58.Good morning!
テーブルの上のデザートが終わったころ、ダンブルドアが立ち上がった。
どうやら三大魔法学校対抗試合についての説明を始めるらしい。
いつの間にか魔法省の役人らしき人物が2人、席についていた。

ダンブルドアの紹介でその2人がバーテミウス・クラウチとルード・バグマンという名前で、前者が国際魔法強力部長、後者が魔法ゲーム・スポーツ部部長という肩書きであるということが分かった。
クラウチとバクグンを見ていると、肩書きがそのまま人に現れているなとなまえはそんな感想を抱いた。

「代表選手たちが今年取り組むべき課題の内容は、すでにクラウチ氏とバグマン氏が検討し終えておる。さらにお二方は、それぞれの課題に必要な手配もしてくださった。課題は三つあり、学年一年間にわたって、間を置いて行われ、代表選手はあらゆる角度から試される」

一年間、この大会を行うらしい。
運動会が年に三回に分けられていると考えると盛り上がりに欠けないのかとも思ったが、そんなことはないのかもしれない。
その運動会が100年に一度しか行われないのだから。

あたりは非常に静かだった、いつもは騒がしいグリフィンドール生もさすがに空気を読んでいる。

「各校から1人ずつ代表選手を選ぶ。選手は課題の一つ一つをどのように巧みにこなすかで採点され、三つの課題の総合点が最も高いものが、優勝杯を獲得する。代表選手を選ぶのは、公正なる選者…炎のゴブレットじゃ」

ダンブルドアは杖を取り出し、フィルチの持ってきた木箱を軽く叩いた。
すると木箱が空いて、中から取り出されたのはゴブレットだった。
木で出来たそれは派手な装飾と言うわけではないが、どこか荘厳な雰囲気を醸し出していた。
ゴブレットの淵からは絶え間なく青白い炎が飛び散っている。

代表者として名乗りを上げたいものは、24時間以内にそのゴブレットに名前と所属校を書いた紙をいれる。
ゴブレットの周囲には年齢線がひかれているため、年齢制限に引っかかるものはゴブレットに近づくことすら出来ないらしい。
それだけ話すと、ダンブルドアは生徒達に寮に戻るように促した。

色々とあって疲れていたので、なまえはパンジーを置いて足早に大広間から出ようとした。
パンジーはボーバトンの女子生徒といつの間にか仲良くなって、お喋りをしていたからだ。

「もう行くのか?」
「え、ええ…あの、さっきはありがとう。怖がったりしてごめんなさい」
「いや、いいんだ。どういたしまして、またどこかで」

席を立つと、クラムがなぜか声をかけてきた。
見かけによらず案外優しい人のように思えた。

なまえは大広間を出て、外の空気を吸い込んだ。
大広間よりもひんやりとした空気は、頭をスッキリさせる。

それにしても、やはり三大魔法学校対抗試合は危険な匂いがした。
学校は基本的に魔法省の干渉を受けない。
しかし、今回は魔法省の協力の下行われる。
つまりは学校の力や物だけではなく、魔法界全体から集められた難題が襲い掛かってくるということだ。

もし、これの代表にセドリックが選ばれたらどうなるだろう。
どんな課題がくるかは分からないが、それを乗り越えることが出来るのだろうか。

「どう思う?」
『僕も実際には見たことがないからなんともいえないけれどね。文献を探るのが一番いいんじゃないかな?100年位前にも開催されているなら記録が残っていると思う』

スリザリンの寮に向かう階段を降りつつ、リドルの意見を伺った。
最もな意見を貰ったので、明日にでも図書館に行って調べてみようと思いつつ、寮の合言葉を唱える。
談話室には誰も居なかった、どうやらなまえが一番乗りらしい。

談話室を突っ切って、自室に戻る。
先ほどまで読んでいた本をもう一度開いた。
本の内容は「保護魔法と防衛術」である。

『本当に作るつもりなの、これ』
「うん。私、持ち物は少ないほうだけど無くすの、いやなの」

その本のあるページを見ていると、リドルが怪訝そうにそう聞いてきた。
そのページには付箋が張ってあり、メモ書きも多くある。
色々と考えたのだが、やはりこれが必要だとそう思っているのだ。

作るのには非常に労力と魔力がかかるだろう。
それこそ、授業に影響が出るくらいには魔力が削られる。
しかしそれでも、なまえはやろうと決めていた。
すべては自分のテリトリーを守るため、自己満足だ。

『まあ…いいけどね、止めないよ。でも慎重に。分かってると思うけど、それは禁書レベルだからね』
「気をつける。ありがと、リドル」
『何かあったらすぐに言うんだよ。舐めてかかると呑まれるからね』

リドルは少々不服そうだが、それでも応援してくれているようだった。
なまえは微笑んで礼を言った、はっきり言ってこれを1人で作り上げるのには無理があった。
しかし、リドルが事あるごとに色々とアドバイスをしてくれたので、構成もしっかり理解できた。
時間はかかるが、きっとうまく出来るだろう。

なまえは嬉しそうに、引き出しからシルバーのシンプルなブレスレットを取り出した。

『いつやる?』
「決まってからにする。杞憂で終わってくれればそれが一番だから」

これを実行に移すかどうかは明日の夕方にかかっている。
なまえは早めにシャワーを浴び、ベッドに潜り込んだ。

明日は、ハロウィンだ。
早めに起きてお菓子を作って持っていこう、と考えながら眠りに就いた。


次の日なまえは誰よりも早く起きた。
時刻はまだ早朝4時。
髪の毛を1つに括って、静かに寮を出た。
血塗れ男爵は微かに眼を開いて、溜息ながらに扉を開けてくれた。

厨房は甘い香りで充満していた。
今日はハロウィンなので屋敷僕たちも大忙しだ。
邪魔にならない程度の場所で、適当に材料をもらってクッキーを作り始めた。

「お嬢様!こちらにアーモンドプードルをご用意しました!!」
「ありがとう。毎年ごめんなさい」
「謝らないでください!これが私たちの仕事です!」

屋敷僕たちはとても優しい。
アーモンドプードルにチョコ、ナッツ、レーズン、シナモン…何でも持ってきてくれる。
彼らには彼らの仕事があるので邪魔をしたくはないのだが、好意で彼らはこちらの手伝いをしてくれた。
全く純粋で素晴らしい生き物だ。

なまえはせっせとお菓子を作り上げた。
今年は棺桶を模したフィナンシェ(色が黒いが焦げているわけではない。あとホワイトチョコで少々絵が描いてある)、それからパンプキンクッキーにした。
保護魔法をかけ、それらを籠に入れて厨房を後にした。
時刻はまだ6時だった、厨房から出てハッフルパフの寮の前を通ろうとしたときだ。

「セドリック先輩…?」

前から歩いてきた人は、セドリック先輩だった。
こんな早い時間から何をしていたのだろうと不思議に思ったが、その静かな面持ちにすぐにぴんと来た。

「なまえ?おはよう、随分と早いんだね」
「先輩こそ…あ、これどうぞ。今日はハロウィンなのでお菓子を作っていたんです」

とりあえず焼きたてのお菓子の小袋をセドリック先輩に2つ持たせた。
1つはスティーブ先輩へあげるためのものだ。

「ありがとう!今年も凄く凝ってるね…美味しく頂くよ。こっちはスティーブの分?」
「そうです。これで悪戯はなしですよって伝えて渡してください」
「うん、わかった」

セドリックは苦笑しながらそういった。
いつだったかスティーブの分のお菓子を忘れていたら、彼から悪戯をされたのだ。
たいしたものではない、一日制服のスカートがとても短くなるというものだ。
だが、非常に恥ずかしかった。
それ以来、スティーブへのお菓子を欠かさなくなったのだ。
その件を知っているセドリックは苦笑しながら、承諾してくれた。

「先輩、もしかしてゴブレットに名前を入れてきた帰りですか」
「…どうしてそう思うの?」
「勘です」

フィナンシェを観察していたセドリックに、なまえは単刀直入に聞いた。
セドリックはフィナンシェからなまえに視線を移した。
ちょっと驚いたようになまえを見、少し目を細めて聞き返してきた。

勘、とは言ったがそれは半分本心、半分は嘘だった。
目立つのがあまり好きではない謙虚なセドリックのことだから、ゴブレットに名前を入れるなら早朝にするだろうとなまえはそう考えていた。
だから、今ここで会ったということは、つまりはそういうことだろうとそう思ったのだ。

「うん、入れてきた。なまえは怒ると思っていわなかったんだ」
「怒る?」

セドリックは少しバツが悪そうに目を逸らした。
なまえは意味が分からずにきょとんとしていた。
別に怒るような要素はないが、何をそんなに怯えているのだろう。

「だって、なまえは前に言ってたじゃないか。危ないだろうからって」
「確かに言いましたけど…応援するとも言いましたよね?」
「そうだけど…」

どうやらセドリックはなまえが危険だといっていたにもかかわらず、何も言わずに名前を入れたことに罪悪感を持っていたらしい。
なまえは確かに忠告をしたが、決めるのは本人の意思であると思っていたから、まさかそんなに気にされていたとは思ってもみなかった。

「応援しますよ。お手伝いできることならしますし。頑張ってください」
「本当?ありがとう!嬉しいよ!まだ選ばれてないんだけどね」

セドリックは嬉しそうに笑って、そういった。
蜂蜜色の髪が朝日に揺れて、ヒマワリみたいに見えた。


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