05.O
彼は時々、手紙を送ってくるようになった。
フクロウが届けてくれるパターンではなく、普通に郵便受けに入っていた、ちょっとがっかり。
でもリドルくんは私が魔法を知らないと思っているから、何らかの方法で郵便受付にしてくれたのだろう。

内容は、自分の体調の話から私の身を案じることだとか、不便はしていないかだとか、誕生日プレゼントやクリスマスプレゼントのお礼だとか、色々だ。
手紙が来るたびに、私は嬉しくなってその一枚一枚を、この間の夏に買ってきてもらったお菓子の入った缶に大切にしまった。
写真も時々送られてきた、動かないものだ。
それは新しく買ったアルバムに仕舞った。

そして、2年目の夏の夕食の時、リドルくんは初めてお小遣いが欲しいと言った。
どうやら13歳になったリドルくんには、友達がいるらしい。

「もちろんいいよ。ロンドン?」
「うん。でもそんなにいらないから」
「多く持っておいて損はないから、持って行きなさい。何があるかわからないんだから」

正直、リドルくんを抱きしめて飛び跳ねたいくらい嬉しかった。
自分のことではないはずなのに、何よりも喜ばしいことのような気がした。
怪訝そうにそんなにいらない、と突き返してくるリドルくんを言い包めて、ちょっと多めに持たせておいた。
ロンドンは人が多いし、何があるかわからない。

今回も送って行きたかったが、もし友達が純血主義だったら迷惑になりそうなので仕事があると家に残った。
リドルくんはそんなに気にしていなかったから、それでよかったのだと思う。

「名無しさん、何か買ってくるものある?」
「うーん、ないかな。それにしてもリドルくんがお友達とかあ…」
「…馬鹿にしてる?」
「違うってば。いい学校に行けたみたいで良かったなって」

孤児院にいた頃、リドルくんは他の子に避けられていた。
リドルくん自身、そこにいる子たちが気に食わないみたいで攻撃を加えることもあった。
私の家にいる時はそんなことなかったけど、孤児院の話と原作を思い出すと、そんな風だったらしい。

それに対して私が何か言うことはなかったけど、寂しいことだなとは思っていた。
だから、遊びに行くような友達ができたことが嬉しいのだ。
その友達が、どういう子なのかはさておきとして。

「なんて子?」
「オリオン。1個下なんだけど」
「オリオンくんか。すっかり忘れてたけど、リドルくん、先輩かあ…」
「…なんかその言い方、馬鹿にしてるみたいに聞こえる」
「そんなことないってば」

ちょっとリドルくんは過敏になっているみたいだ、反抗期の一種かな。
オリオン、名前だけだと分からないな。
同室のやつと言っていた子は、その子のことらしい。
そうか、年下だから奴なのか。

他にはいないのかと聞くと、リドルくんは面倒くさそうに話し出した。

「先輩とも仲良くなったけど…たぶん、名無しさんは発音できないと思う」
「え、何それ」
「アブラクサス・マルフォイ」
「…それはまた、発音しにくい名前だね…。オリオンくんはフルネームなんていうの?」
「ブラック。こっちは簡単でしょ」

マルフォイの名前が出てきた瞬間、発音うんぬんよりも、その聞き覚えがあるファミリーネームに背筋が凍った。
ついでに聞けそうだったのでオリオンくんのファミリーネームも聞いてみたら、こちらも聞いたことがあるものだった。

マルフォイとブラック。
ちょっと待て、これがっつり純血の家じゃないか。
原作で出てきていたのは、ドラコ・マルフォイやシリウス・ブラック。
マルフォイの方は最終的に敵側に回っていた、闇の帝王側に。
シリウス・ブラックは家の純血主義が嫌いで家出していたはず。
ちょっと待って、これヤバいヤツじゃないの。

「先輩とも仲いいの?」 
「よくしてもらってるよ」
「そう。それはよかった」

良くしてもらっているというのは、どういう意味でだろう。
ごく一般的な先輩と後輩という間柄であれば問題ないだろうが、不安も残る。
自分には何もできないと分かっていても、気になるものは気になる。

リドルくんは、あまり先輩や友達の話に興味がないようで、すぐに食べ終わった食器を片付ける作業に移ってしまった。
友達に興味関心がないのも大問題だ。

「ねえ名無しさん、甘いもの、何が好き?」
「え?なんで?」
「…何でも。いいから教えて」
「うーん…甘すぎないものだった何でも。でもグミが結構好きだったりするかな」

もともと甘いものが好きな方だから何でも好きだけど、グミとココアが好きだったりする。
ふうん、とやっぱり興味がなさそうに答えたリドルくんに首を傾げながら、私も食器を持ってキッチンに入った。

今まで、台がないとシンクに手が届かなかったリドルくんだが、今年、台を卒業した。
大きくなったなあと、目を細めるばかりだ。

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