04.R
リドルくんはよく働いてくれた。
私の代わりに料理以外の家事は殆ど彼の仕事になった。
流石に12歳のリドルくんに料理をさせるのは不安があったため、料理だけは一緒にやった。

宿題をやるのと、家事でリドルくんの一日はほとんど終わってしまうみたいで、少年らしい遊びもなく、非常に申し訳がなかったが、彼はそれを気にする様子もなかった。

「リドルくん、今度休みがあるんだけど、何かしたいことはある?」
「え、別に」
「…ええー」

と、このような感じでどこかに行こうと言っても、家でのんびりしていたいとのことだった。
まあ日本人の私と一緒にどこかに行こうものなら、面倒なことが多いというのも確かなのであっさりと身を引いたが。

夏休みの間、リドルくんはマーケットと家の往復くらいしかしなかった。
たくさんお手伝いをしてもらったから、何かご褒美を上げたいのだ。

「あ、そうだ。そろそろ学校も始まるし、その準備にお友達と行ってきたらどう?」
「ああ…うん」
「お小遣いあげるから行っておいで。もしあれなら泊まってきてもいいからね」
「はい」

はい、といった彼だが、そのあとすぐに食卓に乗っていた空の皿を持って台所に行ってしまった。
特にうれしそうでもない。
子供らしからぬリドルくんに、私はどうしてあげたらいいのか分からないのだ。
子育てというのは難しい、短いながらも教職に就いていたが、教える立場ではなく親の立場で物事を進めることの難しさを初めて実感している。

やはり、あまり仲のいい友達はまだいないのだろうか。
だとしたら、少し無茶を言ってしまったのかもしれない。
一応、買い物までの日付は今日から1週間後にしておいた。
そうすれば、友達とも連絡を取れるだろうし、どこかしらで予定が合うだろう。

そう思って、リドルくんに多めにお小遣いを渡したのだが、その半分くらいは返された。
泊まりはしないということだった。
いや、うん、そうか、12歳でお泊りはないか、と必死に自分を慰めながら、貯金箱にその返金されたお小遣いを仕舞ったのが3日前。

不機嫌そうなリドルくんと一緒に駅まで来た今日、どうなることやら心配でしょうがない。

「帰り、気を付けて」
「え?ああ…うん、リドルくんも気を付けてね」

駅について別れ間際、リドルくんは私の身を案じてくれたらしい。
もともと付いてこなくていいというのを無視して見送りに来ていたから、すぐに頷いておいた。
彼はかなり心配症で、慎重派だ。
リドルくんはお財布の入った斜め崖の鞄を身体から離さないようにしながら、はい、しっかり頷いた。


私の帰り道を案じつつ、ロンドン…のどこかにあるであろう漏れ鍋に向かったリドルくん、出発時刻は朝の10時だった。
帰りは自力で家まで帰ってくるから迎えは必要ないと言ったリドルくんが家に帰ってきたのは夕方4時。
早すぎやしないだろうかと目を丸くした。

「ただいま」
「え!?お帰り…」
「…何?」
「早いなあと思って…つまんなかった?」
「別に…だって必要なものを買うだけでしょ」

むすっとした顔をしているリドルくんは、斜め掛けの鞄をコートラックに引っ掛けると、すぐに洗面所に向かってしまった。

ここからロンドン中心部まで、大体30分くらいだ。
行き帰りの時間を考えると、滞在時間は5時間弱。
本当に買い物しかしてこなかったんじゃないか、この子。
友達と会う約束もしていなかった可能性が高すぎる。

本当に友達がいないのか、それとも1人で買い物をしたい派なのか。
どちらとも取れるが、私的には心配の種だ。

「名無しさん、これ」
「え?」
「お土産。ねえ、今日のごはん、何?」
「…あ、ありがとう。今日はオムライスだけど…デミグラスにしようか」
「うん」

困ったものだな、と冷蔵庫を覗きこむ私の後ろに、いつの間にかリドルくんが立っていた。
ずい、と私の前に差し出されたのはマフィンやフィナンシェといった、ちょっと高価なお菓子だった。
お土産の方が、学校生活に必要なもの以外の自分のものを買うよりも高かったんじゃないだろうかと思う。

将来、リドルくんにちょろいと思われてもいい。
利用されていたとしても、嬉しいものは嬉しい。
なんでもなさそうに食器の準備を始めたリドルくんを抱きしめたくなったけど、やめておいた。
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