父と猫
部屋のドアは、普段は閉め切っている。
だが、最近ちょっとだけ開けておくようにしている。

「…来たか」

理由は、一つ。
レギュラスが飼い始めた子猫がやってくるからだ。
スバルという名前の子猫は賢いのかそうでないのか、入りたい部屋の前でにゃあにゃあと鳴く。
鳴かれれば煩いし、気になるしでドアを開けざるを得なくなる。
鳴くだけで引っかかないのは、賢い証拠だとオリオンは感じている。

ヴァルヴルガは決してそんな目には合わない。
基本的に神経質な彼女は、部屋に防音魔法をかけているからだ。
そして何より、ヴァルヴルガの神経質さを感じ取ってか、それとも捨てられそうになったのを覚えているからか、スバルは決して彼女には近づかない。

オリオンも彼女と同じように防音魔法を掛ければ、猫など気にならないのだが、彼が防音魔法を掛けないのには理由がある。

「追い出されたか?」
「ぴゃあ」
「違うのか…?まあいい、ここで休んでいきなさい」

理由はたった一つ、ブラック家の当主たるオリオンは無類の猫好きだからだ。
レギュラスが猫に一目ぼれしたのは、明らかに自分の血だろうなとすら思うくらいだ。
ヴァルヴルガがいくら捨てろと言っても、オリオンは絶対に子猫を捨てさせる気はなかった。
レギュラスがそれを望んでいないことをいいことに、がっつりとオリオンも反対しておいた。
実は過去に猫を飼いたいといったオリオンの願望をヴァルヴルガに一刀両断されたことがある。
家の当主は自分なのに、年上のヴァルヴルガに頭が上がらなかったのである。

まだ一人で高いところに上ることができないスバルを拾い上げて、膝の上に乗せた。
本当はスバルのために用意した、クッションの敷き詰められた籠なんかもあるのだが、人を嫌がる気配がないならできる限り、自分の身体の近くに置いてやりたい。
スバルはきょとんとオリオンを見上げていたが、やがて膝の上で丸くなった。
漆黒の毛並みは艶があって、触り心地もよい。
ここに来たばかりのころは痩せていた彼女も、今は子猫らしく丸い身体になっている。
喉元に指を入れて掻いてやると、ゴロゴロと甘い声を出した。

なんとも可愛げのある子猫だ。
人の母性を的確に擽る仕草は、あざといとしか言いようがない。

「全くお前は…」

仕事の書類を片付けて、しきりに手に頭を擦り付けるスバルを両手で撫でた。
大人の両手を広げたほどの大きさしかないスバルは、頭から背を撫でられると、気持ちよさそうに目を細めた。
その様子を見て、オリオンも目を細める。
可愛い。

今度は猫用のタワーでも買ってきて、レギュラスの隣の物置をスバルの部屋として模様替えしようか迷うレベルだ。
ただ、表立ってオリオンがやるとヴァルヴルガの逆鱗に触れる可能性がある。
ここはクリーチャーに頼み、レギュラス主体でやってもらうべきだろう。

「スバル、ここにいるか?」
「にぃ」
「行くのか…まあいい」

オリオンは早速クリーチャーを呼んでみたが、やってこなかった。
どうやら誰かに呼び止められているらしい。
仕方がないから、直接会いに行くことにした。
部屋にいて寝ていてくれれば、そのままスバルを独り占めできるかと思ったが、スバルはもう部屋に飽きてしまったらしい。
オリオンはそれを少し残念に思いながらも、スバルを抱き上げた。

prev next bkm
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -