87.時世

夕食前と昼休みに勉強会は執り行われていた。
スリザリン生はこぞって談話室に集まったり、地下の倉庫を綺麗にして練習場にしたりして着々と実力を高めていた。
なまえは昔にリドルが教えてくれた隠し部屋で一人練習をしていた。

「うん、いいね。これなら教えても問題ないよ」
「ありがとう。うまく教えられるかな?」
「それは後ろからアドバイスするから大丈夫。…なまえはもう少し別の呪文も練習しよう。ノクターンはこれからより危険になるだろうから」

なまえは呑み込みが早く、やり始めると1ヵ月弱くらいでマスターできることを前回の守護霊魔法の件でわかっていた。
今回も2週間程度でしっかりと呪文をこなせるようになっていた。
この調子で攻撃系の魔法も覚えさせたいとリドルは考えていた。
ノクターンは危険であるというのもそうだが、何より闇の陣営に近い場所にまで一度行ってしまった以上、巻き込まれる可能性が高くなってしまったというのが大きな理由だ。

「そうだね、ある程度はできるようにしておきたいな」
「少しずつでいいけどね、今年はOWLもあるから」

授業と課題、呪文練習、勉強となまえは今かなり忙しい。
過去にしていたバイトよりは睡眠時間も取れるが、それと比べてはいけない。
なまえは熱中するとすっかり他のことを忘れてしまいがちなので、リドルがある程度のゆとりを持たせるようにしなければならない。

リドルは部屋の隅にあるテーブルの上の置時計をみた。
時計の針は間もなく夕食の時間であることを告げている。
なまえはいまだ夢中になって攻撃系の呪文の載った本を読んでいたから、夕食に行くように促した。
このやりとりに、どこかほっとする自分がいるのを感じながら。

部屋を出たなまえは、夕食のために大広間に行く人の波に乗って進んでいた。
スリザリン生の姿があまり見られないから、まだ寮内では練習をしているのだろうということが分かった。

「なまえ、」
「あ、セドリック先輩。こんばんは」
「こんばんは。これから夕食?」
「はい」

不意に後ろから声をかけられて、なまえは振り返った。
後ろに頭一つ分飛びぬけているセドリックの蜂蜜色の髪が見えたので、なまえは廊下の端に移動して彼を待った。
背が高いとこういうところですぐ見つけられるのでいいなと思った。
きっとセドリックからみたら、自分のいる場所は凹んでいるのだろうとも。

セドリックは相変わらずの柔らかい笑みを浮かべて、こちらにやってきた。
そしてなまえをエスコートするように前を歩いた。

「なまえがひとりでいるの、珍しいね」
「確かに、そうかもしれません。今ちょっと忙しくて」
「そっか。OWLもあるし5年は大変だよね」
「はい」

確かに、一人でいるのは久しぶりかもしれない。
ひとり、といっても、なまえはいつもリドルがいるのでひとりであるようには思っていないが。

無論、そんなことを知りもしないセドリックは勝手に納得をしているようだった。
5年生は大抵OWLに追われ、自分のペースで勉強を進める人が多いのだと聞いたことがある。

寮によってそれは様々なのだろうと思うが、スリザリンでは意外にも先輩の面倒見がいいため、1人で勉強している人は少ない。
ハッフルパフのセドリックはそれを知らないらしい。

「OWLの勉強はどう?」
「まあまあです。でも今年は防衛術がすごいですね」
「…ああ、どこもそうなんだね」

セドリックの反応からも、防衛術は学年、寮問わずあのスタイルらしいことがわかった。
基本的に実技を含む授業のテスト内容は実技が含まれる。
防衛術などその典型でもある。

しかし、授業で一切実技を扱わないと公言しているのだ。
テストはどうなることやら、というのが生徒たちの懸念である。
OWLやNEETを控える学生は、なおのことだ。

「もし分からないことがあったら、教えるからね」
「はい、ありがとうございます」

真面目なセドリックのことだ、OWLの過去問や自分が使ったノートなどは残していることだろう。
そこから出題傾向を探ることもできる。
OWLの近くになるとそのノートはハッフルパフ内で取り合いになるだろう。
事前に借りておくほうがいいかもしれない。

とはいえ、今は忙しくOWLの過去問を解いている場合ではない。
過去問を数多く解くほうがいい科目もあるが、そうでない科目もある。
そのあたりを整理する時間も必要だ。
いつごろ、どのように始めるかで悩み始めたなまえに、セドリックは苦笑した。

「本当にまじめだね」
「そうでしょうか。セドリック先輩だって、過去問のノートとかまだ持っているんじゃないですか?」
「まあ、そうだね」
「セドリック先輩こそ、まじめじゃないですか」

クスクスとお互い笑い合っている間に、大広間についた。
スリザリンの席では、パンジーが控えめに手を振っている。
その前にはドラコ、ザビニ、ノットがすでに席についていた。

セドリックと別れて席に戻ると、パンジーが嬉々とした様子でこちらを見た。
何だろうと、なまえが警戒していると彼女はこそこそと小声で、セドリック先輩とはどうなの、と聞いてきた。
夏休みの間、こういった話をすることもなかったから、少し驚いてしまった。
そういえば、去年はこんな話で大いに盛り上がったっけ、と思いだした。

「まあまあ。でも今年は私も忙しいし、セドリック先輩も忙しいから」
「就職だものね…このご時世に」

このご時世に、という言葉を聞くと、大抵のものが少しだけ気落ちする。
今はそんなご時世である。
なまえは静かにパンジーの言葉にうなずいた。
できれば早くこのご時世が変わってくれればいいと思う。
その一方で、このご時世を変えるのは私たちの仕事なのだろうとも思っていた。

早く強くなって、守るべきものを守れる人になる。
なまえにとって、今一番の目標はそれだった。
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