Pr.黄の場合
都内某所にある少々ボロい3階建てのビル。
ビルの正面玄関にある案内には、3階小黒探偵事務所とある。
ネーミンクセンスのなさは昔から変わらないのだと思うと、なんだか笑えた。

3階建てのビルには階段しかない。
まあそれも悪くない、なんだかドラマのセットにありそうだし。
曇ガラスの付いたドアなんて更に雰囲気がある。
ドアにはプラスチックの板が貼り付けてあった、「小黒探偵事務所」とそっけなく書かれた看板だ。
俺はそのドアを躊躇無くあけた。

部屋はまさにドラマのセットみたいな、探偵事務所のイメージどおりに、忠実に、コーディネートされていた。
革張りのソファーが2つ、真ん中には少し背の低いテーブル。
一番奥に窓があって、その前にデスクと椅子。

「こんにちは、黄瀬くん。お久しぶりです」
「わ、黒子っち!相変わらずっすね〜」

部屋の中を見渡したが、相変わらず黒子っちは見えない。
というか、昔よりもずっと見えない。
その才能を生かして探偵をしているのだから当たり前といえばそうなのかもしれない。

黒子っちは俺にソファーに座るように促して、奥へと引っ込んでいった。
そしてすぐにコーヒーを両手に持って戻ってきた。
俺の前に腰掛けて、一口コーヒー(黒子っちのはカフェオエみたいだったけど)を飲むと、一つ物憂げにため息をついた。

「すみません、突然連絡して」
「いやいや、全然構わないっすよ。ってかめっちゃ珍しいっすよね、黒子っちから連絡くれるなんて」

そう、俺が今日ここに来たのは、先日黒子っちから連絡を受けたからだった。
本当に用事が無い限り連絡をしてくることなんてないから驚いた。
そして、電話では話しにくいからとここに来るように指示したのだ。
滅多に無い事だからこそ、きっと重大な事なのだろうということは想像にたやすかった。

黒子っちは困ったような笑みを浮かべながら、ありがとうございます、と丁寧に例を述べた。
相変わらず、親しき仲にも礼儀ありを体言したような人だ。
黒子っちはまた一口コーヒーを飲んで、話を始めた。

「赤司くんのことなんですが…黄瀬くんは彼と連絡を取ったりします?」
「赤司っち?いや全然。どうかしたんすか?」
「ちょっと…。その前に、黄瀬くん。君のバックボーンは絵鏡で間違いないですね?」
「…よく知ってるっすね、黒子っち。ってかいつからそっちに足突っ込んだんすか」

高校を卒業して、はや10年弱。
俺は大学卒業後、モデル業から俳優業に転職していた。
転職って程でもない、どちらかといえばグレードアップみたいなものだ。

その際に、俺に手を貸してくれたのが絵鑑さん。
彼女は無類のイケメン好きで、俺はその御眼鏡に叶った。
芸能界でもきっての影の権力者である絵鑑さんは、直接的な事はしないもののネームバリューだけで十分脅しになる。
まあ、滅多に言うことは無いけど。
使い方を間違えれば、あちらの世界に引きずり込まれる可能性だってある。

というわけで、ほとんどの人は俺が絵鑑さんと関係がある事を知らない。
無論、キセキの世代と呼ばれた友人達にもだ。
しかし、あちらの世界はそう広く無いので、あちらの世界に足を踏み入れればこういう話はいくらでも聞ける。
慎重派の黒子っちがあちらの世界と関係を持っていたことに驚きだけど。

「昔に仕事で巻き込まれたんですよ…二度と関わりたくは無かったのですが、事態が事態なので…」
「赤司っちになんかあったんすか?」
「はい。聞いた話によると、どうも玖渚機関に喧嘩を売ったらしいんです」
「…は、マジで?冗談キツイっすよ?」
「僕は冗談が苦手だと何度言ったらわかるんですか。かなり確かな情報なんです」

黒子っちがあちらの世界とかかわりを持っていることでも驚きなのに、まさかの赤司っちが玖渚機関に手を出したなんて信じられない。
黒子っち以上に慎重で、尚且つ、頭の切れる赤司っちが、まさか玖渚機関に手を出すなんて。

玖渚機関といえば、かなり大きな機関であり、政治力の世界を牛耳っている家である。
赤司っちの家が実は赤神の分家であることは、この世界に入って知ったが、分家だ。
玖渚機関に手なんて出したら大変な事になるのは日を見るより明らか。
どうしてそうなったのか、俺にはさっぱりわからない。
黒子っちもそれは同じらしい。

「理由はわかりません。ですが、赤司くんのお父様がやらかしたらしいですよ。僕の知り合い曰く、調子に乗ったと」
「うわあ…」
「なんとかしたいところなんですけど、いかんせん僕の知り合いは情報通ではりますけどたいして権力は持っていないんですよ。それ以外のものは沢山持っている人なんですけどね…なので、絵鑑家につながりのある黄瀬くんに連絡したんです」

そりゃ無茶ぶりだ。
俺だって気に入られているってだけで、俺の代わりはいくらでもいるだろうし。
絵鑑家だって玖渚になんて関わりたくも無いだろう。
こんな薮蛇がわかりきっているような事態に首は突っ込まない。

俺の顔を見て黒子っちは、困ったように笑った。
そりゃそうだ、黒子っちも想定はしていただろう。

「それにしても何で玖渚になんて…」
「それは僕にもわかりません。でも、なんとかしたくて」
「俺らだけじゃどうにもなんないっすよ、他のメンツでこっちに関わってる人いないんすか?」
「僕の知っている限りではいません」

望みは薄そうだな、と思った。
嫌な大人になったものだ、きっと昔なら何も考えずに助けにいっただろう。
でも色々知ってしまった今、それはできない、怖すぎる。

それは黒子っちも同じのようで、苦悶の表情を浮かべている。
赤司っちにはお互いお世話になったし、何より大切な親友だ。
困っているなら是非にも助けたい。

「…赤司っちに直接聞いてみるとか」
「答えてくれませんよ、彼の事ですから巻き込ませるようなマネはしないでしょう」

黒子っちの言うとおりだ。
赤司っちが被害を広げるようなマネをするわけが無い。
だからこそ、こちらは心苦しいのだ。
そういう時こそ、頼ってほしいものなのに。

「…俺らだけじゃダメっすよ。やるなら、みんなで」
「巻き込んでいいものですかね…?」
「きっと他のみんなも巻き込まれることより、何も知らせないほうが怒ると思うっすけどね、俺」

馬鹿な俺と考えの硬い黒子っちだけじゃどうにもならない。
こうして2人顔を付き合わせていてもどうにもならない。
ダメで元々、地獄に落ちるならみんなで。
中学からの腐れ縁だ、幸いな事に妻帯者はいないし。

「…連絡してみましょうか」
「久々にみんなで集まるのもいいっすね!」
「はあ…とりあえずまずは青峰くんに連絡してみましょう。…桃井さんを巻き込むかどうかは青峰くんに判断を委ねるとして」

黒子っちが携帯を取り出して、すぐに電話をかけた。
こういうときに非常に行動が早いのが黒子っちだ。
猪突猛進を大人しくしたらこんな感じなのかなと思う。

さて俺は手持ち無沙汰。
ダメ元で絵鑑さんに連絡してみた。
玖渚さんに友達が喧嘩売ったんですよ、やばいっすよね〜と送ったら、死よりも酷いものを覚悟した方がいいね、と返信が来た。
死よりも酷いものってなんだろうな、とぼんやり考えたが想像も付かなかった。
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