ぶいえす にじいろぼーいず!
じりじり照り付ける太陽を全身で受けるのは、数日振りのことだった。
隣を歩く高尾君は、その太陽にも負けずさわやかだ。

「あのね、高尾君。私、赤点なの」
「知ってんよー」
「しかも、三科目もなの」
「1人だけだって、中セン嘆いてたもんな」

一方、どんよりしている私ははあ、と何回目かわからないため息をついた。
あの試合の動画を見た後、私は桃井さんに断りの連絡を入れた。
正直、役に立てるとも思っていないし、桃井さんがいるなら私はいらないだろうと思ってのことだった。
真先輩もそれに対して特に何も言わなかったから、その話は終わったと思っていた。

しかし、そんなことはなかった。
いつも通り、朝の10時くらいに家にやってきたのは真先輩ではなく、高尾君だった。
桃井さんから話聞いてる?みたいな発言から始まり、じゃあ行こうか、と手を引かれて、ずるずるとここまで来た。
普通に真先輩も来る日だったから、慌てて連絡だけ入れておいたが、その返事は見ていない。
恐ろしすぎてみる気も起きないけれど。

「ま、俺らも手伝うからさー」
「あー…うん」

できれば、気慣れた人との方が勉強しやすいのだけど、好意を否定するわけにもいかず。
気の抜けた返事だけが、口から洩れた。
どうしようと思っている間に、体育館についてしまったから、もう後戻りはできない。

玄関で、若松さんと日向さんに合流した。
高尾君と先輩2人はベンチで、本メンバーはキセキの6人らしい。
まさか、わざわざ遠方の学校の2人まで来るとは…なんとも豪華なメンツだなあとぼんやり考えていた。

「遅れてすんませーん」
「こんにちは…」

高尾君の後ろからそっと体育館を除くと、本当に勢ぞろいだった。
奇跡の世代が6人、桃井さんと相田さん。
ちょろっと後から入ってきた私に首をかしげる人までいた。
大体の人は、私にノーコメント。
ただ、緑間君だけが私をちらと見て、小さく頷いていた。

高尾君が緑間君の傍に寄った隙に、私は緑間君の後ろに移動した。
今日のラッキーアイテム、やかんが気になるが突っ込むのも面倒くさい。
ワイワイしている今のうちに、真先輩に巻き込まれたことを報告しておこうと、ポケットから携帯を取り出した。

「…緑間、彼女は?インターハイにもいたな」
「うちのマネージャーなのだよ」
「あーその子は桃井さんのおすすめで来てもらったのよ」
「あ、紹介するね」

連絡するタイミングを見失ってしまった。
これ、真先輩にマジ切れされそうだ。
この暑いに、うちの家の前でピンポン連打してる真先輩とか想像したくもない。

それにしても、私はなぜ呼ばれたのか。
大男たちの視線が集まるし、知り合いはほとんどいない。
とてもやりにくい雰囲気だ。
この中で何をやれというのだろう。

「この子は苗字さん名前さんちゃん。2年から秀徳のマネージャーになった子なんだけど、もともとは今吉先輩とか花宮真と同中で、そこでマネージャー経験ありなの。主に、敵情予測と心理把握のために来てもらいましたー」
「えっ、初耳…なんだけど…」
「ごめんね!でも、動画は見たでしょ?」
「見たけど…」

はっきりしない物言いに、若干イラついていそうな人数名。
こいつ本当に大丈夫なのかって思ってそうなのが数名。
無関心数名。
高尾君はにこにこしてて、何考えてるのか全く分からず。
緑間君だけは顔が見えないけど、あまり気にはしていないみたい。

試合の動画は真先輩と見た。
真先輩はノーコメントだった、思うところがなかったというよりかは、きっと先輩もあまりいい気分はしなかったのだと思う。
でも、その試合について詳しく話してはいない。
持論で話しても意味はないだろうし、マジでなんで連れてこられたんだろう。

「動画を見て、感想を聞きたいんだ。それだけでいいの」
「…あー、うん」
「それに、名前さんがいると、真ちゃん素直だしなー」
「どういう意味なのだよ…!」

非常にやりにくいが、ここに来てしまった以上、やるしかない。
緑間君の後ろから、周りを見渡すと、すでに私に興味を亡くしている人もちらほら。
まあそういう状況ならまだいい。
練習の手伝い云々ではなく、ただ動画を見て感想言うだけなら。

さて、集まったメンツだが、桃井さんや相田さんが言うようにアクが強い。
ただ、それは相手チームにも言えることだ。
実力で攻めるよりも、チームワークでうまくかき乱す方がうまくいきそうな気がする。
最初からチームワーク前回というよりは、緩急をつけ、油断している間に攻める。
そのやり方をどう思うかはさておきとして、そして、それを行う余裕があるかもさておきとして、私の理想はそこにある。

そして、緩急や油断を作るきっかけは、やはり誠凛の黒子くんか。
それから、ガンガン突っ走って行ってしまいそうな青峰くん、紫原くん、火神くんを抑える役目が赤司くん、黒子くん。
まとめ役として黄瀬くん、高尾くん。
緑間君は警戒を促すきっかけを与えるのと、そのあとの柔軟な対応が求められる。

ゲームメイクはあんまり得意じゃないし、何より、私がメイクしても誰が聞いてくれるのかって話だったので、そこで考えるのをやめた。
というか、辞めざるを得なくなった。
…手に握っていた携帯がしきりに震えている、私の手まで震える。

「…ごめん、緑間君、ちょっと電話してくる」
「誰になのだよ」
「…真先輩…約束すっぽかしたから、今日…」
「え、今日花宮さんと約束してたの?」
「ってか毎日来てもらってる、ほら、私、あれじゃん?今期末…」

あー、と納得したような顔をした高尾君と、すごくいやそうな顔をした緑間君に挟まれつつも、私は携帯の受話ボタンを押した。

『おい』
「…申し訳ありません…」
『今どこにいんだよ』
「それがですね…ほら、この間見た、あの動画の件でですね…」
『ハア?お前そんなことしてる暇あんのか?あ?』
「ないです…ないんですけど…でも、無理でしょ…」
『流されてんじゃねーよ、バカ』

断る、の一言を言うのも憚られたので、あいまいな返事しか返せない。
真先輩はすでに家から離れて、交通量の多い場所にいるらしい。
遠くで車の走行音が聞こえる。

聞き耳を立てている高尾君に変なことを言われないように、言葉は慎重に選んでおく。

「…でも、真先輩だって気になってたくせに…」
『ならねえよ。あんなもん見てるだけでいい』
「さいですか…」
『とっとと終わらせろ。どうせお前にできんのは、動画を見て下らないこというくらいだろうが。それ以外のことしないで、さっさと戻れ』
「あ、うん。了解。また電話します」
『勝手にしろ』

それだけ言って、真先輩は乱暴に電話を切ってしまった。
不機嫌そうではあったが、なんだかんだでこの試合のことは気になっていたらしい。
お咎めもあまりなかったのでほっとした。
まあ、この後の勉強会がものすごく厳しくなりそうだけど。

ほっと胸を撫で降ろして、携帯をポケットにしまった。
高尾君が、どうだった?と聞いてきたので、平気そう、と返すとよかったじゃん、と笑いかけてくれた。

「ってか、名前さんと花宮先輩って付き合ってんの?」
「ないない。真先輩普通にイケメンじゃん。私じゃ釣り合わないし」
「ふうん?」
「本当にそういうのじゃないよ」

納得してなさそうな高尾君はさておき。
私は桃井さんの傍に行って、視聴覚室を聞いた。
動画をしっかりと見てから、選手の動きを見て、総合的に判断する。
それが私たちのやり方だ。
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