08.B
初夏に引っ越しをして、リドルくんに新しい部屋ができた。
といっても、私の収入ではあまり広い部屋に引っ越すことはできなかったから、彼の部屋はロフトの上だ。
ただ、高さのある部屋で、意外とロフトが広いからそこに決めた。
三角屋根の部分は空洞になっていて、リドルくんが少し頭を下げれば立てるくらいの高さがある。

きっとリドルくんは本をたくさん読むだろうと思ったので、職場で使わなくなった本棚を持ってきて置いておいた。
部屋を狭くしてしまったかなと思ったけど、リドルくんはそこにせっせと本を詰め込んでいたようだからよかった。

「…名無しさん、学校の準備の買い物なんだけど」
「ああ、うん。行っておいで」
「うん…あの、泊まってきてもいい?」
「え、いいよ。友達と?」

そう、と微笑んだリドルくんはすぐに手元のマグに視線を落とした。
そろそろリドルくんの挙動が気になる、今年でリドルは15歳、来年、16歳になる。
友人関係や彼のプライベートに何か口出しするつもりはないけれど、先を知ってしまっている以上、ドキドキする。
いつか、思っていたより早く、リドルくんがこの家からいなくなってしまうかもしれないと思うと苦しい。
ただ、友達と課題をするだけならいいなと楽観的に考えることしかできない。

「お泊りしてもいいけど、危ないことはしないこと。いい?」
「分かってるよ」

危ないことはしないこと、と伝えると、リドルくんは私の目を見て頷いた。
…私にできることはリドルくんを信じてあげることだ。
馬鹿みたいだけど、見守るしかできないならできる限り彼の味方でありたい。

リドルくんには相変わらず多めにお小遣いを渡しておいた。
今回、彼はそれを素直に受け取って家を出た。

リドルくんは見ている限り、特に問題はなさそうだ。
だけど隠すのが上手なリドルくんだからなあ、とため息をついた。
素直に相談するタイプでもないし、こちらが一歩踏み込めば警戒するだろうし。
考えれば考えるほど、私にできることは少ない。
いつだって思う、私にも魔法が使えたならと。


リドルくんは、一泊して次の日の夕方に帰ってきた。
夕飯まで食べてくるかと思ったから慌てて彼の分も作った。

「おかえり。早かったね」
「ただいま。暗くなると危ないと思ったから。…はい、これお土産」
「あ、ありがとう。開けていい?」
「うん」

リドルくんは私に可愛らしくラッピングされた箱を手渡して、すぐに洗面台に向かった。
とりあえず、もらったプレゼントをリビングに持って行って、眺めてみた。
ロゴはどう考えても女性ものっぽい可愛らしいものだ。
パステルカラーのストライプが入った箱も、女の子らしくて…リドルくん、苦労したんだろうな。

丁寧に包装された包み紙を剥がすように開けてみると、中に箱が入っていた。
その中にはマグカップ、…そうだね、割っちゃったからね、マグ。
黒いマグはリドルくんらしいなあと思っていたら、正面に猫の顔があった。

「わお…可愛い」
「…僕は別のにしたら?って言ったんだけど、オリオンが兎とかいうから…それよりはいいかと思って」
「オリオンくん、可愛い趣味してるね…私は猫のが好きだからこっちで正解!ありがとうね」
「どういたしまして」

よく見たら取っ手も猫の尻尾みたいになってた、可愛い。
それにしても、オリオンくんが兎というとは…可愛いけど、イメージしていたのと違う。
多分オリオンくんが女性に贈るならとか言って女の子物を扱っている雑貨屋さんにリドルくんを引きずって入って行ったんだろうなと思う。
リドルくんは絶対にそういうお店に入りたがらないだろうし。

照れたのか、今日の夕飯は?と台所に逃げてしまったリドルくんの後を追って、マグカップ片手に台所に入った。
軽く洗って早く使おう。

黒猫のマグは私に仕事の相棒になったのは言うまでもない。

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