ぶいえす ます せかんど!
応援している暇もなかった。

「お前…本当に馬鹿だな」
「あの、真顔で言うのやめません?」

試合の日、応援しているねとは言ったものの、実は補修の小テストの日だった。
そのため、試合を生で見ることはなかった。
一応、録画を桃井さんに頼んであって、それを高尾君経由でもらう予定だ。

しかし、意外と練習につきっきりだったこともあり、小テストの点数は悲惨極まりなかった。
事情を知っていた中谷先生がフォローを入れてくれたおかげで、落第は防げたが、落第目前。
中谷先生には、バスケよりも自分の心配をしなさいと進言された。
全く、そのとおりである。

この一連の流れを真先輩に伝えたところ、真顔で呆れられた。
呆れというか、なんというか、哀れみ?

「いいからとっとと課題やれ。赤点留年とか馬鹿になんねーぞ」
「あ、はい…」

いつもの小馬鹿にしたような雰囲気がない真先輩に、若干ビビる。
これはマジで怒っているときの真先輩だ。
試合に本気で挑んで負けた時とか、嫌いな相手に一発食らったときのような、ピリピリした感じ。

こういう時は、黙っているのが一番だ。
課題のプリントに静かに向かい合って…向かい合って…、

「ま、真先輩ぃ…」
「はあ?」
「なんか難しくなってます…」
「ああ?」

向かい合って一問目、難易度が高すぎた。
ちょっと前まで二次方程式の頂点を求めよ、くらいのものだったのに、なぜか頂点が移動していて、しかも動いた先の二次方程式を求めよという問題になっている。
どう考えても数学の先生、私に痺れを切らした。

私の手元のプリントを乱暴に奪って、さっと目を通した真先輩は、はっと嘲笑して、プリントを投げて返した。

「お前、完全に目ぇ付けられてんだろ」
「たぶん…数学は本当にダメなんで」

英語、物理と苦手科目は多数あるが、その中でも特段苦手なのが数学だ。
中学の時からそれは変わらない。
ただ、中学時代は真先輩たちに教わっていたから、赤点だけは回避できた。
しかし、2人がいない今、どうしても数学ができなくなってしまった。

これではいけないと思っている。
思っているが、どうしても数学は頭に入らなかった。
数学の先生に目を付けられてもおかしくない。

「ダメってお前、やってねーからそうなるんだよ」
「でも、」
「でも、じゃねーだろ。バスケなんてやってるからこんなことになんだよ」

確かに、高校に入ってから少し遊んでいたし、色々あってバスケのマネも再開した。
でも、それの何がいけないのだろう。
私勉強のためだけに高校に入ったわけじゃない。

確かに馬鹿だけど、勉強だけしかやっちゃいけないなんてことはないはずだ。

真先輩の言葉に、無性に腹が立った。
私は勉強以外、何もしちゃいけないのか。
小さなテーブルの下で、手を握りしめた。

「自分のことも満足にできねーのに、人の世話なんてしてるからこういうことになんだよ、バァカ」
「〜!もういいです!」
「はあ!?お前ふざけんなよ、何のために俺がここまで…」
「何のためにですか?真先輩、私に数学教えて、何になるんですか?別に私は、真先輩のバスケのマネでもない、真先輩に何の得もない!もういいです、私、緑間君たちに聞きに行きます、」

そういえば、真先輩と私の繋がりは、今現在ほぼない。
学校も違う、家の方向も逆、年齢も違う、頭のつくりも。
別に真先輩の手をいつまでも煩わせてまで、繋がりを保つことに意味があるだろうか。
なんでそんなことに、今まで気づかなかったんだろう。

私はテーブルの上の教科書やプリントを乱暴にトートバックに詰めて、家を出た。
真先輩は置きっぱなしだ、別に家に盗まれて困るものもない。
真先輩が家を出て行ってから、部屋に戻ればいい。
…というのも、緑間君たちはまだ試合終わりで数学どころの話じゃないだろうから。
流石に今日、というわけにはいかない。
数学の課題の提出は三日後、最悪、明後日に聞きに行く。

私は駅がある方向とは別方向側の植込みのあたりに隠れて、真先輩が出ていくのを待った。
真先輩は私が飛び出してから10分ほどで家を出た。
玄関の前で少しだけ立ち止まって(たぶん、鍵の心配をしているんだと思う)、特に何せず、門扉を開いて外に出て行った。
それを見てから、植込みから出て、家の中に入った。
今日は何もしない、そう決めた。
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