて、ゆらゆら揺れるカーテンも、初夏の風が汗で湿った頬を撫でていた。

「俺はまだテニスを続ける」
「うん」
「だからお前を第一にはできないかもしれない」
「うん」
「それでもいいのか?」
「うん、分かってる」

橘がテニスを優先するのは分かっていたことだ。
別にそれでもよかった、テニスをする橘も大好きだったから。

紘子は橘のことが確かに好きで、一目惚れで、どうしようもないくらい彼のことを見て、考えていた。
自分の好意が橘の首を絞めたり、足枷になったりするのだけは絶対に嫌で、橘に負けないくらい強かでいい女になろうと漠然と考えていた。
あくまで橘が一番で、橘の一番が紘子にとっての一番であることを主張したかった。
ただ、主張してしまうと橘がものすごく気にしてしまうだろうことは想像に容易かったから、心のうちに留めておいたけれど。

「廣道の気持ちは、本当に嬉しい」
「…ん、ありがと」
「俺も好きだ、廣道のこと。これからも一緒にいられたらいいと思ってる」

強かであろうと思ったから、振られたら何も言わずに友達に戻ろうと思っていた。
そこまで考えるほど、あまり自信のない告白だった。
だからこそ、好きだの一言があまりにも嬉しくて、何より驚いた。

「え、本当に…?」
「信じてないのか」
「ご、ごめん。ずっと片思いだとばかり思ってたから…」

慌てて謝ると、橘は気にしていないと笑って、頭を撫でた。
あまりに自然な行為だったので一瞬フリーズして、現状を理解して、顔に火が付くかのような思いだった。

窓の傍から離れてこちらにやってきた橘は、これからよろしく頼む、と笑って言って、手を差し出してきた。
紘子はきょとんとしていたが、慌ててその手を握り返した。
握り返したその手を引いて、橘は紘子を腕の中に納めた。

「あ、あの…」
「なんだ?」
「…なんでもない…」

両想いで、同じように好きなはずなのにどうしてこんなにも余裕があるのだろうと思ったけれど。
橘の鼓動が自分と同じスピードで波打っているのを聞いてしまったから、紘子は少しほっとして、嬉しくて、彼の顔を下から覗くように見て、笑って見せた。
橘の顔も赤みがさしているのは、夏の熱気がそうしているだけではないと確信できた。
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