07.D
リドルくんは去年と同じように甘いものを送り続けてくれた。
彼もマグル界の戦争については確認してくれているらしい、激化していることもよく知っているのだろう。
缶に入ったクッキーやチョコレートをそのまま送ってくれるようになった。

でも時々、明らかにリドルくん宛てみたいなチョコレートやお菓子があるから困ったものだ。
チョコレートにハートマークやら、リドルくんのイニシャルがチョコペンで書かれている、徳中と思わしき逸品だった。
開けてみて判明するタイプのもので、多分開けずに送ってきたんだろうなと思う。
そういう時は慌てた様子の字が書かれた速達の手紙が来るのがおかしかった。

そして4年目の夏、15歳のリドルくんはうんざりした顔でうちに帰ってきた。

「…どうしたの?」
「何でもない」
「いや…何でもない顔じゃないけど…まあいいや、お帰り」

むっつり顔で荷物を狭い収納スペースに押し込んで、リドルくんは手を洗いに行った。
私はその背中を見送りながら、リビングに戻る。
テーブルの上に散らかしたままだったチラシ類を片付けようと、手を伸ばしてやめた。
その前にお茶を入れるためのお湯を沸かさないと。

一足遅れてリビングにやってきたリドルくんは、テーブルに置かれたチラシを見て、不機嫌そうな低い声で唸るようにつぶやいた。

「何これ?」
「引っ越ししようかと思って」
「…何で?」
「仕事場が変わるの」

そう、私の仕事先が引っ越しをするのだ。
私の職場は日本好きな珍しい英国紳士がやっている新聞社で、ずっとそこに勤めている。
これからも勤め続ける予定だから、その職場の近くに引っ越そうと思ったのだ。
ただ、私一人ではアパートを借りるのが難しいから会社名義の場所になる。
社長がいくらか見繕ってくれたので、それを選んでいたのだ。

というか、リドルくんいつの間にか声変わりしてる。
成長してるなあ、とちょっと嬉しくなったが、顔に出すのはやめた。
明らかにリドルくん、不機嫌だ。

「…それで引っ越すんだ」
「そうだよー。ロンドン中心部に近くなるの」

新しい職場はロンドンの繁華街から電車で10分くらいしか離れていない。
都市部は危ないからと思っていたけれど、最近戦争も収束気味で本土は穏やかなものだ。
下手な地方都市で過ごすよりも、きっと偏見も少ないと社長に言われた。
日々の暮らしも楽になるかもしれない。

お湯が沸いたので、ポットにそれを注いで、2人分のマグを指に引っ掛けてリビングに戻った。
リドルくんはチラシを睨むばかりで何も言わない。

「…リドルくんはなんで機嫌が悪いの?」
「だから何でもない」
「何でもなくないでしょ…学校でなんかあった?」
「何でもない!」

突然声を荒げるからびっくりして、マグを落としてしまった。
ガシャン、と盛大な音がしたので明らかに割った。
早く破片を拾わないと危ない。

「名無し!」
「っえ、あー…あっつ!?」
「馬鹿!何してるの!?」

そういえば、もう片方の手にポットも持ってるの、忘れてた。
中に入っていたお茶をこちらも盛大に、膝の上に零してしまった。
リドルくんは途中で気づいていたようで、止めようとしてくれていたようだが間に合わなかったらしい。

リドルくんはその場で動くな、と私に行って洗面台に走って行った。
タオルを取ってきてくれるらしい。
私はその間に割れたマグの大きな破片を集めて、残っているマグの底の部分に乗っけていた。

「名無しさん、危ないから触らないで。これ濡れタオル…これは僕が片付けるから、冷やしてきて」
「え、あ、…はい」

しっかりしすぎているリドルくんに私は危ないからとも何とも言えず、すごすごとお風呂場に向かった。
履いていたジーンズを脱いで、シャワーの水で冷やす。
あんなにリドルくんに怒鳴られたのは初めてだ。

もしかして反抗期なのかもしれない。
そうでなくても思春期だし、ちょっと踏み込みすぎたかな。
リドルくんが不機嫌な理由なんて、些細なことかもしれないし、突っつきまわした私が悪かったのかも。

赤くなった太ももを冷やしているうちに、頭も冷えてきたような気がする。
洗濯の終わった洗濯物がそのまま脱衣所に積まれていたので、その中からスカートを選んで履き替えた。
これなら太ももを冷やしながら動ける。

「リドルくん、ごめんね。怪我してない?」
「僕は平気だけど…名無しさんは大丈夫?これ、熱湯でしょ…」
「お茶は熱湯でいれてないから平気だし、服の上からだったし大丈夫だったみたい。とりあえず今日一日冷やしておくよ」

火傷した足に濡れタオルを巻いた状態でリビングに戻ると、しゃがんで陶器の破片を拾っていたリドルくんが心配そうな顔でこちらを見た。
流石に足を火傷した状態で掃除は難しそうなので、リドルくんに掃除をお任せして椅子に座っておいた。
あとお茶もいれてもらった…どっちが親なのかわかったものではない。

「カップ、とりあえずあったの使ったけど」
「あ、うん。ありがとう」

地味にマグを割ってしまったことにショックを受けている。
結構気に入っていたからなおさらに。
まあ、不注意によるものだから自業自得だ。

ふと見上げたリドルくんは何か思案顔だった。

「…引っ越し、いつするの?」
「夏中にはやっちゃうよ。じゃないとリドルくん、学校に行っちゃうでしょ。その前に終わらせないと」
「なんで?」
「いやほら、リドルくんのものの持ち出し、勝手に私がやるわけにはいかないでしょ?リドルくん、私に勝手に私物を触られるの嫌じゃない?」

ああ、うん、とあいまいな返事をされた。
なんで、と聞いた時の顔が本当に不思議というような感じだったし、もしかして、置いて行かれると思ったのかな。
学校で何か嫌なことがあったのも確かだと思うけど、それに加えて引っ越しのチラシで不安を煽ってしまったのだろう。
可愛いなあ、と思ったけどそれを言うと拗ねるだろうから、そこには触れないで気づいていないふりをしておいた。

リドルくんの機嫌は直ったみたいだった。
その日の夕食はリドルくんが1人でコテージパイを焼いてくれるくらいには、ご機嫌だった。

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