ぶいえすにまきこまれる!
試合が終わって、次の日。
家でゴロゴロしていたら、名前さんちゃんから連絡があった。
昨日の試合は補修の小テストがあるからという理由で来ていなかった。
桃井さんが名前さんちゃんにも試合の動画を送っておく、といってはいた。
だから、試合の話かなあと思って電話に出たら、違った。

『…高尾君、試合後で申し訳ないんだけど、私の数学を見てください…』
「え、花宮さんは?」
『…喧嘩したの』

電話口での名前さんちゃんの声は、それこそ世界の終わりみたいな感じで、只事ではないことがすぐわかった。

それにしても、気の弱い名前さんちゃんが喧嘩とは、どういう感じなのだろう。
俺が言うのもなんだけど、名前さんちゃんは異様に花宮さんに傾倒している。
中学からの先輩後輩とはいえ、あまりに仲が良すぎる。
だから、普通に付き合ってるのか、どちらかの片思いかと勘繰っていた。

しかし名前さんちゃんはそんな風な感じじゃない。
勉強を教えてくれるなら俺とか真ちゃんでもいいって感じだし、きっと今吉さんでもいいんだと思う。
それでも、名前さんちゃんの口からよく花宮さんが出てくるってことは、たぶん執着しているのは花宮さんのほうなんだろうなあ、と思っていた。

その花宮さんと喧嘩というのは、不謹慎ながらも気になった。

「喧嘩って、珍しくね?」
『うーん…まあそうかも。でも、今回は真先輩が悪いと思う』

名前さんちゃんが言うには、バスケのマネをやっていたら勉強が追い付かず、小テストで悲惨な点を取ったらしい。(ここには俺らも反省だ、名前さんちゃんは常日頃から成績が悪くて危ないのを知っていて、巻き込んでしまったのだから)
それでまた増えた数学の課題を、花宮さんとやっていたらしい。
しかし、数学の課題の難易度が上がっていて、名前さんちゃんでは解くことができなかった。

そこで家庭教師の花宮さんに聞いたところ、名前さんちゃんが自分のこともできないのに他人のことの手伝いなんてするからこうなるんだとキレたらしい。

『私に自由はないの?って感じで私も喧嘩腰になっちゃって、それで…』
「あー、なるほど。なんとなくわかった」

わかった、これただ単に花宮さんの嫉妬じゃね?
今まで自分の手元にいた名前さんちゃんが、他の男どもの面倒なんて見始めたのが気に食わないってだけな気がする。
ただ花宮さんもプライド高そうだし、その気持ちを名前さんちゃんに伝えることはできないんじゃないだろうか。

まあ、そんな勘繰りはともかく。
問題は名前さんちゃんの数学の成績が悪い、その事実一点だ。

「オッケー、じゃあこれから集まるか!真ちゃんには連絡した?」
『まだ…』
「んじゃ、俺から事情話して一緒に行くわ。場所、いつものファミレスでいい?」
『うん。ありがと』
「いや、俺らの手伝いさせちゃったのも確かに原因だからさ。気にすんなって!」

原因は間違いなく俺らにあるが…今吉さんにもあるよなあ、とぼんやりと思った。
だって、今吉さんが面白そうだからというだけで、成績が危ない名前さんちゃんをマネにさせたんだから。
で、花宮さんと喧嘩…なんか、あの人ここまで読んでやってたんじゃないか。
敵に回したくねーと苦笑いせざるを得ない。

名前さんちゃんからの電話を切ってから、真ちゃんに連絡した。
一応今までの経緯だけ伝えた。
まあ、真ちゃんも名前さんちゃんと同じくらい、こういう話に疎いだろうしいう必要ないだろうし。

『本当に苗字さんはどうしようもないのだよ』
「まあまあ。俺らのせいってのもあるし」
『わかっている。いつものところでいいのか?』
「おー、俺も今から向かう」

ともかく、俺らにできるのは数学の課題を手伝うくらいだ。
花宮さんとの喧嘩や今吉さんの策略は、俺らには関係ない。
…巻き込まれないように、名前さんちゃんの手助けをする程度だ。

数学の教科書と問題集、筆箱と財布を適当なリュックに放り込んで、玄関に置いてあるチャリのカギを持って家を出た。
冷たい風が頬を切るのを無視して、暖かいファミレスを目指した。
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