5.
2年の間で、なんだかんだ、一番仲のいい男友達は小石川だった。
修学旅行の時の段取り決めだとかで一緒に話したこともあるし、その後も夏の大会を見に行ったし。
男の悔し泣きを見たのはあれが初めてだった、とても印象に残っている。

その顔と、似た顔を今の彼はしている。

「…廣道?どないした、忘れ物か?」
「え…?ああ、普通に小石川探してた」

3年生になって、卒業式を終えた。
特筆することもなく、ハイライトもない地味で普通の中学生活だったかなと思う。
卒業式で泣くこともなかった。
仲のいい友達同士が群れている塊を通り抜けながら、紘子は小石川の姿を探した。

なんで小石川なのかっていうのは、なんとなくだ。
来年も、石川とは同じ学校に行くことが決まっているのに、なぜか彼を探してしまう。
その行為の理由を言葉に表すと何になるのかは去年、なんとなく察した。
察したけどその言葉を告げることなく、今まで来ている。
勇気がないのが一番の理由だったけど、小石川がテニスに夢中だったというのもある。

とりあえず、小石川を探し始めて20分ほど。
彼は教室に1人でいた。
教室の黒板にはありきたりな、卒業おめでとう、という、デコレーションされた綺麗な字と、もう戻ってくるなよ!の走り書きがされていた。

「なんで俺探しとったん…?友野はどうしたん?」
「友子は明日2人で遊ぶからいいの。なんとなく探してた。姿見えないし。いくら空気な副部長でも姿が見えないのは不安だし」

3年間、ずっと仲が良かった友子は高校入学と同時に東京に戻る。
別に彼女も泣いたりすることはなく、また連絡するからね、と軽い様子だった。
結構大阪と東京は遠いような気がしていたが、転勤族の友子にとってはそうでもないらしい。
ともかく、小石川が考えるような感動の別れはない。

失礼なやっちゃな、とくしゃりと笑った小石川だったけど、彼こそ本当に泣きそうだった。
小石川は真面目だし、卒業とか別れとか、そういう感情の大きく動くイベントごとには弱いのかもしれない。

「そういえば、小石川こそ、白石はいいの?」
「…あーさっき会ったわ、またテニスしよなって」
「青春だね」

一瞬、小石川の肩が跳ねたのを紘子は見逃さなかった。
先ほど廊下で、白石とすれ違ったのだ。
挨拶の1つでもしようかと思ったのだが、走り去る横顔が苦しそうだったからやめておいた。
白石と何かあったのかな、と思ったけど、下種な勘繰りはやめておく。
せっかくの思い出に土足で踏み入ることは失礼だろうから。

白石と小石川はテニス部の部長副部長でとにかく仲が良かった。
2年3年と3人同じクラスだったから、そのことは良く知っている。

「テニス一色の青春やったけどな」
「いいじゃん」
「…恋愛の1つでもしておくべきやったんかなあ」
「ちょっと後悔してる?」

まあ、ちっとはなあ、と小石川は笑った。
開けっぱなしにしている窓から、桜の花びらが彼の立つ隣の机に乗った。

小石川が恋愛に関してどのように後悔しているのか、紘子にはあまりわからなかった。
ただ、なんとなく、こうかなと思うところはあった。
小石川よりも先に恋愛ごとに興味を持っていた、紘子だからなんとなくわかることだ。

小石川は中学3年で後悔を一つ残した。
自分はあまり残したくないなと思った。

「じゃあ、次に後悔しないようにしない?」
「せやなあ。次は後悔せんように3年過ごさんとな」
「私もそう思う。だから、今からその準備をしようと思うんだけど」

そりゃ、志が高いこって、と笑われた。
小石川は3年間を通して紘子が思ったよりも適当で、マイペースで、それでいて一緒にいて楽しい奴だと感じていた。
準備をしようと思うと紘子に真顔で言われた時も、そんなことを俺に宣言しなくても、とくらいに思っていたと思う。

その時だけ、紘子は珍しく真面目で、小石川は珍しく不真面目に物事を捉えていた。

「私、小石川が好き。高校から恋人として一緒にいてくれませんか」
「え、ほんま…?」
「ほんと。突然だからあれだろうけど、ちょっと考えてくれたら嬉しい」
「…なんや、俺モテ期なん…?」
「え。他にも誰かに告白されたの?」

小石川の言葉に紘子は少し焦って聞き返した。
すると、小石川はちゃうねん、気にせんといて、と慌てて返答した。
地味系で通っていた小石川が自分以外の人にも告白されていたとは、と思う反面、まさかとも思い始めていた。

返事は今度でいいよ、と言って教室を出ようとすると、小石川に手を引かれた。
振り返ったときに一番目についたのは小石川じゃなくて、桜だったが印象に残っている。
それくらい、その年の桜は早咲きで、主張が激しかった。

「待たんでええわ。俺も廣道、多分好きやから」
「あ、ありがと」
「俺なんかでよかったら、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

思えばこの時から、私は布石として3年間彼の恋人をしていたような気がする。
別にそれに関して恨み言があるとか、彼を取って行った人に嫉妬とか、意外とそういう感情はない。
お互いに大切にしあっていたと思う、恋だったとも思うし、間違いなく好きだったし、今も結構好きだ。

だけど、今は好きという感情を抱きつつも、幸せになれよって感じが強い
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