1.
桜を見ると、誰でも何かしら思うことがあるんだろうと思う。
あまりに印象が強すぎる春の象徴だからというのもあるし、春というのは出会いと別れが交錯する季節だからっていうのもある。
紘子にとってもまた、春は思い入れの深い季節で、好きになれるようななれないような、不思議な気持ちになるときだ。

外には桜という1年のうちで最も人気の高いであろう花が咲き誇っている。
だというのに、それを無視して植物園になんて来ている自分は相当なひねくれ者だ。
そう思いながら、紘子は外を歩く人の流れを見ていた。

スマホには一つも通知が来ない。
それにがっかりするやら、ほっとするやら。
タイムラインの過去に遡り、たっぷりとふざけたスタンプの押されたタイムラインを少しだけ眺めてから、それを閉じた。

「あいつ、元気そうだなあ…」

高校3年以来、一切連絡を取っていない元カレ。
今思えば、まるでドラマのワンシーンのモブキャラのような学生時代だった。
悪くはなかったけど、主人公にもヒロインにもなれなかった。
いや別に、なろうと思っていたわけでもないけれど。

スマホをポケットに突っ込んで、外の桜を仰ぎ見た。
大して好きでもない桜だが、あの時のことを思い出すきっかけになる象徴だから、嫌いにはなれない。
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