63.舞踏会
クリスマスが足音を立てて近寄ってきているかのようだった。
ホグワーツは白い雪にうずもれるようになり、一方校内はヤドリギや氷柱、オーナメントで煌びやかだった。
なまえは体調も落ち着き、きちんと毎日授業に出ることが出来るようになっていた。

今日は特にやることもないので、ホグワーツ内をうろついていた。
すれ違った青みが買ったグレイの制服の裾を視界の端に捉えるのにもなれた。
最初こそ奇妙な感じがしたが、今はなんとも思わない。
中庭に接する廊下はキンと冷えた空気が流れていて、なんだか心地よかった。

去年のクリスマスにセドリック先輩から貰ったマフラーに顔をうずめる。
このマフラーはいつでもお日様の匂いがした…恐らく魔法がかかっているのだろう。

「なまえ!」
「あ…セドリック先輩」

雪の中から蜂蜜色の髪がひょこひょこと動いているように見えた。
中庭にはチョウ・チャンとこの前ノットが言っていたヴィーラの子がいた。
セドリックは誰が見てもイケメンだし、女の子を侍らせていても全く違和感がない。
なまえはその美女達の中にはいるのが嫌だった。
美女に囲まれたら、ちんちくりんなのがばれてしまう。
ばれるもなにも隠しているわけではないのだが、際立ってしまう。

なまえは14歳になったが、人よりも成熟が遅かった。
それは人種的な問題もあるかもしれなかったが、それでも際立って子供っぽい。
こちらの1年生と並んでも違和感がないほどになまえは童顔だった。

「ええと、どうしたんですか」
「ちょっと話したいことがあって…今いいかな?」
「別にいいですけど…チャン先輩とあの人はいいんですか?」
「あー…うん、2人への話は終わったんだ」

歯切れの悪い返事だった。
なまえはセドリックを見、そのあとその後ろの中庭を見た。
少なからず、なまえには彼女たちがこちらを睨んでいるように見えた。
セドリックはなまえの視線が中庭を診ているということに気づいたのか、さっと自分の身体でその視界を遮った。

セドリックはなまえをいつもの天文塔の空き教室に連れて行った。
相変わらずそこは見晴らしがいい。
なまえはその教室に入って、はっと思い出した。
そういえば、まだあの時の告白の返事をしていない。

「ねえ、なまえ。クリスマスパーティーの話は聞いてるかな?」
「え…ああ、聞いていますよ」

セドリックは出窓の淵に座っていたなまえの隣に立った。

クリスマスパーティーの話はパンジーに聞いた。
我らがスリザリンでは、寮監のスネイプ先生がパーティーなどには乗り気ではないので監督生がそういった通達をする。
監督生から集会に出るように、という通達があり、何故なのだろうと利いたところパンジーはさも当たり前のように答えた。

「そりゃ、クリスマスパーティーのことよ!」

何故知っているのだろうと思い聞いてみれば、三大魔法学校対抗試合では伝統としてパーティーを開くのが通例らしい。
そのため、パーティーについての諸注意があるだろうという話だった。
集会はまさにその話で、監督生の先輩が淡々と説明と注意をしていた。

ただ、スリザリンにおいてパーティーと言うものはそう珍しいものでもない。
純血の家の者ならダンスからマナーまですべて叩き込まれている。
そうでなくとも、嗜みとしてかじっているものがほとんどだ。
だから、監督生も寮監も大して心配はしていない。

「なまえは…その、誰かと出るとか決めた?」

なまえはここでぴんと来た。
普段は全く冴えない鈍感ななまえだが、ここではセドリックが自分をパーティーに誘おうとしているのだろうということに気づいた。
だが、答えは決まっている。

「ごめんなさい。私パーティーには出ないつもりなんです」
「…どうして?」
「私、ダンスの仕方も知らなければマナーも知らないし、何よりドレスなんて持ってませんから」

そう、今回に限っては物理的に無理だった。
まだ質問しにいってはいないが、もし学校内に残っている生徒全員がパーティーに出なくてはならないというルールがあるのであれば、夏に泊まっていた宿に短期で泊まろうと思うくらいには出るつもりがなかった。

それもそうだ、なまえはパーティーになんぞ一度も出たことはない。
やったことは愚か見たこともないダンスを踊らなくてはならないのなら、なまえは逃げ出すつもりだった。
その上、なまえはドレスを一着も持っていない。
使いもしないものを買わないなまえがそんなものを持っているはずがなかった。
また、このためだけに買うつもりもなかった。

「だから、ごめんなさい」

セドリックは傷ついたような顔をしていた。
なんといえばいいのか困っているようで、黙り込んでいる。
人がいないところで2人きりで話をしていたから、この沈黙が痛い。

「そっか…残念だな」

なんとか振り絞って出てきた言葉はそれだけだった。
その後は他愛もない話をしていたが、その間もずっとセドリックの顔は暗いものだった。
なまえは本当に申し訳ないような、寂しいようなそんな気がした。
やっぱりセドリックには笑顔のほうが似合ってるとそう思う。

夕食の時間が近づいていたので2人は大広間に向かった。
微妙な雰囲気が流れているにもかかわらず、それでも2人だった。

「あ、パンジー」
「何でそこで私に話しかけるんだか…」
「え?」

大広間に行く途中で珍しく1人のパンジーを見かけたので声をかけた。
この微妙な雰囲気を治してくれるならそれが一番だった。

パンジーは呆れたように声をかけてきたなまえを見た。
はあ、と分かりやすく溜息をついて、それでもきちんとこちらに来てくれた。
セドリックは特に気にする様子はないようにみえた。

「ところでなまえはクリスマスパーティー、ティゴリー先輩と出るの?」
「…そもそもクリスマスパーティーに出ない」

隣にセドリックがいるにもかかわらずそういうことを聞いてくる。
わかっていてやっているのか、それともただ単に気になっていたから聞いたのか。
どちらかは分からないが、どちらにしても悪質だ。

それでもなまえは何事もないかのように答えた。
パンジーは目を丸くして、何で!?と聞いてきたので、先ほどセドリックに話したのと同じことを説明した。
すると、パンジーは呆れたように言う。

「なんでそれれを早く言わないの?私のドレスでよければ貸すわよ」
「え? …いや、パンジーも出るんでしょ、パーティー」
「ドレスなんてスリザリン生の殆どが10着くらい持ってるわよ。1着くらいあげたって構わないし…むしろそんなのでいいの?って感じ。なまえはいいかもしれないけど…」

忘れていた、目の前のパンジーはお嬢様なのだ。
毎年のようにクリスマスパーティーには参加しているだろうし、そのたびにドレスを着ている。
種類も多いだろうし、もしかしたら丁寧に保管してあってパンジーよりもひとまわりほど小さいなまえでも着られるサイズがあるかもしれない。

隣のセドリックが目に見えて喜んでいるのが視界の端に見えた。

「で、でも、私ダンスとか…」
「そんなのティゴリー先輩と練習すればいいじゃない。寮に帰ったって物心ついたときからダンスしてるような男の子がいっぱいいるから、誰だって先生になってくれるわよ」

パンジーはそれこそ当たり前のようにそういってのけた。
それはそうだ、ドラコだってノットだってザビニだってダンスは踊れるに決まってる。
言えば練習にも付き合ってくれるだろう。

ただ、なまえはそれ以前に人に触られるのが好きではない。
だから、ダンスなんてしたくもなかった。

「ま、とにかく、なまえが断る理由はなくなったわね。私、なまえのドレスアップやってみたかったのよ!ヘアアレンジとか、ドレス選びとか…」

パンジーはパンジーなりにやりたいことがあるようだ。
大広間につき、パンジーはさっさとスリザリンのテーブルに向かってしまった。
一緒について行きたかったのだが、セドリックに止められてそれは叶わなかった。

「また、改めてパートナーに申し込んでもいいかな?」
「…はい」

その場では何もいえなかった。
頭の中ではぐるぐるとどうすればいいのかという文字が渦巻いていた。

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