79.振り返る
セドリックがなまえに会えたのは学校も終わりに近いころだった。
いつにもなく大胆な行動に出た最終試合の後もなまえはそれを引きずり、恥ずかしがって部屋から出なかったからだ。

「やだよ、どうせ成績今回はそんなに高くないだろうし」
「そういう問題じゃないでしょ!ティゴリーに会わないまま夏休みを迎えるつもり?」
「どっかで会うって」

パンジーはあらゆる手を使ってなまえを外に出そうとした。
最初は食事(なまえは大広間での食事をボイコットしていた)、次はおやつ(ドラコやノットがなまえが好きそうなお菓子を持ち寄った)、それでもだめだったので次は成績といったところ。
今年もいつもと同じように成績表が張り出される。
しかし、今年はブレスレットの件などの様々な要因から、そう期待はしていない。
テストの結果はそう心配することもないが、実技は悲惨だった。

しかしそうも言ってはいられず、学校の終わる最後の終礼にはでることになった。
そこに行く最中で、ばったり、というよりかは完全に待ち伏せされていたかのようなタイミングでセドリックに会った。

「なまえ」
「…セドリック先輩。お久しぶりです」

今までセドリックを避けていたなまえはバツが悪そうに眼をそらした。
恥ずかしさと罪悪感から、彼の眼を見ることはできなかった。
それでも、彼は変わらずなまえに笑顔を向けた。

「ブレスレット、ありがとう。おかげで助かったよ」
「いいえ…、気にしないで。私にできたのはそれくらいだから」
「本当にありがとう。ごめんね、なくしてしまったんだけど…」
「いえ、いいんです、それで。あれは身代わりみたいなものですから」

どうやらブレスレットは、なんらかの魔法を受けて壊れてしまったのだろう。
あのブレスレットを壊すというのはそうとう強い魔法だ。
それが当たっていたら、大変なことになっていただろう。
何とかなってよかったとなまえは思った、頑張った甲斐があったとも。
もともとセドリックの身を守るためのものだから、それを壊してしまったりなくしてしまったりということを責めるつもりはなかった。

セドリックが申し訳なさそうにしているので、その旨を伝えようとなまえなりに努力した。
しかし、セドリックも同じくらい謙遜しているため、どこかぎこちない様子に終わった。

「あ、この集まりが終わったら会えないかな?」
「え、ああ…大丈夫です」
「じゃあ列車の3両目あたりでまってるよ」

そろそろ終礼の始まる時間だ。
この場の会話はここまでだ。
なまえはセドリックと別れて、大広間に入った。

スリザリンのテーブルではいつものメンツが集まっていた。
いつも通り、パンジーの隣に収まった。
パンジーは好奇心いっぱいの眼でランを見ていた。

「で、ティゴリーはなんて?」
「なんてって…ありがとうって言われたけど」
「何に対してだよ…」

ザビニが呆れたようにスープを口に運びながらそう言った。
スリザリンのメンバーはランがブレスレットをお守りとして作っていたことを知らない。
そのブレスレットが名前を言ってはいけないと畏怖されている人の攻撃からセドリックを守ったということを知らない。
それを知っているのはセドリックのみである。

気の抜けるようななまえからの回答に、その場の空気は呆れ一色となった。
なまえはそれに気づきながらも、静かに自分の前にあったサラダに手を付けた。

「あ、なまえ。今年は私たちのコンパートメントに来るわよね?」
「ごめん、さっきセドリック先輩に誘われちゃったから…」
「もう!じゃあ来年の行きは一緒よ?スリザリンのコンパートメントにいるから来てよ」
「うん、そうする。ごめんね」

3年からなまえはパンジーに一緒のコンパートメントで、とお願いされているが、なまえは一人が好きだから何かにつけて断っていた。
しかし、最近はみな結構しつこいため、断りきれない。

なまえはチキンを小さく切り分けて口に入れた。
今年は様々なことがあった。
恋愛、新しい魔法、他校の生徒との交流…なまえにとっては激動としかいえない一年。
大きく成長したようにも思えるし、ある意味では劣化してしまったともいえる。
しかし1つ言い切れることは、後悔はないということ。


「じゃ、また来年ね、なまえ」
「ええ。それじゃあ」

大きなトランクを地べたにおいて、軽く手を振った。
パンジーは先に電車に乗っており、窓から手を振り返してくれた。
今年も怒涛の一年が終わる。

なまえは3両目に向かって歩き始めた。
背の高いセドリックは大勢の人の中でもよく目立つ。
はちみつ色の髪色がぴょっこりと顔をのぞかせているのが、なにやら可愛らしい。
なまえはそれを目当てに、トランクを置いたり持ったりを繰り返して進んだ。

セドリックの周りにはたくさんの人がいる。
だから、きっとこちらには気づかないだろうとなまえはそう思っていた。

「なまえ!」
重いトランクを地べたにおいて休み休み前に進んでいたなまえをセドリックは見つけた。
小さな姿が人の波の中に埋もれたり出てきたり、ひょこひょこしているのを見た。
いてもたってもいられず、人をかき分けてなまえの元へ向かう。

「持つよ。行こう」
「あ…はい」

見つかると思っていなかったなまえは驚きながら返事をした。
セドリックは重いトランクを軽々と持ち上げて、なまえの前を歩く。
ぼんやりとその背中を見ていたが、慌ててその背中を追いかけた。



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