チャリできた高尾君に最寄り駅まで送ってもらった。
家まで送ると言ってくれたが、断った。
昨日の今日で疲れているだろうし、申し訳なさ過ぎた。
数学の課題は緑間君と高尾君の2人に手伝ってもらって、ようやく終わった。
これで明日の補修は大丈夫そうだが、今後もこんな風ではダメだ。
2人はまたウィンターカップがある。
そうなると、自力で頑張るか、先生に頼み込んで個人的に補修をしてもらうか。
両方ともうまくいくと思えないけれど、でも真先輩と喧嘩している今、何とか自分で乗り切らないと。
ファミレスで軽く食べてきたけれど、何か少し物足りないような気がする。
帰り道にあるコンビニによって、好きなだけ甘いものを買った。
この行動がストレスを感じているときの癖だということは、よく知っている。
「…留年したらどうしよう」
かさかさと音を立てて揺れるコンビニの袋が哀愁をそそる。
正直、去年留年しなかったのが奇跡なくらいの成績だ。
今年留年しないなんて確証は最初からない。
洩れるため息を堪えることもできず、暗い気持ちで自宅のある通りに差し掛かる曲がり角を曲がった。
いつもなら、人気の少ないその道に、人が立っていた。
ご近所さんかな?と思ったが、違った。
「あれ、翔一先輩…?」
「おー、名前さん。遅かったなあ。あかんで、夜は危ないわ」
「いや遅かったなって…、約束してないですよね?」
家の門扉の前で、よっと手を上げていたのは翔一先輩だった。
お母さんみたいなことを言いながら、相変わらず何を考えているのかわからない笑顔を浮かべている。
流石に秋口で夜は冷えるから、さっさと家の中にいれた。
「で、どうしたんです?」
「いや?花宮と喧嘩したって聞いたから、困ってるやろと思って来ただけや」
「それ、誰情報ですか!?」
「ヒミツ。まー、花宮の代打でワシが名前さんの勉強の面倒見るで」
人差し指を口元に当てて、なんていうか、小悪魔系のポーズのはずなのに、すごく魔王に見える。
どこから情報を手に入れているか全くわからないが、でも助かった。
…助かったなんて思う自分が嫌いになりそうだけど。
結局私はいつだって誰かに助けてもらわないと何もできない。
自分のこともうまくできないのに、人のことなんてって言われて当然だ。
「…ありがとうございます。でも、私、自分で頑張ってみます」
「え?」
「真先輩に言われたんです、自分のことも自分でできないのにって。確かになーと思って。翔一先輩の気持ちは嬉しいんですけど、」
真先輩に言われたことは、確かに的を射ていた。
だから、きちんと一人でできるようにしてからでないと、顔向けなんてできない。
翔一先輩はきょとんとしていたけど、そのうちふっと笑って、そういうとこなら、と引いてくれた。
困ったらすぐに連絡するように、とだけ念を押されたけど、頑張れと背中を押してくれた。
「邪魔者は早いとこ退散するわ。名前さん、頑張りや。花宮見返したれ」
「はい!頑張ります!」
翔一先輩とは家の前で別れて、私は意気揚々と自室に向かった。
なんとしてでも、次の小テストはいい点を取って、真先輩や数学の先生を驚かせてやる。
甘いお菓子の口を力任せに開けて、教科書も開いて、ペンを握った。