68.スープの波紋
なまえは図書館で水中で役に立ちそうな魔法を探していた。

「水中か…エラコンブとかがあるけど、希少種だから手に入れるのが難しい」
「やっぱ泡頭魔法が一番だと思うけどな、無難だけどレベル的にもちょうどいいだろ。水中で抵抗をなくす方法を考えれば少しでも早く動けるし」
「エラコンブが入手困難なら泡頭魔法しかないし、その中で差をつけられるように考えないと」

なまえが図書館にこもりきりなのを見たノットとザビニが手伝ってくれていた。
ノットは魔法薬学や薬草学に詳しいので、新しい方法としてエラコンブを見つけてくれた。
エラコンブは効力が1時間きっかりといったところで、身体が水中に対応できるようえらが生えるという効能を持つ植物だった。
しかし、希少種であるため入手が困難であるということから却下された。
その他によさそうな水中で呼吸をするものは見つからなかった。
ノットと2人で図書館にこもっていると、そのうちザビニが様子を見に来た。

水中での行動を効率よくするための魔法が重要であるのではと考えたなまえは、その魔法を探していた。
ザビニも一緒に考え始めた。
彼の提案で、摩擦をなくす魔法を見つけた。

「これなら、難易度も高くないし効率的ね」
「おーよかったよかった」
「あとは水中での躍進力とか、必要か?」
「そうね、それも考える」

今、スリザリン寮内ではポッターよりもセドリックを応援している。
嫌がらせに近いものが多いドラコ率いる勢力が見えるものとして有名だが、ノットやザビニはどっちつかずの人や無関心な人もいる。
しかし、普段から目立っており、その上年齢制限に引っかかるはずだった彼を応援する人はほとんどいない。
ノットとザビニはなまえの応援をしているにすぎず、彼らもまた、大会に関しては無関心だった。

「今日のところはこれくらいにしよう」
「そろそろ夕食だしな」

2人に連れられて、なまえは図書室から出た。
大広間に向かう道は人で混み合っている。

「そういえば、なまえ。お前最近体調崩してたみたいだけど大丈夫なのか?」
「あ、うん。もう平気。貧血の酷いやつだったみたい」
「増血剤飲んだ?」
「うん。あれ、まずいね」

体調を崩した際、なまえはパンジーに連れられて医務室へ行った。
なまえの体調不良の原因は明確で、そのようなものではよくならないと知っていたが、パンジーにそのことを話すわけにもいかず、言われたとおりに行ったのだ。
むろん、体調不良の原因はマダムにも分からず、症状から重度の貧血だろうと増血剤を出された。
味は鉄の味でドロドロとしていて、はっきりいってまずい。
もう飲みたくないと思う味だった。

「もう飲まずに済むようにしろよ」
「心がける…」

体調はよくなった、というよりも症状が出るほどじゃなくなった。
身体が不調に順応したためである。
そろそろ手首のお守りも完成に近づいている。
なまえの手首には大きすぎる銀のそれは、徐々に重みを増している。
もう完成であるといってもいいが、このお守りはどこまでも強くなれる。

大広間の近くまで来て、ザビニとノットはそっとなまえから離れた。
いつもとは違う状況になまえは疑問に思ったが、目の前を見て納得した。

「なまえ」
「セドリック先輩、こんばんは」

セドリックは変わらず笑顔だったが、少しいつもと違う気がした。
なまえはその変化に内心疑問を抱きながらも、軽くあいさつした。

人の多い廊下で立ち止まると、非常に目立つ。
セドリックは廊下の端に移動した。
挨拶だけで済むかと思ったのだが、何か話があるらしい。
なまえは人をかき分けながら、セドリックがいるほうへ向かった。

「今日、見かけなかったけど…また体調が悪かったとか?」
「いえ。図書館に籠りきりだったんです。何かいい魔法はないかと」
「なんだ、そうだったのか。心配したよ、大広間に来る時も2人と一緒だったから」

セドリックはそういって笑ったが、それでもまだ違和感がぬぐえない。
しかし、それを聞くのはためらわれるように思えた。
なまえはその原因を聞かないまま、大広間に向かった。

「あら、なまえ。どこにいってたの?」
「パンジーまで…」

大広間を見渡すと、スリザリンのテーブルから小さく手を振るパンジーが見えた。
パンジーが席をとっていてくれたようなので、その隣に収まった。
目の前にはかぼちゃのスープが置かれている。

パンジーはなまえが座るや否や、セドリックと同じことを話した。
なまえは呆れながらも、彼女を見る。
彼女は不思議そうになまえを見た。

「は?」
「セドリック先輩にもそれ言われたの」
「あら。でも、確かに今日は見かけなかったから。ティゴリーも探していたようだったし」

パンジーの話によると、昼時に一度ティゴリーになまえを見たかと聞かれたそうだ。
普段から居場所を転々としているため、なまえはつかまりづらい。
しかし、そのため誰かしらなまえを見かけることがある。
なまえを知っている人に聞けば、彼女をどこで見たのかを応えてくれることが多い。

ただ、今日は図書館に籠りきりだったのでなかなか見つからなかったのだろう。

「今日は図書館に籠りきりだったの」
「そうだったの。一人で?」
「ううん、ノットとザビニと」
「ふぅん…そのことティゴリーに話したの?」

パンジーは目を細めてなまえを見た。
その視線に若干後ろに下がりながらも、なまえは答えた。

「え、いや話してはいないけど」
「いないけど?」
「ノットとザビニと一緒に大広間に行くところ見られたと思う」

パンジーはあからさまにあちゃーという顔をした。
なまえはその反応に困ったような顔をするだけだった。
その反応を見た彼女は一つため息をついた。

「何…?」
「まあ、なまえらしいといえばそれまでなんだけど」

パンジーはそれ以上の言及はせずに、スモークチキンを食べ始めた。
釈然としないままに、なまえはパンジーを見ていたが、あきらめた。
これ以上、パンジーは何も教えてくれないだろう。
自分で考えるほかない。

仕方なくなまえも目の前のかぼちゃスープを口に運んだ。
目の前のスープはすっかり冷めていた。
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