猫のお披露目

せっかくなので有毒食虫蔓は保護魔法をかけて、スバルが取ったという手紙と泥にまみれたスバルの写真とともに、オリオンに送ってみた。
すると、オリオンからはスバルの玩具やお菓子がいくつか送られてきた。
曰く、食虫蔓を売った金で買ったという。

「スバルやるなー」
「危ないからもう行かない方がいいと思うけど…」
「温室はあったかいだろうから、行くだろうな」
「だよね」

今日は授業が休みということもあり、スバルは部屋で遊んでいた。
レギュラスの膝の上で、新しく届いたネズミの玩具を短い前足で掴んで、後足で蹴っている。
うにゃうにゃと鳴いているスバルを、面白いものを見る目でバーティは見ていた。
ちなみに彼の手にはカメラが握られており、写真を撮り続けている。
彼はスバル専用のアルバムを買ったくらい、写真とスバルにはまっていた。

「ブラックはいるか…?」
「はい、います」
「…マルフォイさんが呼んでる」

スバルは猫じゃらしで遊んだり、おやつを上げたり、バーティのカメラの首紐を追いかけたりして遊んだ。
レギュラスもそんなスバルと遊び、まったりと過ごしていたが、来客があったため、態勢を整えた。

来客は2つ年上の先輩で、確かグリーングラス家の嫡男だ。
緊張した面持ちなのは、マルフォイ家の嫡男にブラック家の嫡男を呼んで来いと、結構な無茶振りをされたからだろう。
マルフォイ家嫡男のルシウスはそういう風に人を弄ぶ傾向にある。
とはいえ、ブラック家の者に対してもそういう風な態度を取ることはない。
レギュラスは決してルシウスのことが嫌いではなかった、性格上、相容れないような気はしていたけれど。

レギュラスはバーティにスバルを任せて、ベッドから離れた。
スバルはベッドから離れようとするレギュラスを不思議そうに見上げていたが、少し離れるとみゃあみゃあと甘えるように鳴いて、寂しそうにした。

「あ、ブラック。猫連れて来いって、マルフォイさんが」
「え?」

グリーングラスにもスバルの鳴き声が届いていたのか、思い出したように彼は言った。
思い出さなかったらどうするつもりだったのだろうかと思いながらも、レギュラスは一度ベッドの方に戻って甘えた声で鳴くスバルを抱き上げた。
スバルは一緒のお出かけが嬉しいのか、レギュラスの手に頭を擦りつけてはナゴナゴと喋っている。
何を言っているのか理解はできないが、何か言おうとしているのだろうなということは分かった。

レギュラスはスバルを抱いたまま、上の階の上級生の部屋に向かった。
スバルには上の階には行ってはいけない、と言い聞かせている。
賢いスバルはそれを理解していて、上の階…上級生たちの部屋には決して近づかなかった。
その行ってはいけない場所に行けると気づいたスバルは、しきりに辺りを見渡していた。

「ルシウス先輩、レギュラスです」
「ああ、入れ」

5年生の部屋につくと、グリーングラスはそそくさと自室に戻って行った。
マルフォイ家の力は絶大で、それこそ同室の人たちは寝るとき以外ほとんど部屋に戻ら2くらいだ。
レギュラスの部屋でもそれと同じようなことが起こっているが、次男坊ということもあり、そこまでひどい特別扱いはされない。

レギュラスは部屋のドアを2度ノックし、許可が下りてから扉を開けた。
同じ部屋の造りではあるが、ベッドの周りに置かれている羽ペン入れや小物入れ、杖置きなどの調度品がどれも品があって、同じ部屋とは思えない趣がある。
レギュラスはそれらを気にせず、ルシウスの座っている1人掛けのソファーに向かった。

「お久しぶりです、ルシウスさん」
「久しぶりだな、レギュラス。歓迎しよう」
「ありがとうございます。ところで、今日はどうして?」

部屋の中央にあるスペースには、ソファーとテーブルがある。
テーブルの上には白が圧勝しているチェス盤とティーカップがあった。
少し前まで誰かと対戦していたらしいことがわかるが、黒側が弱すぎる気がした。
こんな弱い相手とやって楽しいのだろうかとレギュラスは考えたが、ルシウスさんは無駄なことを楽しむ気質のある人だからと無理やり納得した。

レギュラスの腕の中でじっとしていたスバルは、奥のベッドの方をじっと見ていた。
そこに誰かがいることがスバルには分かっていたからだ。

「いや、大したことじゃない。ナルシッサが猫を見たいと言ったから呼んだだけだ」
「そうなの!猫飼ったなんて聞いてないわ、レギュラス。触らせて?」
「お久しぶりです、ナルシッサ姉さん…どうぞ」
「うにゃ?」

ルシウスがそういうと合図していたかのようにベッドの方からナルシッサが出てきた。
一般的に男子は女子寮に入れないが、その逆はできるらしい。
ナルシッサは喜々とした様子でレギュラスに駆け寄り、腕の中の子猫を見た。
レギュラスは諦めて、彼女にスバルを受け渡した。

白い頬を薔薇色に染め上げたナルシッサを横目に、レギュラスは座れと促すルシウスの前に座った。
スバルはナルシッサの匂いを嗅ぎ、大きな丸い目で彼女を見た。
それだけでナルシッサは嬉しそうにきゃっきゃとはしゃぐので、スバルも悪い気はしなかった。
ただ、彼女のコロンの匂いだけは好きになれそうにないと、一つくしゃみをした。

「私も猫飼いたいのだけど、ベラが嫌だっていうから…」
「ベラは潔癖だからな。レギュラス、間違っても近づけないほうがいい」
「そうなんですか…気を付けます」

背も気位も高いベラトリックスは基本的に綺麗好きで、毛の抜ける生物が嫌いらしい。
その昔、アンドロメダの飼っていた子猫が行方不明になって以来、彼女の家ではフクロウ以外のペットを飼うことは禁止という暗黙の了解があるそうだ。
レギュラスはスバルに寮内で動き回っていいのは、彼のいる部屋と談話室だけと言い聞かせている。
女子寮も絶対に行かせないように言い聞かせないと、とレギュラスは思った。

スバルはしきりに撫でたがるナルシッサの手を舐めたり、欠伸をしたりとマイペースな様子だ。
人嫌いを起こさない穏やかな気質の猫だから、ナルシッサも気に入ったらしい。

「随分と行儀のいい猫だな」
「母が猫嫌いですから…躾はしっかりやりました」
「いいことだ」
「本当に大人しいし、愛想もあるし、可愛いわね!羨ましい…」

にゃあん、と可愛らしく鳴いてみせたスバルをぎゅっと抱きしめたナルシッサは楽しそうにレギュラスを見た。
レギュラスはその様子に苦笑いをしながら、そうですねと答えた。
愛想を振りまくスバルは赤い口を開けて、また大きく鳴いた。

レギュラスはゴロゴロと喉を鳴らしているスバルに多少の苛立ちを感じていた。
スバルは女子に甘いらしい。
自分だけに甘えて、他の人には懐かない猫なら、こんな思いはしなかっただろうと思う。
だが、そこがスバルの可愛いところでもあるので、レギュラスはぐっと堪えた。
彼女は猫で、自分は人なのだからそのくらいは我慢しなければ。

「今度は玩具で遊びたいわ、ねえ時々ルシウスに呼ばせても?」
「構いませんが…スバルも気分屋ですから。昼寝の邪魔をされると怒りますよ?」
「その時は寝てる姿を見ながらお茶でもしましょ」

あくまでナルシッサはスバルと遊びたいらしい。
昼寝といってみたものの、スバルは人がいれば遊びたがる子だ、たぶん昼寝なんてしないだろう。
あまり連れてきたくないな、と思うのを隠しながら、レギュラスははい、と答えた。

「うにゃ?」
「あら…」

その瞬間、ナルシッサの膝の上で丸くなっていたスバルがパッと立ち上がり、レギュラスの足元に駆け寄った。
満月色の瞳がレギュラスを見上げ、小さな頭が首を傾げるように動いた。
足に匂いを擦り付けるように甘えだしたスバルをレギュラスは抱き、狭い額を撫でる。

「懐かれてるのね、レギュラス」
「…ありがとうございます」

ゴロゴロと満足げに喉を鳴らすスバルよりも、レギュラスの方が満足したのは言うまでもなかった。
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