ぶいえす あかとまおう!
基本的な部分は皆研ぎ澄まされていて特にいうことはないし、あとはチーム連携の問題だ。
連携のおかしい部分を指摘するのは私でなくてもできる。
そういうわけで、私は基本的に雑務をこなすことに専念することにした。
タオルの補充、ドリンクの準備、コート整備など、やることは普通の部活と変わらない。

ただ、なぜかドリンクの準備だけはものすごく喜ばれた。
曰く、あの美女2人は料理ができないそうだ。
なんだか意外で、少しおかしかった。

「苗字さんさん」
「え、あ、はい」
「ちょっと聞きたいことがあるんだが、いいか?」

今日も今日とて、タオルの交換に精を出していた私を呼び止めたのは、洛山の赤司くんだった。
赤司くんはほかの人たちと比べて、身長が低い。
声も上から降ってくるというよりは(緑間くんに声を掛けられると本当にそんな風に感じる)、近くから聞こえてきた。
その声はピッと私にだけ届くかのように、真っすぐでとても聞き取りやすく、少し緊張感を持たせる。

びっくりして止まってしまっている私を見た彼は、苦笑いをして、そんなに畏まらないでくれ、といった。
何もかもお見通しというわけだ。

「えっと、何?」
「この間の、ナッシュ・ゴールドの見解についてなんだが。動きが自然と書いてあったが、どこを見て、そう思った?」
「どこ…?うーん…基本的には全部。金さ…ナッシュ・ゴールドはまるで歩くみたいにバスケをするなあと思ったの」

私が思ったのは、本当にその程度のことだ。
歩くのと同じようにドリブルをして、友達に物を投げるようにボールを投げる、ごみをゴミ箱に入れるようにシュートをする。
1つ1つの動作があまりにも自然だった。
どうしてそのように見えるのかはわからないし、うまく言葉にできないけれど、そう思った。

思ったことは分からないことでも伝えておけ、と真先輩と翔一先輩に言われて育った。
見る目はあるが考える頭がないなら、頭は別の人のものを使えと。
この場合は、赤司君がブレーンだ。

「なるほどな…苗字さんは本当に見る目がある」
「男以外はなー」
「高尾君、マジであの2人嫌いだね…」

好きな人なんてほとんど居ないだろ、と言ったのは近くにいた火神くんだ。
まあ好き嫌いは分かれると思うから、別に気にしないけど、堂々と言うのも何か違う気がするのは私だけなのだろうか。
曖昧に返事は返しておいたけど、少し腑に落ちない。

ただ、その思いはしっかりと腹の中に納めておいた。
真先輩が嫌われているのは周知の事実だし、何より、本人がそうなるように仕込んでいるのだから。

「ただ、彼らの言うことは確かだったんだろう?」
「そうなんだよね。2人のいうこと聞いてれば、大抵のことはうまくできたから」

赤司君は結果がいいなら、それでいいんじゃないか、とフォローを入れてくれた。
高尾君たちはまだ納得しきれていないような、微妙な笑顔を向けてきた。
別に高尾君に真先輩のこと、好きになれとか言うつもりはない。
嫌いなら嫌いでいいのではなかろうか。
真先輩も別に嫌われるのをどうとも思っていないようだし、無理に好きになることはない。

別に真先輩も暇じゃないし、誰某構わず喧嘩売るわけでもない。
あまり関わろうとしない限りは、害はないと思う。

「そういえば、あのナッシュ・ゴールドって人も、なかなか悪役だね」
「名前さんちゃんって悪役好きなの?」
「うん、バイキンマン派だし」
「アンパンマンが基準かよ!」

ナッシュ・ゴールドはなかなかの悪役だった。
英語がわからなかったから、真先輩に空港や試合中の台詞は全部読み上げてもらった。
その時に、真先輩が脚色しているのかと思ったくらいに悪役だった。

でもその一方で、シルバーとは違うプレイスタイルで驚いた。
体躯も違うから当たり前なのだけど、でもゴールドのプレイは練習しないとできないものだ。
とても、真先輩に似てるなあと思った。
悪役でいるのも、大変なものだ、かっこよくないといけないし。

「ナッシュ・ゴールドは強いよ。だって、悪役のボスだもん」
「なんだそれ」

火神君が怪訝そうに聞き返してくる。
練習嫌いの天才をチームメイトにするくらいの実力に、人のバスケを馬鹿にできるだけの自信。
それらをスカした顔でやらなきゃいけないのが、悪役だ。
スカした顔の裏側にどんな努力があったのかを悟らせず、努力もしないでここまで上り詰めたと見せかけるカッコよさ。

真先輩も同じだ、あの人も決して努力を前面に持ってくることはない。
だから、頭に血が上っている状態で戦うとうまく勝てないことがある。

「油断大敵ということだ」
「まあ、そんなところかな」

私の言いたいことを、赤司君は分かっているのだろう。
未だ納得しきれていないような顔をしている火神君を軽くあしらって、苗字さんさんは仕事があるだろう、と逃がしてくれた。
本当にできた人だなあと思うと同時に、底知れない感じがして、敵に回したくないなあと思った。
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