1.
桔平は静かな居酒屋を好んで足繁く通っていた。
その居酒屋はこぢんまりとしていて、無口な博多生まれの店主さんが作る、繊細な味付けの一品料理が美味しいお店だった。

ただ私一人で行くならもっと煩い、悪い意味で庶民的な店の方が落ち着く。
たくさんの人がいるのに、私のことを見ている人は誰一人としていないという感覚が安心できるからだった。
ただ今日は見ている人がいた。

「おじさんたち、一目惚れって信じます?」

桔平と名神を走っているときに後ろから追ってきたパトカーの警官たちに声を掛けられた時は驚いた。
どうやら彼らは休日出勤を強いられていたらしく、本来は休日なのだからとパトカーだけを同乗していた後輩に任せて大阪観光をしていたそうだ。

声を掛けられた時にはすでに出来上がっていたから、調子に乗って今までのことをペラペラと話してしまったが最後、根掘り葉掘り聞かれて答えて、今は号泣に至っている。

泣きながら投げかけた問いに、警官は眉を寄せてうんうん唸り出した。
唸った結果、信じる、と答えた。

「どうして?」
「君は一目惚れをして、彼と付き合ったんだろう?」
「まあ、そうですけど」
「なら、あるんだろうなあ。一目惚れってやつが。俺には分からないけどなあ」

警察官はそういって寂しそうな、だけど悲しそうではない苦笑いを浮かべた。
一目惚れはきっと彼が思っているような、砂糖菓子のように甘く、きらきらしたものではない。
晴れた日に突然鳴る遠雷のように、不可思議で突拍子なく、どこか信じられない現象のようなものだ。

私はその横顔をぼんやりと眺めながら、一目惚れしたときのことを思い返した。
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