08.よるのまどろみ
なまえはようやく眠りについた。

あの後少しなまえと話しをした、親に捨てられダンブルドアに捨てられ、見知らぬ土地で一人ぼっちで。
とにかく話を聞いて、苦しかったねってそう言うとなまえは酷く安心したように微笑んだ。
きっと僕にもこういうことがあれば、もっと幸せになれたかもしれなかった。

なまえは腕の中でぐっすりと眠っていた。
今は僕もなまえと同じベッドの中で横になっている。
記憶という状態上、睡眠は必要ないので横になっているだけだ。
もう少しで夜も明ける。


なまえが眼を覚ましたのは夕方だった。

「ん…ぁ、リドル…?」
「おはよう。よく眠れた?」
「…ん、ありがと」

腕の中でなまえは照れくさそうに笑っていてちょっと安心した。
なまえがシャツを掴んでいた手を離し起き上がったのを見て、僕もベッドから起き上がった。
僕もなまえのお陰で少し休めた気がする。
1年間頑張り続けたのだから、やはりどこか疲れていたのだろう。記憶だけれど。

「ご飯食べられそう?」
「うん、多分食べられる」
「そう。今朝いつのも人が食事を置いていってくれたよ。温め直してあげるからシャワー浴びてきたら?湯冷めしない程度にね」
「そうする」

なまえは普段多くを語らない、会話も短い。
それでもなまえにとっては多くを喋っているつもりのようだが。

なまえがシャワールームに入ったことを確認するとなまえの杖を使って、テーブルの上のスープを温め直した。
僕はなまえのこと結構気に入ってる、あんなに穏やかな気持ちになったのは久しぶりだった。
似ているとかそう言うのもあるけれど、それだけだったら見捨てていた。
僕は僕自身が好きなわけではない、こんな僕でなければと本心では思ったりもした。
なまえは変な使命感に突き動かされることもなく、闇を受け入れすべてを受け入れて生きてる。
だから僕が誰であっても良いと思って受け入れて、こうして魔力を分け与えて信頼してくれている。

ぼんやりと考えながら温めたスープをサイドテーブルに移す。
ベッドで食べるのはあまり行儀よくないが、こういうときには許されるだろう。

「ねえリドル、タオル知らない?」
「…なまえ、そんな格好で出てこないで。タオルは棚になかった?上のほう」

かたん、とシャワールームの戸が開く音がしたのでそちらを見れば、シャワー上がりのなまえがそこに立っていた。
しかし、その姿は素っ裸。
タオルが見つからなかったため、洋服に袖を通すのも嫌だったのだろう。
しかしとはいえ、年頃の女がするようなことではない、無頓着にもほどがある。
目のやりどころがない。

「上?見てなかった。私の手が届くところ?」
「あー…届かないかもしれない。ちょっと待ってて。あ、保温魔法かけるから。そのままじゃ湯冷めする」
「…リドルってお兄さんみたいね。面倒見の良い」

そういえばなまえが休んでいる間に僕が勝手にタオルをしまったから、なまえの手が届かない場所にあるかもしれない。
なまえがベッドに腰掛けたのを見て、毛布をかけて保温魔法をかける。
そのとき、なまえはふっと僕を見上げてそういった。

…兄だなんていわれたこともなかった。
確かに勉強の面倒を見ることもあったが、そこまで懇切親切にやっていたわけでもない。
ただ、なまえだけは捨て置けない、なまえにだけ特別だ。

「君があまりにずぼらだからだよ。ほら、タオル。髪乾かして」
「ん…ありがと」

もしゃもしゃとなまえは髪を乱雑に乾かし始めたので、その手からタオルを取る。

「そんな乱暴にやらないでよ。痛むよ?」
「そんなのどうでもいい。乾かないとまた風邪引く」
「女の子なんだしもうちょっと気を使っても…」

どうして僕がなまえの世話をこんなに焼いているんだろうと自分でも不思議に思う。
なまえの手からタオルを取り上げ、代わりに髪を乾かす。
しっとりと濡れた美しい黒髪、見上げる黒曜石の瞳、象牙のように滑らかな白い肌。
童顔だが愛くるしい、…瞳は濁った闇色とも取れるが。

女として愛らしい姿だけれど、まとっているその闇の気配を子どもたちは機敏に感じ取っているのだろう。
だからなまえを忌避し遠ざけ異端として蔑み軽蔑し侮蔑した。
でも、もうなまえは1人じゃない、僕がいるし。

「眠い?」
「眠い…」
「寝て良いよ」

腕の中でとろりとろりとまどろむなまえにそういうと、なまえは身体を僕に預けて目を瞑った。
少しすると規則正しい寝息が聞こえてきた。
この調子なら明日には体調は戻るだろう。

夏休みの宿題も終わっているし、2年までの勉強も殆ど終わっている。
当分勉強はしなくていい。

だから今は彼女に休息を。


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