62.友達思い
試合はクディッチよりももっと異様だった。
興奮と期待と不安が入り混じった不思議な空気が湯気のように、上に立ち上っているかのようだった。

セドリックとはドラゴンの対策について少し話し合った。
でも、中々いいアイディアは浮かばなかった。
どのようにドラゴンの気を逸らすかが問題だったが、6年生のセドリックでも難しい。

「…あれ、ドラゴンよね」
「そうだね」

こちらから見える、フィールド上の大きなドラゴン。
今はまだ眠っているようだが、立ち上がったら3メートルはゆうにあるだろう。
なまえはあの作戦でよかったのか、後悔していた。

隣で目を輝かせながらドラゴンを見ているドラコが憎らしかった。

セドリックは最初にドラゴンと戦うことになった。
遠くから見ても、セドリックの顔色はいいとは言えない。

「大丈夫かしらね…ティゴリー」
「分からない…でも、きっと大丈夫だと思う」
「ティゴリーには頑張ってもらわないとね!」

パンジーの心配はセドリックのことを思ってというよりも、ポッターを負かしたいという思いからのような気がして、なまえは嫌になった。
やきもきしている間に、試合は始まった。


結論から言えば、そう悪くない結果に終わった。
確かにぱっとしないものの、きちんと卵を取ることができたし、怪我もそう酷くはなさそうだ。
腕がもげたとかそういうことになってもおかしくない中、切り傷ひとつですむのはまだましだとなまえはそう言い聞かせた。

ポッターは恐らくセドリックよりもうまくやったと評価されることだろう。
箒を持ってくるとは、アイディア勝ちといったところだ。

だが、なまえはセドリックのやり方はあれでよかったと思っている。
なまえはセドリックに優勝して欲しいと思っているわけではない。
優勝よりも、どうか無事で居て欲しいとそう願っている。
だから、ポッターのようにリスクが大きいような戦い方はして欲しくなかった。

「ねえ、なまえ。ティゴリーに会いに行かなくていいの?」
「え?」
「救護テント、入れるみたいよ?」

パンジーは会場の脇のテントを指差した。
元々は選手専用だと思われるテントだが、よく見るとウィーズリーとグレンジャーがそこの中に入っていくのが見えた。

「でも、私、同寮ってわけでもないし」
「会いに行ったらティゴリーは喜ぶでしょうよ!」

あくまでパンジーは寮など関係なく、セドリックが喜ぶかどうかで考えているらしい。
確かにセドリックのケガの具合は気になるが、自分が行くのはいかがなものかと渋っていた。
しかし、パンジーに半ば引きずられるようにテントの傍まで連れて行かれ、挙句に突き飛ばされるように中に放り込まれた。

「おや、お見舞いかね?」
「え、あ、…」
「なまえ?」

中では丁度バグマンが話を終え、出て行くときだった。
突然入り込んだスリザリン生に周囲の目がいっせいにこちらを向いた。
なまえは恥ずかしくなり外に出ようとしたが、それを止めるようにセドリックが名前を呼んだので、それも出来なかった。

仕方がなく、俯いたまま小走りでセドリックのいるベッドの傍に向かった。

「パンジー…」
「え?」
「あ、いえ…それはいいんです。ケガは大丈夫ですか?」
「うん、大したことないよ。マダムが治してくれるしね」

なまえは自分を押したパンジーに恨み言を言いたかったが、それは今ではない。
目の前のセドリックのケガが気になる。
どうやら顔に火傷を負ってしまったらしく、軟膏を塗ってあった。
マダムは恨みがましくセドリックを見ていたが、あまりあてにされても困りますよ、とだけ言って去って言った。
それにはなまえもセドリックも苦笑せざるを得なかった。

「ポッターのアイディア勝ちって感じだったね」
「そうですね。でも、セドリック先輩だって凄かったです」
「そうかな、ありがとう」

なまえは自分で言っていてちょっと恥ずかしくなった。
人を褒めるということはあまりしないので、どういったらいいのか分からない。
でもセドリックは嬉しそうに笑ったので、これでよかったのだと自分に言い聞かせた。

「まだ、第二の試験があるからね…気を引き締めないと」
「第二の試験の内容は聞いたんですか?」
「ああ…この卵がキーワードを持ってるらしい。これを開けるとヒントが出てくるらしいよ」
「あ、蝶番がありますね」

先ほどドラゴンから奪った金の卵。
その卵にはよく見ると蝶番があり、何枚かの金属が重なり合って出来ているものであると気づいた。
卵と言うよりかは、花の蕾のようだった。

2人で卵を観察していると、見知らぬ女がぬっと現れた。

「あんら!可愛いお嬢さんですこと!そんなに顔を突き合わせて…ふんふん」
「…なまえ、もう戻ったほうがいい。マルフォイとかノットとかパーキンソンとかが待っているだろう?」
「ええ…そうですね、失礼します」

ばっと卵を見ていた顔を離して、自分の背後を見た。
きつい化粧に、釣り目の女性が羽ペンとメモをしきりに動かして何か書いている。
その女をなまえは見たことがないが、とても嫌な感じがした。
セドリックも同じこと思っているのか、なまえに戻るように促した。
その際、なぜかドラコやノットの名前をわざわざ出して。

きっと何か意味があるのだろうと、セドリックの言葉に乗っておいた。
女は羽ペンの動きを止めて、じっとなまえを見ていた。
それに気味悪さを感じながら、テントの出口に向かった。

「ドラコ」
「ああ、なまえか。救護テントの中にいたのか?」
「うん」

運よくドラコを見つけたので、捕まえて一緒に帰ることにした。
ドラコはなまえと救護テントを交互に見て、眉根を顰めた。
どうしたのだろうと救護テントのほうを向くと、先ほどの女がカメラを片手にこちらを見ていた。
ドラコはそれを睨むように見据え、なまえをエスコートしつつその場を離れた。

無言で談話室に戻ると、ドラコが1つ溜息をついた。

「お前、運がよかったな」
「…やっぱりあの人、何か嫌な人なの?」
「知らないのか?あの女はリータ・スキーターだ」
「知ってる…新聞に適当な記事を書いている人」

ドラコは、そうだと肯定した。
セドリックが焦ったのも頷ける、2人きりで話しているところをいいようにかかれてはたまったものではない。

ドラコは続けた。

「まあ僕が睨みを利かせたし、何も書かないだろうよ」
「そうなの?」
「僕のことを勝手に書けば、父上が黙っちゃいないさ」

なるほど、となまえは納得した。
セドリックがわざわざドラコやノットの名前を出したのは、それが目的だったようだ。
有名な純血の家の息子とのスキャンダルをでっち上げでもしたら、とんでもないことになる。
そのリスクを払ってまでなまえのことを書く必要性はないと思わせる必要があったわけだ。
ドラコの親の七光りの恩恵をこんなところで受けるとは思っても見なかったが、助かった。

「ありがとう、助かったわ」
「大方、ティゴリーと居たところをつけられたんだろ?厭らしい奴だな」

ドラコはスキーターのことが嫌いらしい。
まあ彼女のことを好きな人はゴシップ好きな人くらいだろう。
なまえはドラコと別れて、自室に戻った。

自室では既にパンジーがパジャマに着替えていた。
帰ってきたなまえを見たとたんに、弾丸のように話し始める。

「なまえ、どうだった?」
「どうって…」
「ティゴリーとの関係!」

ケガの具合かと思えば、なぜか関係を問い立たされた。
救護テントで何かあるわけもないのに、わけが分からない。
何もないよ、と答えて、なまえもパジャマに着替えた。
色々とあって疲れた。

「そういえば、スキーターに何かされなかった?」
「ああ…なんかつけられてたんだけど、ドラコに追い払ってもらった」
「よかったわね。あの女に狙われると面倒よ」
「セドリック先輩もドラコもそんなニュアンスのことは言ってた。でもドラコが睨みを利かせてくれたから大丈夫そう。私スリザリンでよかった」

パンジーもスキーターのことを知っていたようだ。
そこまで考えて、なまえはん?と首をかしげた。

「パンジー、なんでスキーターに何かされたと思ったの?」
「え、だってなまえがはいる前にスキーターが入っていっていたのが見えたし」
「なら私をテントに押し込んだりしなければよかったのに」
「それとこれとは話が別!それに本当に変なことかいてたら、ドラコも私もノットも親に手紙を出すわよ。友達が貶められたってね」

堂々と言ってのけるパンジーを恨みがましい目で睨んだが、彼女は動じなかった。
なまえは1つ溜息をついて、変なところで友達思いな友人を眺めた。


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