兄と猫

スバルは気ままにホグワーツ内を散歩する。
首からかけたネックレスチェーンのような首輪は、時折ちゃらちゃらと音を立てる。
スバルはトコトコと歩いて、器用に動く階段を使って、上を目指した。
普段スバルが寝床にしているスリザリン寮は、地下深くにあり、日が差さない。
暖かい日陰で昼寝をするのが好きなスバルにとっては、夜以外快適に過ごせない場所だった。
だからスバルは昼の間だけ、別の場所で眠ることにしている。

レギュラスが1時間目の授業に出掛けるのと同時に、スバルは部屋を出て、目的地に一直線なのだ。
その目的地のすぐ目の前の絵画の前で、スバルはちょんと座って、人が来るのを待った。
絵画は、賢い猫ねえ、どこからきたの?などとスバルに話しかける。
スバルはにゃあ、にゃあと鳴いて答えた。

「あら…誰の猫?」
「さあ?でも誰かの猫なんじゃない?」
「そのネコちゃん、ずっと人が来るのを待っていたのよ。可哀想だから早く合言葉を言って、入れてあげなさいな」

やがて、寮の前に人がやってきた。
赤と金色のネクタイをした女の子たちだ。
スバルはその子たちの足元にすり寄って、にぃ、と鳴いた。
女の子たちは、可愛いときゃっきゃと騒ぎながら、寮へと続くドアを開けた。

スバルはその女の子たちの足元を抜けて、グリフィンドール寮の中へと入った。
スリザリン寮と違う明るい寮内は、赤で統一されている。
慣れた様子でスバルは男子の部屋に繋がる階段に向かったが、女の子たちに抱っこされて阻止されてしまった。

「にゃあ」
「今、男子部屋のほうに行こうとしてたよね?」
「じゃあ、誰か男子の猫ってこと?」
「うーん、そうなのかも」

スバルを抱きかかえた女の子の前にいる、赤毛の子がそっと手を伸ばしてスバルを撫でた。
眠たいが、まだ女の子たちに構う余力はある。
子猫と大差ない大きさのスバルは女の子たちが抱っこしても重くない。

スバルを撫でていた赤毛の子が、スバルの首にかかっていた首輪に気が付いて、それに付いているプレートを読み上げた。

「スバル…、って書いてあるわ」
「じゃあこの子、スバルっていうのね」
「そうみたい」

スバル、と抱っこしている子に呼ばれて、スバルはにゃあともう一度鳴いた。
賢いふりをしていると、大抵の人には喜ばれることをスバルは知っていた。
スバルの喉元を掻く赤毛の子の手が気持ちいい。

談話室のソファーに座って本格的にスバルを可愛がり始めた2人に、スバルはまあいいかと丸くなった。
本当は昼間の静かな男子部屋のベッドの近くの出窓で眠るのがスバルは好きだったが、たまにはこういうのも悪くないと思ったのだ。
女の子たちの指や手はしなやかで、いつも自分の喉元を掻いてくれるレギュラスとはちょっと違った趣がある。
それもまた、スバルを楽しませた。

「やあリリー!何やってるんだい?」
「ちょっと、ポッター何するの!スバルが起きちゃったじゃない」
「ん?猫かい?リリーに可愛がられるなんて狡いぞ!」
「あ?スバルじゃねーか。なんでお前こんな媚売ってんだよ…」

うとうとと寝かけていたスバルは、突然の大声にびっくりして飛び上がった。
辺りを見ると、いつの間にか黒い毛むくじゃらの玩具に似た頭をしている男の子とシリウスが立っていた。
スバルは立ち上がって、シリウスの傍に寄った。
そう、昼寝の場所はいつもシリウスの枕元だ。
日当たりも良好で、家の匂いと似た匂いがするから落ち着くのだ。

スバルはシリウスが伸ばしてくれた腕に飛び乗り、そのまま肩によじ登った。
シリウスの肩から見ると、ポッターと呼ばれた男の子は本当に玩具に似た髪形をしていた。
ついつい手を伸ばしたくなる。

「オイコラ、スバル。お前危なっかしいことすんな」
「去年は見なかったけど、シリウスの新しいペットなのかい?」
「いや、弟の猫だけど…まあ、俺も世話見てたから懐かれてんだよ」

前足でポッターの髪を触りたくなって、後足だけで立とうとしたらシリウスに止められた。
スバルはもともと少し鈍い猫だ、あまり運動神経は良くない。
シリウスは危なっかしいスバルを肩から降ろして、腕に抱いた。

リリーが名残惜しそうに猫を見ている。
どうやら彼女も猫が好きらしい。

「昼寝に来たんだろ、グリフィンドールの方が日当たりがいいから」
「ああ、なるほど。君の弟君、スリザリンだもんなあ。日当たりは最悪だろうね」
「夜はいいんだろうけどな」
「あら…じゃあ私たち、お昼寝の邪魔しちゃったかしら?」

リリーは不安そうにシリウスの腕の中のスバルを覗き見た。
スバルのまん丸の金色の瞳がぱちくりと瞬きをする。
別にスバルは邪魔をされたとは思っていない。
それに、彼女たちには寮の中に入れてくれた恩があるから、少しくらい遊んであげるくらいなんてことはない。
スバルはにゃあと鳴いて、ごめんねと彼女を撫でるリリーの手を舐めた。

リリーはそれだけで嬉しそうに笑うし、スバルはとてもいい気分だ。
いつものシリウスの匂いで、スバルは眠たくなってきた。
くあ、と欠伸をすると、シリウスが部屋に置いてくる、とスバルを連れて部屋に戻った。

「ほら、スバル。ここで寝てろ。でもレギュラスが戻ってくる前に、スリザリンの部屋に戻るんだぞ?いいな?」
「にい」

シリウスがそうやってスバルに言うのには理由がある。
レギュラスはシリウスよりも奥手で、人見知りがある。
スバルがいれば、少しでも話のきっかけができて馴染みやすくなるのでは、何よりレギュラスが安心できるのではないかとシリウスは思っている。

スバルは猫だし、猫は日当たりのいい部屋を好むのもわかるが、できれば部屋に帰ってきたレギュラスを迎えてやってほしい。
猫にそれを望むはおかしな話だが、でも、賢いスバルならわかってくれるだろうとシリウスは信じている。
無論、スバルはそれを心得ていて、夕方、シリウスが部屋に戻るころにはスバルの姿はないのだった。


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