秘密の部屋
猫の毛が付くのも躊躇わず、オリオンはスバルを抱いて部屋を出た。
幸いなことに、猫の毛を非常に嫌がるヴァルヴルガは今日、実家に一人帰省している。
スバルの毛並みは黒だから、ローブについてもあまり目立たないのがいい。
少しくらい抱いてもヴァルヴルガにはばれないだろう。
腕の中で大人しくしているスバルを褒めるように頭を撫でながら、オリオンはキッチンへ向かった。

「クリーチャー?」
「ご、ご主人様!申し訳御座いません、お呼び頂いておりましたのに…!」
「いやいい。レギュラス、あまりクリーチャーを困らせるな」
「…スバルのためにちょうどいい籠はないかと探してもらっていたんです」

キッチンにはレギュラスがクリーチャーとともに何かを探していた。
棚は開け放たれ、棚の中に仕舞われていたカップや皿が作業台の上に散乱している。
ヴァルヴルガが見たら発狂しそうな光景に、オリオンは眉を顰めた。
次男のレギュラスは少し不器用なところがある。
あまり要領がいい子ではない。
開けたら閉める、見たところは仕舞う、という概念が抜けているらしい。

ただ、その理由にオリオンは小言をすべて忘れた。
レギュラスはレギュラスなりに、スバルのことを考えているらしい。
まあ、今のレギュラスはスバルのことしか考えていないのだろう。
それも困りものではあるが、まあいいだろうと、オリオンは微笑んだ。

「なるほど。それなら、私の部屋にあるからあとで取りに来なさい」
「え?」
「それから、クリーチャー。レギュラスと協力して、レギュラスの隣の部屋をスバルの部屋として模様替えをしてくれ。ヴァルヴルガは明日まで帰ってこないから、その間にだ」
「は、はい、承知しました」

びっくりしたように、レギュラスは父を見た。
まずはオリオンは真顔でクリーチャーにキャットタワーだとか、猫用のベッドだとかを取り扱っているカタログを用意するようにと命令していた。
クリーチャーも驚きながら、ぱちんと姿を消した。
オリオンの気に合うような猫用品のカタログを探しに出かけたのだろう。

「えっと、ありがとうございます、お父様」
「…いいか、レギュラス。母様には秘密だ。シリウスにも言っておきなさい」
「はい」

嬉しそうに頬を染めたレギュラスの頭を撫でて、スバルを手渡した。
父の威厳は保たれている、はずだ。


スバルのための部屋は男衆3人で、あっという間に作られた。
父が無類の猫好きと知った息子2人は驚きながらも、喜々として猫部屋を作る父に乗っかった。

1日がかりで作られたスバルの部屋は、スバルが驚いてなかなか中に入ろうとしないくらいによくできていた。
もともと倉庫になっていた縦長の部屋の壁には、猫用の足場が大量に組まれ、ところどころに休憩用のハンモックのようなものが仕込まれていて、どこでも眠ってしまうスバルにはぴったりだ。
隅に置かれた2対のキャットタワーは天井まで続いていて、足場に繋がっている。
出窓にはオリオンが用意していた籠が、床には大きなグリーンのクッションと筒状の遊び道具が置かれた。

「…ってかさ、父さん。これ絶対母さんにばれるよな?」
「その時はその時だ。母様には私から言うからいい」

ずっと猫を飼いたいと思っていたオリオンは部屋の出来に満足していた。
恐る恐る部屋に入るスバルを見つめて、久し振りに学生時代の活発さを思い出した。

そもそもオリオンは昔、猫アレルギーで猫が近付こうものなら蕁麻疹が出て大変なことになっていたのだ。
大人になった今はそう酷くはならないが、それでも薬を飲んでいないとくしゃみが止まらなくなる。
学生時代も薬を飲んでいないと大変なことになるため、それを飲みながらスリザリンの生徒が飼っている猫をこっそり可愛がっていた。
その様子を呆れたように見る先輩も、苦笑する後輩も気にせず、だ。

ただ、婚約者のヴァルヴルガだけはオリオンの身体を心配して、彼が隠れて猫に触れる度に激怒した。
ヴァルヴルガが心配してくれているということはよくわかっているから、オリオンは決して彼女のことを蔑ろにはしなかった。

「母様がいる時は、私は決して2人の味方はできない。だから、しっかりスバルを見ていなさい」
「はい、お父様」
「おう」

スバルはオリオンを見上げて、目を細めてにゃあ、と鳴いた。
嬉しそうな顔に、オリオンは満足して部屋に戻った。
そろそろ、ヴァルヴルガが帰ってくる時間だ。
部屋にいないと怪しまれるだろう。

無論、ヴァルヴルガに家のことで隠し事ができるわけもなく、絵画たちの告げ口もあり、スバルの部屋はあっという間にヴァルヴルガにばれて大喧嘩になったのは言うまでもないことだった。


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