71.ダンス・ステージ
外ばかり見ていたなまえを外に連れ出した。
まず、ちらちらと雪が降っているのでなまえは楽しくなった。
あたりは無論雪だらけだった。
普段は外でグリフィンドール生が遊んでいて、自分は見ているばかりだったが、こう静かだと自分も庭に降りていって遊びたいと思った。
そのあと少しして、寒さが身体を刺していることに気づいた。

「寒い?」
「いいえ、大丈夫。寒くなったら戻ります」

耐えられない寒さではないから、もう少し火照った身体を冷やしたい。
セドリックは何もいわず、なまえの隣に立っていた。

「ね、なまえ」
「なんですか?」
「この前の返事、聞いてもいい?」

少しの間、夜空を見上げたり、遠くの黒い森を見たりしていたが、唐突にセドリックが声をかけた。
なまえはセドリックを見上げた。
鳶色の瞳とかちっと眼が合った。

「…好きか、嫌いかって話ですよね」
「そんな両極端な話ではないけど…まあそうだね」

いつかは聞かれると思っていた言葉。
だが、なまえとしてはもう答えは出ていた。
あとは口に出すだけ。

「お付合いって主になにするんですか?」
「何って…デートとか?」
「…結構普段から一緒にいますよね」
「まあ、そうだね」

付き合って、なにをするのかなんて聞いても意味は無い。
ただ、言うべきことを言うことに抵抗があるから、少しの時間稼ぎだ。
無意味なやりとりだが、セドリックは嫌な顔1つしなかった。

「色々考えました。でもやっぱり、好きなのかはっきりいえません」
「そう…」
「でも、ドラコやノット、ザビニ…他の誰よりも、セドリック先輩と一緒にいると落ち着きます。もしかしたら、お付合いすれば好きかどうか分かるかもしれないと思いました。だから、」

なまえの出した答えの最後は言えず仕舞いだった。
いつもと違うコロンの香りと、冷えた身体を包み込むような暖かさ。
視界が濃紺になって、上から声が降ってきた。

「ありがとう。凄く嬉しいよ、その答えで充分だ」

穏やかで優しい声音が、すっと辺りに融ける。
彼の胸の中にうずもれるのも、腰に腕を回されるのも、不思議と嫌な感じはしなかった。

「好きだよ、なまえ」
「…はい」

好き、と返せるわけではないから、とりあえず返事をした。
それだけでもセドリックは満足らしい。
抱きしめる腕の力が強くなったのを感じて、彼を見上げた。

「あの、そろそろ中に戻りませんか」
「ああ、うん、そうだね」

如何せん、この格好は恥ずかしい。
暖かくていいが、そういう問題ではない。
名残惜しそうに離れるぬくもりに、悪いことをしてしまったような気もする。

付き合うからにはスキンシップをしっかり取るべきなのだろうかと、なまえは悶々と考えていた。
一歩前を歩くセドリックの手に触れるべきか、否か。

「あ、そうだ。なまえ」

セドリックはカーテンのある辺りで突然立ち止まった。
考え事をしながら彼の後ろを歩いていたなまえはぶつかりそうになるのを堪え、セドリックを見上げた。
セドリックが嬉しそうに笑っているたから、なまえは小首をかしげた。

「なんっ…ん」

少し触れただけだ、ほんの少しだけ。
だけど、それだけでも足元はぐらぐらする、頬に乗った雪は一瞬で水滴に変わる。

「さ、帰ろうか」

極上の笑みでセドリックはそういってなまえの手をとった。
なまえはふてくされたようにそっぽを向いていたが、不満げそうに呟く。

「なにがハッフルパフですか。よっぽどスリザリンらしい」
「男なんてみんなこんなものだよ」

会場は相変わらずお喋りの声やダンスの音楽、雑踏で煌びやかな雰囲気を醸し出していた。
先ほどまではその雰囲気がいづらいと感じていたのに、今となってはほっとする。
温かい飲み物を貰い、ダンスフロアをのんびりと眺めていた。

ダンスパーティーも佳境を越え、一時よりは人も減ったように見える。
ダンスをする人は大分減って、大抵はテーブルの近くで各々談笑をしていた。

「なまえ、もう疲れた?」
「ええ」
「なら、今日のところはこれくらいにしておこうか」

素直に疲れた。
慣れないダンスやら雰囲気やら告白やらで思ったよりも疲れている。

セドリックと共にダンスフロアの脇を通り過ぎ、出口に向かった。
出口で、見覚えのあるくしゃくしゃの黒髪をみた。
セドリックはなまえを階段下までエスコートして、少し待っていて、とだけいて階段を登っていった。
恐らくあの黒髪の持ち主、ハリーに用事があるのだろう。
なまえは大人しく階段下の柱の影でセドリックを待った。

「ごめんね」
「いいえ、平気」

なにについてかは特に聞かなかった。
聞いたら教えてくれそうではあったが、なまえ自身余り興味がない。

スリザリンの寮まで送り届けてもらって、なまえは部屋に戻った。


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