Happy Birthday for
17歳にして初めて彼氏ができた。
よもやこの気難しい上に天邪鬼な私に彼氏様ができるとは思いも寄らなかった。
しかもまもなく1周年を迎えようとしている。
世の中何が起こるかわからないものである。
閑話休題、ともかく私には彼氏が居る。

「どうしましょう」
『どうしましょうじゃないでしょ!絶対征ちゃん楽しみにしてるわよ』
「無理です。彼に一体何を渡せと」
『物じゃないわよ、問題は気持ちでしょ』

初めての彼氏の誕生日。
まず、男の人に贈り物をしたことが無い私、初っ端からお手上げ。
一人で悩む事1ヶ月、オーバーヒートした頭がはじき出した答えは、他の男の人に何がほしいのか質問するという単純解明なものだけだった。
彼氏、赤司征十郎の先輩であり、私の先輩でもあり、女子の心も男子の心もわかりそうな玲央先輩に電話したところ、これだ。

あきれたような声音で、しかし茶化す事無く親切にもアドバイスをくれる。
いつでも頼れる先輩だ、最高。

「気持ちって言っても…」
『多分、名前さんの好きの一言で十分よ』
「そんな馬鹿な」

いや、それはないだろう、どんだけ謙虚なんだ。
確かに赤司先輩はお金あるし、物には困らないだろう。
だけど、こういうときは物を贈るべきなんじゃないのか。
せめて何か残る物をと思う。

その意見を述べたところ、電話越しにため息をつかれた。
そんなにあきれるところなのだろうか。

『あのね、名前さん。思い出ってかなり重要よ。どんな物よりもずっとね。大会で優勝したこととか、みんなで合宿言った時のこととか、そういうことのほうがずっと残ってる。そういうことなのよ』

…なるほど、確かにそうかもしれない。
私もあのときの感動とか、楽しかったこととか、絶対に一生忘れないと思う。
そういうものを誕生日に贈れたら、どんなにいいだろう。

「それって、更に難易度上がってません?」
『それはどうかしらね?ま、とにかく考えてみなさいな。あ、物は何贈ったって喜ばれるから安心しなさい』

玲央先輩が教えてくれたのはそれだけだった。
何かわかったような、でも何もわかっていない状態。
それがたった1週間前のこと。



そして、今、12月20日を迎えた私はどうしたかというと。

「東京、3年ぶりだ…」

1週間悶々と考えた結果、なにも思い浮かばなかった。
終業式が午前中で終わって、もう頭が真っ白になっていた。
手紙の一枚もかけなかったからだ。
プレゼントは買った、あとは贈るだけ。
郵便で届けようと思ったのだけれど、あまりに味気ない。
というか、今日出しても間に合う分けない。

それに気づいた時、かなり焦った。
焦って、吹っ切れた。
郵便が今日中に届けられないなら、私が届ければいい。
それで、じょうずに文字に起こせない気持ちをそのまま伝えればいいのだと。

それからは早かった。
制服のまま京都駅に向かい、新幹線の切符を買った。
そしてそのまま乗り込み、東京へ。

「…やばい、どうしよう」

東京駅についたはいいものの、気恥ずかしくて動けなくなった。
いや普通ありえないだろう、誕生日に突撃なんて。
しかも何も言わずにきたし…もしかしたら他の人と誕生日祝っているかも。
ってか、他のキセキの先輩たちと祝ってる可能性だってある。

携帯を持った手がじんわりと汗ばむ。
アドレス帳の赤司先輩のページを開いたままの画面が、ゆがむ。
何しにきたんだ、私。

駅構内のベンチに座ってとりあえず落ち着こうと思ったが、どうにもこうにも冷静になればなるほど涙が止まらない。
ってか帰りのこと何も考えてなかった。
このままだと補導対象、やばすぎる、部停になる。

「部停はいや…」

いやマジで部停はやばい、WC控えてるのに3年マネが部停とか笑えない。
そう、私が赤司先輩に電話できれば、それも回避できて、プレゼントも渡せる。

震える手で、携帯の通話ボタンを押した。
1コール、

『もしもし?名前さん?』
「…赤司先輩、誕生日おめでとうございます…」
『ありがとう、嬉しいよ。会いにいけたらよかったんだけど』

まじか、出るの早い。
赤司先輩の低い声が耳をくすぐる。
声聞くだけでやっぱりほっとするって効力ありすぎ。

会いにいけたらよかったって、うわ、会いにきてよかった。

「それがですね…私今、東京駅なんです…」
『東京駅?来てくれたの?』
「いや、その、」
『…すぐ迎えに行くから、待ってて。15分くらいで付くだろうから。新幹線口だね?』
「あ、はい」
『近くにカフェがあるから、そこに入っていて。外は寒いからね』

早い、展開が速い。
赤司先輩は、新幹線の改札で待つようにと指示をして、すぐに電話を切った。
なんとなく、去年までの部活を思い出した。
この的確な指示と早すぎる行動。
迷いの無いようすに安心を感じ得ない。

言われたとおり改札を出ると、すぐ隣にカフェがあった。
そこでココアを頼んで、ちょっとだけ赤くなった鼻を隠すようにマグカップを傾けた。



カフェの暖かさに、うとうとまどろんでいたらしい。

「名前さん、」
「あ、先輩。…久しぶりです」
「久しぶり。驚いたよ、まさか東京まで来てくれるなんて思ってもいなかったから。ありがとう」

とんとん、と肩を叩かれてはっとした。
ぱっと後ろを振り向くと赤司先輩が立っていた。
…制服を着てないだけで、こんなに大人っぽく見えるのか。
ちょっと制服できたことを後悔した。

赤司先輩はそんなことお構い無しに、少しだけ頬を赤くして笑っていた。
うん、まあ良かったのかな。

「赤司先輩、誕生日おめでとうございます。あ、これプレゼントです」
「わざわざプレゼントまで…本当にありがとう」
「いえ…」

ああ、よかった。
なんだかんだで喜んでもらえた。
ほっとしたら、不意に眠くなってきた。
あー明日も部活だ、恨めしい。

帰らないと、と思ったがそうだ、思い出した。
私思いつきで、東京まで来てしまったのだ。
帰りのことなど無論、考えていない。

「あの、先輩、非常に言いにくいんですが」
「どうした?」
「…帰りのこと、考えてなくてですね」
「…計画してきたんじゃないのか」

時刻は8時だから、まだ最終はある。
しかし、金銭面のこと考えてなかった。
一瞬、赤司先輩が目を細めたのを私は見逃さなかった。
これはあれだ、怒っている時の雰囲気だ。

「いや、あの、いろいろあって」
「いろいろとは?」
「…本当は宅配で贈ろうと思ったんですよ、でも手紙かけなくて。当日じゃ届かない始動しようかと思って、新幹線に飛び乗りました…」
「へえ…?」

怖いんですが、非常に怖いのですが。
私怒られる感じ?いや確かに、何も考えずに来ちゃったし、もしかしたら赤司先輩に合えない可能性も合ったわけだし。
制服で来るなんて補導されに来たようなもんだし。
無計画にも程がある。
駅とはいえ、危ない人もいるかもだし。

「…まあ、オレが行けなかったのがそもそもだからな。でもせめて来る前に一本連絡くらい入れるように」
「はい…」

注意いただきました。
思ったよりかは怒られなかったから良かった。
誕生日パワーすごい。

「ところで、名前さん」
「はい?」
「明日の予定は?」

明日の予定は部活だ。
今日は終業式があったため部活は休みだが、明日はある。
本当なら今日だって練習したかったのだが、終業式の後も体育館を使う集会があった為に諦めたのだ。
その代わり、明日は全日練習に当てる。

「部活です」
「そうか。今の部長は中山だったか」
「はい」
「連絡しておく」
「…はい?」

ちょっと待て、連絡しておくって何。
部活を休めとそういうことか。
おい、元部長が何言っているんだ。

しかし、赤司先輩は至極真面目そうにそういいきって、すぐに携帯をいじり始めた。

「中山には連絡したから」
「…お泊りですか」
「これで帰るなんて、拷問だろう?」

意地悪そうに微笑まれては、私はもう何もいえまい。
有無を言わせる様子も無く、赤司先輩は私の手を取った。
あーこりゃ、学校戻ったら質問攻めだろうな、と思いながらも、私は赤司先輩の暖かい手を握り返した。





Happy Birthday!










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