61.2人の関係
暫くして、なまえはようやくベッドから起き上がり、一般的な生活をすることが出来るようになった。
自室から出るのは実に一週間ぶりくらいだ。
身体の節々は凝り固まっていて、自分の身体じゃないように思えた。

「なまえ、大丈夫か?」
「ドラコ、お久しぶり…もう大分いいの」
「以外と病弱だよなぁ、なまえは」
「以外とは余計よ!それになまえは見た感じも病弱そうじゃない」

朝、パンジーとともに談話室に行くとドラコとザビニ、ノットが出迎えてくれた。
心配そうに様子を聞いてくるドラコ、茶化すザビニ、ザビニにフォローともなんとも言えない切り替えしをするパンジー、無言のノット。
いつも通りの日常がそこにはあった。
なまえは思わずこっそりと微笑んだ、平和だ。

しかし、その中で不思議なものが目に入った。
それはドラコとパンジーのローブについたバッチだ。

「何それ、悪趣味」
「おお、なまえよく言ったな!」
「やっぱり悪趣味だ」

バッチをつけていないザビニとノットがしきりに頷いた。
ドラコとパンジーのローブについたバッチは下品な色使いで「セドリック・ディゴリーを応援しよう」「ほんとに汚いぞ、ポッター」とちかちか光っていた。
なまえは眉根を顰めてそのバッチを睨むように見た。
セドリックだってこんな応援をされたいとは思っていないだろうとそう思った。

「まあそんなことはいいんだ。そういえばなまえ、休みの間の勉強はどうなってる?」

ポッターも不憫なことだ。
彼が本当に自分で名前を入れたとすれば話は別だが、そうでないならかなり不憫だ。
彼は何かと巻き込まれた異質のようだし、今回も悪目立ちをしてしまっているらしい。

ドラコはバッチについて言及されるのを避けてか、あからさまに話題を変えた。
勉強に関してはパンジーが毎日ノートをもってきてくれていたお陰で、支障はないだろう。

なまえは久しぶりに寮の外へ出た。
あの趣味の悪いバッチは寮に関係なく横行しているらしく、そこかしこで見かけた。
なまえはそのバッチを見るたびに眉根を顰める羽目になった。

昼食を終えて、なまえはノットとザビニと一緒に図書室に向かっていた。
魔法薬学の宿題が出ていたので、3人で知恵を出し合ってさっさと終わらせようと言う魂胆だった。

「なまえ」
「あ、セドリック先輩」
「今、いいかな?」

図書館に向かう最中に、声をかけられた。
振り返ると、セドリックが立っていた。
一応ノットやザビニとの約束が先だったので迷ったが、2人が言って来いといってくれたので、セドリックのほうへ向かった。

セドリックは笑っていたが、笑顔というよりかは困ったような泣きそうな顔だった。
彼はなまえの少し前を歩いて、裏庭に出た。
セドリックは裏庭の隅のベンチにハンカチを敷いて、座って、と促した。
なまえは素直に座って、彼を見た。

「最近、体調が悪かったんだって?もう大丈夫なの?」
「はい、大丈夫です。最近寒かったからだと思います」
「そう…無理はしないようにね」
「はい」

どうやらなまえが体調を崩していたことをスリザリンの誰かから聞いたらしい。
元々ハッフルパフの寮とスリザリンの寮は仲がいいわけではないが、セドリックは別らしい。
それか、今の状況下ではセドリックはホグワーツ内でアイドルのような存在だから、問題はなかったのかもしれない。
どちらにしても、心配をかけてしまったようだ。

それにしても、セドリックはまだ困ったような笑みを浮かべている。

「あの、先輩。どうしたんですか」
「え?何が」
「いや…なんだかえっと…そう、不安そうだから」

言葉に詰まってしまった。
セドリックの今の状態をなんと言い表せばいいか分からなかった。
しかし、なんとなくしっくりくる言葉を見つけた。
不安、それだ。

セドリックは目を丸くしたが、その後また困ったように笑った。

「なまえは本当によく見ているよね」
「そうですか?」

なまえはあまり人の感情に敏感なほうではないと自分では思っている。
だから、セドリックの言葉は以外だった。

セドリックは少し迷ったようだが、声を潜めて話し始めた。

「実は、試合内容を教えてもらったんだ。もう選手は全員知っているんだけど」
「…なんだったんですか?」
「ドラゴンさ…」

顔色が悪いのも頷ける内容だ。
ドラゴンを見たことはないが、本で読んだことがある。
マグル界でのドラゴンというのはファンタジーの世界の生き物で、凶暴なそれもいれば、人間に友好的なものもいる。
しかし、魔法界でのドラゴンは前者しか居ない。
ドラゴンは決して人に懐かない、孤高の生物だ。
種にもよるが、大抵凶暴である。

セドリックの表情も暗くなるというものだろう。

「ドラゴン、ですか」
「どうしようかと思ってね…」

そもそもドラゴンを使ってどのような試合をするのかが分からないから、中々対策も練りにくい。
恐らく、ドラゴンと戦うことは必須だろう。
協議内容に関しては分からない、ドラゴンと競争するのかもしれないし、倒すだけなのかもしれない。
どちらにせよ、凶暴で力も強いドラゴンとどう戦うのか、それはどのような競技であっても重要だ。

「…私も考えてみますね」
「いいの?」
「もちろん。有言実行です。応援するといいましたし」

とりあえず、ドラゴンの傾向と対策を練らなければ。
こんなところでセドリックに大怪我をされるわけにはいかない。
まだ一回戦なのだから。

その後、授業があるといってセドリックは行ってしまった。
なまえはまだ図書館にいるであろうノットとザビニの元へと向かった。
図書館には人は多くなかったため、2人を簡単に見つけることが出来た。
2人は黙々と薬学のレポートに取り掛かっていた。

「ごめん、2人とも」
「お、なまえ。ティゴリーとの話は済んだのか」
「うん」

ザビニがニヤニヤしながらそう聞いてきた。
なまえはそれを気に留めることもなく、軽く返す。
ノットは変わらず無言だった。

「何だったんだ?」
「…それは秘密」

さすがに試合のことを話すわけには行かないだろうとなまえは口を噤んだ。
しかし、それが逆効果であった。
ザビニは下世話な想像をしているのか、相変わらず嫌な笑いを浮かべている。
なまえはそれに不快感を覚えたが強くは言えず、ノットと同じように近くにあった本を読み始めた。

「告白されたとかか?そうだとしたらティゴリーも…」
「ブレーズ、それ以上は下世話だ。やめろ」
「それは違うとだけ言っておくけどね」

ふざけるザビニに不快感を露にしたノットが強く言った。
普段無口なノットが文句を言うのはよっぽどのことなので、さすがのザビニも悪いと思ったらしい。
なまえは一応フォローを入れて、また本に目を落とした。

ザビニは少々イラついていた。
元々、なまえはスリザリン生だし、最初に誘っていたのはザビニたちだ。
だというのに、ティゴリーはあっさりなまえを横取りしていった。
ノットもノットだ、ティゴリーの味方のようなことばかり言う。
なんだかなまえがティゴリーに持っていかれるような気がして、腹立たしい。

「なまえ、こっちの本の重要な箇所は纏めておいたから使って」
「ありがとう」

ノットはどう思っているのか、ザビニは気になっていた。
彼もまた、なまえのことを気に入っているだろう。
いや、ザビニよりもノットのほうがなまえに関しての思い入れは強いかもしれない。
ノットは本当に仲良くしたいと思う人以外とのコミュニケーションをしたがらない傾向にある。
なまえとはよく話すが、パンジーとはあまり話さないという点から見ても、その傾向はうかがえる。
ノットは嫌じゃないのだろうか、なまえがティゴリーにとられることが。

少なくともザビニは嫌だった。
なまえに恋愛感情を抱いているわけではないが、元々の性格上少々嫉妬深い面があるのを彼は自覚していた。
ザビニは悶々としながら、なまえが丁寧な字でレポートを書き上げていくのを見ていた。

なまえは2人よりも遅くに課題に取り掛かったが、それでもなんとか時間内に終わらせた。
それはザビニやノットの手伝いあってのことだと、なまえは喜んでいた。

課題を終わらせたなまえはパンジーに連れてかれてしまった。

「なあ、セオ。最近なまえとティゴリー、仲良さすぎじゃね?」
「お前はそれを気にしすぎだ」

ノットはあくまでクールだった。
書き終わったレポートを器用に畳んで、鞄の中にしまう。

「仲がいいとは思うけど、なまえにとって悪いことじゃない。スリザリン以外の友好関係があるなら、そのほうがいいだろう。なまえは元々スリザリン向けじゃない。性格はスリザリンでも」

ノットの言うことは最もだった。
スリザリンにいるのは俺やノットのように純血を気にしない奴らばかりではない。
きっと内心なまえをよく思ってない人もいる。
だから、1,2年生のときは誰もなまえに見向きもしなかった。

その間も、なまえを支えてくれていたのはティゴリーだったように思える。
ティゴリーだけは、なまえを無視することなく接していた。
それを考えれば、なまえとティゴリーの仲がいいのも当然といえば当然である。

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