猫の大冒険

バーティの予想通り、スバルは3日もすれば元通りになった。
スバルの機嫌がよくなった同時に、レギュラスの機嫌もよくなり、スバルもますます元気を取り戻した。

「スバル、行っておいで」
「にゃあん」

今日もスバルはレギュラスとともに部屋を出て、寮を出た。
スバルは、今日は何をしようかと考えていた。
いつもはシリウスのベッドに行って眠るのだが、今日は天気も自分の調子も良かった。
せっかくだから、いつもと違うことをしてみようと思っていた。

学校内を冒険するのもいいし、外に出てみるのもいい。
迷子になったら誰かに助けてもらえばいいし、とスバルは気楽に考えていた。
どこかから吹いてくる風が、彼女の髭を揺らす。
風はだいぶ冷たくなっていた。
そろそろ、雪など降り出すかもしれない。

スバルは風に誘われるように、外に出た。
風はそう強くはなく、スバルの小柄な身体が吹き飛ばされるような心配もなかった。
できる限り、草の生い茂っていない道を選んでスバルは歩いた。
見上げると、遠くに白い雲が見えて、頭上には少し背の高い草がゆらゆら揺れている。
スバルはその草と遊んで、それからまた歩き出した。

「わん!」
「ふみゃっ」
「お?猫か?お前さん、どっからきた?」

スバルが気ままに散歩をしていると、前から大きな生物が走ってきた。
その生物は勢いをそのままに、スバルに飛びつこうとしたのでスバルは慌てて避けた。
避けて、そのまま近くの木へ駆け登る。
実は木に登ったことなどないスバルだが、意外にも猫らしく登れて、少しびっくりした。
慌てすぎて変な動きをしてしまったことと、できないと思っていたことができたことへの恥ずかしさを紛らわすように、彼女は身体を舐めた。

一頻り身体を舐め終えると、スバルはようやく前を見た。
目の前には男の人間がいた。
毛むくじゃらで、見たことがない人だ。

「にゃあ」
「生徒の飼い猫か…俺は猫が好かんがなあ…」
「にゃーあ」

とりあえず、挨拶の念を込めてスバルは一鳴きした。
彼の足元には先ほどの大きな生物、犬がいて、わんわんと吠えている。
躾がなっていないな、とスバルは目を細めた。

大柄の男はうんうんと何やら唸っている。
早いところ、下にいる犬を何とかしてほしいとスバルはにゃあにゃあ鳴いて抗議した。
それが伝わってか、男は犬を見て遠くの小屋を指差して何か命令した。
犬はしきりにスバルに向かって吠えていたが、2度目の命令ですごすごと小屋へと続く道を歩いて行った。

「うにゃっ」
「おーおー、大丈夫か」

スバルはうっかり、木の上にいることを忘れていた。
レギュラスの肩の上から飛び降りるくらいの感覚で降りたので、滞空時間が長くて驚いた。
何とか受け身は取れたからよかったが、驚いた。
それもこれも、大きすぎる人のせいだとスバルは半ば八つ当たり気味に抗議の鳴き声を上げたが、男は動じなかった。

男はスバルを軽く抱いて、お城が見えるように立たせた。

「ほれ、ちゃんと家に帰んだぞ」
「にゃあ」

スバルはそのお城に向かってトコトコと歩いて戻ることにした。
その途中で、暖かい空気が流れている場所を見つけた。
スバルは誘われるように、そちらへと歩いていく。
冷えてきたことだし、ちょうどいい。

暖かい空気を流している場所は、ビニールで覆われていた。
ただ、1か所だけ地面とビニールの間に小さく穴が開いている場所があって、風はそこから吹いてきていたようだった。
スバルはそこから中に忍び込んで、辺りを見渡した。

とても温かい室内で、快適だ。
ただ、物が少し多い場所のようだった。
大きな白い台があって、その上にはにゅるにゅると何かが動いている。
スバルはその動きに夢中になる気持ちを抑えて、部屋の端から端まで歩いてみた。
地面には何もないみたいだし、人もいないみたいだった。

「にゃん」

1つだけ茶色い台を見つけて、その傍にあった赤いバケツも見つけた。
そのバケツを使って、スバルは何とか台の上に乗ることができた。
茶色の台の上には何もなかったが、そこからの景色は不思議なものだった。

白い台にはにゅるにゅる動く蔓を持った植物がたくさん置かれていた。
先ほど下から見えたものは植物の蔓だったのか、とスバルは納得した。
触ってみたいものの、白い台へは飛び乗れそうもない。
スバルはあっさりと諦めて、茶色の台の上で丸くなった。
暖かくてちょうどいいから、そこで昼寝をすることにした。

「ぴゃあっ!?」

気持ちよく眠っていたスバルだったが、何かが背を撫でた感触がして、飛び起きた。
その場から距離を取って辺りを見渡すと、植物の蔓がスバルの寝ている場所まで伸びてきていた。
ゆらゆらと動いているその蔓が、スバルの背を撫でたらしい。

スバルは警戒しながらも、その動きに目が離せなくなった。
蔓には棘がびっしり生えており、先端には口と思わしき部分がある。
動きが猫じゃらしに似ているため、スバルはどうしてもその動きに目を奪われてしまう。
危ないと分かっていても、ついつい前足でせっせとその蔦と遊んで、無事、その蔓を千切ることに成功した。
スバルは嬉しくなってその蔓を咥えて、城に戻った。
いつも通り、スリザリン寮に戻ろうとしたとき、前からレギュラスが歩いてきているのが見えた。
スバルはダッシュで彼の足元に駆け寄り、喉を鳴らした。

「スバル、お帰り。外は…楽しかったみたいだね」

レギュラスは泥まみれのスバルを見て、苦笑いした。
スバルは非常にご機嫌だったし、口に咥えている蔓を戦利品のように掲げているし、どうやら大冒険をしてきたらしい。
レギュラスはスバルに軽く清め魔法をかけて、抱きかかえた。
隣にいたバーティがうわ、と声を上げてレギュラスから距離を取った。

「何?」
「いや、スバルが咥えてんの、有毒食虫蔓じゃね…?」
「え!?」

スバルが嬉しそうに咥えているものを確認すると、棘はあるし、先端に牙はついているし、
確かに有毒食虫蔓らしかった。
そんなものを咥えていて大丈夫なのか、と心配になったがスバルは極めて元気そうだ。

バーティに頼んで、魔法薬学の時に使っている革の袋にその蔓を仕舞った。
スバルは褒めて褒めてと言わんばかりにレギュラスを見上げているので、彼はその額を撫でながら、おてんばなのも考え物だなと笑いながら零した。


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