56.せかいの魔法
そのあとはなんの変哲もない日々が続いた。
ケナガイタチになったドラコを助けた次の日に、ドラコからお礼を言われたくさんのお菓子を貰ったくらいだ。
授業もそう問題なく進んだ。
問題だったのは初回の授業の時点で、これはと思った授業だけだ。

防衛術の授業と魔法生物学の授業、この2つはやはり厄介だった。
ムーディーは変わらず皮肉を織り交ぜながら、禁じられた呪文について事細かに教えてきた。
服従の呪文の勉強では、それを生徒にかけるという暴挙に出たくらいだ。
なまえは運よくあたらなかったが、パンジーが当たってしまい、兎跳びで教室をぐるぐるさせられていた。

生物学では尻尾爆発スクリュートが急成長を遂げた。
それを喜んだハグリッドが成長日記を書かせるというのだから、大ブーイング。
さすがのなまえもうんざりしていた。

そんな日々が過ぎ、頬に当たる風が随分と冷たく突き刺さるようになった頃。
ホグワーツ内は酷くざわめいていた。

「いよいよ今日の6時だろ?」

今日の6時に、三大魔法対抗試合の相手学校がやってくる。
授業を30分早く切り上げて、お出迎えをするらしいのだ。
ホグワーツ内はいつにもない緊張感と興奮で満ち溢れていた。

なまえは余り興味がないようで、マフラーを巻いていくかどうかで頭を悩ませていた。
結局マフラーを巻こうとして部屋に戻ろうとしたところをパンジーにつかまってしまい、そのまま校庭へ出た。

校庭には既に多くの生徒が屯していた。
みな好奇心で眼を輝かせ、他校の生徒が来るのを今か今かと待ちわびていた。
興奮しているせいか、マフラーを巻いていなくても寒そうにしている人はいない。
が、なまえは興奮しているわけでもないし、寧ろ他校になど興味はなかった。
最後列に近い場所であるため、人気も少なく、風を避けることができない。
冷たい秋風に晒され、肩を震わせる。

「…いるか?」
「ノットは寒くないの?」
「別に平気」

パンジーとザビニ、ドラコはもっと前で見たいらしく、なまえとノットを置いて最前列のほうへ向かってしまっていた。
なまえが震えていることに気づいたのか、ノットが自分の首に巻いていたマフラーをなまえの首に掛けた。
モスグリーンのマフラーはまだ温もりが残っていて暖かい。
なまえはそのマフラーに顔をうずめて、ちらりと上を見た。
雪が降りそうな曇天が広がっていた。

それとは対照的に浮き足立った生徒達の前列から波打つように歓喜の声が聞こえた。
同時に、曇天を裂くように天馬が現れる。
それにはなまえもノットも驚いた。

「あれ、どっちの学校だと思う?」
「フランスのほうじゃない?あれでダームストラングですなんて言われたらギャップにお腹が捩れて夕食食べられなくなりそう」

ノットはなまえの発言にクスリと笑って、確かにと答えてくれた。
なまえのジョークなんて珍しいなという言葉は飲み込んだ。

天馬は徐々に高度を下げ、やがてドーンと大きな音を立てて着陸した。
着陸した姿は前にいる生徒達で見ることができなかった。
なまえは馬車を引いていた天馬を間近で見たかったなと少々後悔していた。
ダームストラングはどんな動物で来るのだろうと勝手に想像していたが、その想像は裏切られることになる。

ダームストラングの到着を知らせたのは、前列に居た生徒達だった。
口々に、帆が、とか船だ!とか言っていたので恐らくは船で来たのだろう。
なまえは船を引いているのが大きな水魔だというなら大喜びだが、そうでもなさそうだったので相変わらず無関心だ。

「先に戻ろう。混み合う前に」
「そうね…一旦寮に戻ればいいのよね?」
「そうだね」

ぼんやりとあたりを見ていたなまえにノットは声を掛けた。
前のほうではまだ生徒達がざわざわと話し合っている。
しかし、他校の生徒はもう既に居なくなった後のようだ。
試合の終わった観戦席と同じような雰囲気が漂っていた。

ノットの後ろを歩くと、夏休みのことを思い出した。
夏休みに行ったクディッチのワールドカップ。
ノットよりもひとまわり大きなセドリックの背中を思い出した。

もやもやとした気持ちが心の中に広がった。

「大丈夫かな」
「何が?」
「ううん、こっちの話」

寮の談話室にはまだ誰も居なかった。
ノットは暖炉に火を入れて、暖炉前のソファーに座った。
なまえはノットのマフラーを巻いたまま、彼の隣に座った。

今年に入って、新しく来たムーディーのこと、始まる三校合同試合のこと…心配事は尽きない。
昔はそんなんじゃなかったのに、となまえは考えた。
今は傍においておきたい人が増えたからこのような気持になることをなまえは気づいていない。
談話室がほんのりと暖かくなった頃、なまえはノットにマフラーを返した。

「ありがとう、あったかかった」
「どういたしまして。なまえって細いし、常日頃から寒そうだよね」

そんな風に見られていたのかとなまえは苦笑しつつ、ノットと話をした。
ノットは今年のなまえへのクリスマスプレゼントはマフラーかニットか…と考えていた。

バラバラと談話室には人が増えてきた。
先に帰ってきたのは上級生達だった、皆寒かったのか暖炉の近くに寄ってきたので、温まっていたなまえとノットは席を譲って、談話室の隅に移動した。

「さっぶー!…お、ノットとなまえじゃんか。早いな」
「一番乗りに帰ってきたよ」
「2人らしいな」

少しするとドラコとザビニが2人一緒に帰ってきた。
この2人が2人きりでいるのは珍しい、案外仲が悪いのだ。
だが、三校対抗試合という共通ワードがある今は別らしい。
ノットの隣に2人が座ったので、ソファーはぎゅうぎゅうだ。
なまえはそれを嫌がってソファーから立ち上がった。

「私、部屋に戻ってる」
「おお、夕食に遅れないようにな」

なまえはソファーから立ち上がり、女子寮へ向かった。
女子寮も人はまばらでとても静かだった。
多くの人は寮に戻ることなく大広間に行こうとしているのかもしれない。

部屋には誰も居なかった、パンジーも帰ってきていない。
なまえはベッドに座り、本を開いた。

「僕も他の学校の生徒を見るのは初めてだな」
「気になる?」
「そこまでではないけれど、気になるといえばそうかな」

リドルは実体化をするとカーテンを静かに閉めた。
部屋には誰も居ないものの、用心するに越したことはない。

なまえはリドルが出てきたので本から顔を上げて、彼を見た。
リドルは微笑を浮かべてこちらを見ていた。
以外とリドルはミーハーな部分もあるらしい。
彼にとっての「気になる」は結構興味を持っている証拠だ。

確かに、ホグワーツ以外の魔法学校の様子というものは殆ど知らない。
他の魔法学校の場所は確か、ブルガリアとフランスだったか。
どちらにせよ西洋だ…東洋には魔法学校は存在しないのだろうか。

しかし、東洋の魔法というと陰陽師など若干の差異がある。
なまえが見る幽霊と西洋のゴーストの差、リドルのような存在。
リドルは記憶だといっていたが、それはつまり生霊に近いものだ。
それは西洋も東洋も同じような感じであると思われる。
細かいところまで言えばそれこそ卒業論文にできそうな議題ではあるとそう思った。


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