ぶいえすはいつもとなり
クラスメイトに、平均点を著しく下げる馬鹿がいる。
セミロングの黒髪を校則に従い、1つにくくっている。
重苦しい黒縁の眼鏡は流行りらしいが、彼女にはあまり似合っていない。

そのクラスメイト、苗字さん名前さんは机に突っ伏せている。
期末テストも今日で全教科が終了した。
突っ伏せている理由はなんとなくわかる気がした。

「真ちゃんー、部活行こうぜ!」
「煩いのだよ、今行く」

先に準備を済ませていたらしい高尾が楽しそうにそういう。
テスト期間中は部活停止となるから、うっぷんがたまっているのだろう。
うずうずしているのを隠せない高尾を待たせるのは得策でない。
机の上を片付けて、俺も高尾に続いて教室を出ようとした。

「高尾君、緑間君」
「苗字さん?どうした?」
「…ちょっと、話が」

鞄を肩に引っ掛け、身体が半分廊下に出かかっている状態で声をかけられた。
彼女に時間を割いている場合ではない。
さっさと部活に出たい、そう思うのは高尾も同じだろうが、高尾は人のいい笑みで胡蝶へと向き直った。

胡蝶はごめんね、と一言おいて、悲壮そうな顔で俯いた。

「あの、マネをやらせてほしくて」
「まじ?」
「マジ…ってかマジでお願い…でないと私、来年から留年三昧になる…」
「それはどういうことなのだよ」

苗字さんは、少し長くなるんだけど、とまた前置きした。
どうやら苗字さんは前置きが好きらしい。

曰く、この前のWCで見た桐皇の今吉翔一と霧崎の花宮誠と同じ中学である苗字さんは、中学時代ずっとその2人に勉強を教わっていたらしい。
しかし高校に入り疎遠になって、苗字さんは夏に赤点を取った。
2人の連絡先をうっかりなくし(携帯を壊したらしいが)連絡も取れず、死にかけていたらしいがWCで再会。
この後期の期末の勉強は2人に教わることができた。
しかし、その際に交換条件として、来年も教える代わりに、秀徳バスケ部のマネをやることといわれたらしい。

なぜここで秀徳バスケ部が出てくるのか、俺にはわからない。
隣の高尾に目くばせしたが、高尾もわからないようで困ったように笑っていた。

「んーと、2人は他校じゃん?なんで敵である俺らにマネしろって言ってんの?」
「…そこが私も謎なんだけど。私ね、中学時代、翔一先輩と真先輩にバスケのこと全部習って、マネのやり方も教わったの。で、2人はもう引退だから、自分たちの育てたマネと自分の高校の後輩、どっちが勝つか見たいんだって」

つまるところ、実験台ではないか。
苗字さんもそれを理解しているから、あんなにも言いにくそうにしていたのだろう。
高尾は少し困っているようだった。
苗字さんも不安そうにしているしで、話が収束しそうにはない。

もともと、マネージャーは欲しいという話だ。
しかし、このような理由だと何となく入れ辛い。
苗字さんがこのような裏話をやすやすとするからこうなるのだ。
馬鹿正直なのもほどほどにすればよいのに。

高尾は困ったように眉を寄せてうんうん唸っている。
さっさと部活に行きたいのだが。

「…とりあえず、入れてみたらいいだろう。その動きで入部させるか決めればいいのだよ」
「あー、まあ確かにな」
「ごめんね…できる限りのことはするから」

非常に気きまずそうな苗字さんを連れて、部活に行った。
これが、冬休み直前のことだった。


あの時、断らなくてよかったと今ではそう思える。
苗字さんは文句も言わず、よく働いた。
誰よりも気が周り、しかしそれを決して誇らない。
大きな黒縁眼鏡を何度も直しながら、せっせとタオルを運び、冷たい水の中に躊躇なく手を突っ込んだ。

そして何より、非常に頭が切れる。

「緑間君、今のところ半歩後ろに下がったほうがいいと思う。パスが通らないから」
「ああ…わかった」

タオルを両手いっぱいに抱えながらも、それだけ言って、また体育館裏に向かう。
いつもこんな感じだ、そして苗字さんのいうことは間違いがない。
今吉翔一と花宮真に育てられたというのは本当らしい。

大会のDVDを見ては、ひとりひとりの選手の特徴や癖を書きだし、それの対抗策を打ち立てた。
今まで赤点を取っていたとは思えないくらいに、頭が回る。
その点を指摘したら、これがテストに適応されたら赤点で悩むこともないのに、と憤慨していた。

「はー…桃井さんになんて敵わないって、そう思わない?」
「いやいや、行けるかもよ?これ」
「無理。ってか見た目の時点でもう負けてる」
「それは関係ないのだよ」

部室に行くと、一足先に仕事を終えたらしい苗字さんが食いいるようにDVDを見ていた。
DVDの内容は桐皇と誠凜の試合だった。
苗字さんは俺たちが来たのに気付いて、DVDを一時停止して端の席に移動した。
一時停止した画面の端には桃井が映っていた。

まあ、確かに苗字さんは見た目に関して桃井には敵わない…のかもしれない。
俺からすれば、別にそんなことはどうでもいいのだが、女子はそうは思わないらしい。

「スタイルも顔も勝ち目ない…」
「いや、勝負するとこそこじゃねーよ!」

高尾のいう通りだ。
なぜそんなところで勝負しようとしているのか。
確かに苗字さんは身体つきも貧相だし、重苦しい黒縁眼鏡が似合っていないが。

苗字さんは人がいると集中できないのか、DVDを停止して取り出した。
そしてそれをケースに仕舞い、鞄に仕舞った。
どうやら続きは家で見るらしい。
まもなく閉門時刻なのでそれがいいだろうと思う。

「名前さん―、この後飯食い行こうぜ!」
「あー…うん、ごめん、無理」
「なんで?」
「宿題終わってない…」

前言撤回、これは今日のうちにDVDを見るのは無理だろう。
高尾が引きつった笑いを零した、ここのところ苗字さんは宿題をためがちである。
先週も数学の宿題を忘れて、ただでさえ苗字さんを目の敵にしている数学教師の怒りを買った。
今回は数学ではなく英語だが、この様子を見ると数学も終わっていなさそうではある。

苗字さんはこの世の終わりのような顔をしていた。
確か英語の宿題はプリント2枚だったはずだが、たった2枚の紙にここまで打ちひしがれる人間などそうそういないだろう。

「…真ちゃん、これは手伝うしかねーって」
「そうだな…」
「ごめんね…この借りは必ず…」

返せるのだろうか。
いや、奢るとかそういう部分では返せるかもしれないが。
そもそも借りを返すというのは、借りたものを返すという意味だ。
つまり、借りたものと返すものはイコールでなければならない。
苗字さんに返してもらう日はこないだろう。


まあ、そのような屁理屈をこねていても仕方が無いので、苗字さんの宿題を手伝うことにした。
宿題も提出が遅れれば、放課後にプラスアルファの課題つきで居残り。
部活に支障が出るとなれば、こちらも必死である。

高尾が空腹を訴えた為、近場のファミレスに入った。
苗字さんはあまり食欲が無いのか、皆で分けられるものを注文していた。
そういえば、桃井もそうだったよう無きがする。
女子は一様にして、周囲の目を気にするのだ。

注文を終えて、各々ドリンクを手元に用意した状態。
#NAME2##だけはドリンクの隣に英語のプリントを置いている。

「わからないことがあったら聞けよ」
「…あのさ、この近い未来って何?」
「はえーよ!ってかそれ最初の問題文じゃん!」

本格的にこいつは馬鹿らしい。
近い未来の形に変えよ、というのは未来系、つまりはwillなどに直せということだ。
確かこれは中学の内容だったはずだが、なぜここで躓いているんだ。
時勢は厄介ではあるが…過去形未来形くらいは基本だろう。
近い未来っていつよ!と半ば切れ掛かっている##NAEM2##だが、切れたいのはこちらだ。
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