君と一緒
無論、レギュラスはその後母にこっぴどく叱られ、野良猫も捨ててきなさいと言われた。
服を汚したことは謝ったレギュラスだったが、拾った子猫を捨てることだけは頑なとして認めなかった。
そこでレギュラスは初めて母親と喧嘩をして、珍しくも怒っている次男に父であるオリオンが折れた。
父から母へ説得がなされ、血統も何もない子猫は正式にブラック家の猫として迎え入れられた。

子猫の名前は付けるまでもなく、スバルだった。
実はこの子猫には首輪らしき金属のチェーンが掛けられており、そこについているプレートにそう名前が書いてあった。
迷い猫だろうか、と数か月にわたって飼い主を捜したが見つからず、結局なし崩しでブラック家に迎えられている。

レギュラスはスバルを溺愛していて、彼女の小柄な身体を活かして、ローブのポケットに入れて連れて歩いたりした。
ただ、スバルはその移動手段が嫌いで、一生懸命ポケットからよじ登ろうとしていたが。

「ぴぃ」
「お前、にゃあって鳴けないの?」
「まだ子供だからだろ」

ポケットでじたばたともがいているスバルを救い出したレギュラスが、スバルの狭い額を撫でながら意地悪そうにそういった。
スバルは前足で顔を洗っていて、何も答えない。
そんなスバルの代わりに、隣でスバルを眺めていたシリウスが答えた。

スバルは見たところ1歳にも満たない幼猫で、まだまだ身体も何もかもが小さい。
だから、鳴くのもまだ上手じゃないんだろうとシリウスは考えていた。
猫はにゃあと鳴くものだとばかり思っていたレギュラスは兄の言葉に、ふうん、と答えた。

スバルは顔を洗い終えて、不思議そうにレギュラスを見上げている。

「スバルは僕よりも先に死んじゃうのかな」
「おいおい…スバルはまだ子猫だぞ?ずっと先のことだろ…」

ぴゃあ、とスバルは鳴いた。
レギュラスはこちらを見上げるスバルをそっと抱き上げた。
あまりにも軽くて小さな身体は、きちんと見ていないと怖いくらいだ。

お腹を撫でようとすると猫パンチをしてきた。
まだ痛くはない。

「…やだな、僕、スバルとずっと一緒がいい」
「お前そう思うなら、スバルをポケットに入れて持ち運びすんのやめてやれよ」
「なんで?」
「ストレスになるだろ。スバル、嫌がってるし」

スバルは同意するように、ぴゃあ、と鳴いた。
加えてバタバタと暴れ始めたので、レギュラスはスバルを床に降ろしてあげた。

スバルはレギュラスと少しばかり距離をとって、毛づくろいを始めた。
そういう身嗜みの部分はしっかりと大人の猫と同じだ。

「うーん、だったらスバル専用の籠とか作ってみようかな…?」
「それがいいんじゃね?籠にクッションとか敷いてやってさ」
「うん、そうする!」

早速クリーチャーに余っている果物籠をもらってくる、と部屋を出て行ったレギュラスを、スバルはきょとんとした目で見ていた。
ばたん、と閉じてしまったドアを見て、寂しそうにみゃあみゃあ鳴いてドアの前をウロウロしている。
シリウスはスバルの様子と鳴き声の煩さに辟易として、ドアを開けた。

スバルはすたすたと部屋の外に出て行ってしまった。
あれ、これまずいじゃないか?シリウスが思った時にはすでに遅く、スバルは短い脚で廊下を走っていっていた。
母は猫を飼うことは認めたものの、好んでいるわけではない。
粗相をしているところを見られようものなら、問答無用で外に放り出されてしまうだろう。

慌ててシリウスが追いかけるが、黒いマボカニーの床に溶けてしまったかのように、見つからない。
シリウスは母も怖かったが、弟も怖かった。
滅多に怒ることのない大人しい弟だが、母が猫を捨てろと言った時のレギュラスの怒りようは半端じゃなかったからだ。
11歳になっていない弟だが魔力は十分に備わっているらしく、部屋中の窓を割り、絵画が飛び交い、それが突き刺さって壁に大きな罅を入れた。
シリウスもその場にいたのだが、ちょっとしたトラウマになっている。

レギュラスが部屋に戻ってくる前に、スバルを探し出さないといけない。
シリウスは顔を青くしながら、スバルの姿を探した。

「ぴゃあ、ぴゃあ」
「…あー、まあそうだよな」

スバルはすんなり見つかった。
子猫は短い脚を止めて、物言いたそうにシリウスを見上げている。
どうやら会談が降りられなかったらしい。
彼女の体調ほどもある段差だ、降りることも登ることも叶わないらしい。
シリウスはスバルを捕まえて、部屋に戻った。
今はまだいいが、これから大きくなったら部屋から出すのも考え物だな、と思いながら。
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